交響曲第9番ニ短調

チェリビダッケ&ミュンヘン・フィル(81)
ヴァント&北ドイツ放送交響楽団(01)
ヴァント&ミュンヘン・フィル
チェリビダッケ&ミュンヘン・フィル(86)
ハイティンク&コンセルトヘボウ管(81)
ヴァント&ベルリン・ドイツ響
ジュリーニ&シュトゥットガルト放送響
カラヤン&ベルリン・フィル(75)→First choice
ライトナー&シュトゥットガルト放送響
ヴァント&シュトゥットガルト放送響
ショルティ&シカゴ響
ヴァント&北ドイツ放送交響楽団(93)
クーベリック&バイエルン放送響
ハイティンク&ベルリン・フィル
ロペス=コボス&シンシナティ響
クーベリック&ベルリン・フィル
ジュリーニ&シカゴ響
ケーゲル&ライプツィヒ放送響(75)
アーノンクール&ウィーン・フィル
カラヤン&ウィーン・フィル(76)
ブロムシュテット&ゲヴァントハウス管
レーグナー&ベルリン放送響(東)
ジュリーニ&ウィーン・フィル
シノーポリ&シュターツカペレ・ドレスデン
シャイー&コンセルトヘボウ管
ケーゲル&ライプツィヒ放送響(69)
ティントナー&ロイヤル・スコティッシュ管
ヨッフム&ミュンヘン・フィル
カラヤン&ベルリン・フィル(66)
アイヒホルン&リンツ・ブルックナー管
ムラヴィンスキー&レニングラード・フィル
ヴァント&ケルン放送響
ハイティンク&コンセルトヘボウ管(65)
バレンボイム&シカゴ響
カラヤン&ベルリン・フィル(85)
ヴァント&北ドイツ放送交響楽団(88)
カイルベルト&ハンブルク国立管
バーンスタイン&ウィーン・フィル
ワルター&コロンビア響
チェリビダッケ&シュトゥットガルト放送響
マタチッチ&ウィーン響
朝比奈&東響(91)
マタチッチ&チェコ・フィル
グッドール&BBC響
チェリビダッケ&ミュンヘン・フィル(95)
バーンスタイン&ニューヨーク・フィル
C・デイヴィス&ロンドン響
チェリビダッケ&ミュンヘン・フィル(91)
ホーレンシュタイン&BBC響
サヴァリッシュ&バイエルン国立管
スダーン&モーツァルテウム管
バレンボイム&ベルリン・フィル
ロジェストヴェンスキー&ソヴィエト国立文化省響
シューリヒト&ベルリン市立(歌劇場)管
スクロヴァチェフスキ&ミネソタ管
ヴァント&ベルリン・フィル
シューリヒト&ウィーン・フィル(55)
カラヤン&ウィーン・フィル(78)
ヘンヒェン&オランダ・フィル
デルマン&トスカニーニ響
ワルター&ニューヨーク・フィル(53)
コンヴィチュニー&ライプツィヒ放送響
エッシェンバッハ&北ドイツ放送響
シューリヒト&バイエルン放送響
クナッパーツブッシュ&バイエルン国立管
フルトヴェングラー&ベルリン・フィル
クナッパーツブッシュ&ベルリン・フィル
インバル&フランクフルト放送響
メータ&ウィーン・フィル
ワルター&ニューヨーク・フィル(46)
ドホナーニ&クリーヴランド管
シューリヒト&シュトゥットガルト放送響
ヨッフム&ベルリン・フィル(77)
マズア&ゲヴァントハウス管
ヨッフム&ベルリン・フィル(64)
ギュラー&エスリンゲン青少年南独フィル
シューリヒト&ウィーン・フィル(61)
スクロヴァチェフスキ&ザールブリュッケン放送響
ヨッフム&シュターツカペレ・ドレスデン
クレンペラー&ニュー・フィルハーモニア管
シューリヒト&フランクフルト放送響
朝比奈&大阪フィル
朝比奈&東響(96)
朝比奈&新日本フィル
アーベントロート&ライプツィヒ放送響
テイト&ロッテルダム・フィル

(番外)
スヴェトラーノフ&ロシア国立響(第3楽章アダージョのみ)
ヴァント&北ドイツ放送交響楽団(2000年来日公演の映像)

(論外中の論外)
「コブラ」名義による打ち込み演奏

> 98年に出たBPO盤との9番(BMG)が私にとってヴァントのブルックナー
> 初体験でした。名古屋の中古屋で発売後1ヶ月ほど経ったある日見つけまし
> た。CDジャーナル誌で絶賛されていたので期待していましたが、「これ
> が!?」と正直言って失望しました。既所有のハイティンク盤(PHILLIPS)
> の方がすっといいと思いました。「こんな名盤はいらない」を読む以前のこ
> とです。同じ日に買ってきた8番(NDRとの93年BMG盤)の方は素晴ら
> しく、ヴァントとの縁は切れずに済みましたが、もし9番だけだったら、私
> も「わざわざ聴くには及ばない」「やはりヴァントはヴァント」などと某M
> 氏のように思ってしまうところでした。さて、前置きが長くなりましたが、
> 「未完成」との抱き合わせ販売が気に食わず、手を伸ばす気がしなかったミュ
> ンヘンとのSARDANA盤を昨年やっと通販で買いましたが、2倍近い額をだ
> しても全然惜しくないほど深く感動し、これがダントツのベストになってい
> ます。それ以降他の演奏を聴く機会はガクッと減りましたが、次点にはカラ
> ヤンBPOの75年盤(DG)を挙げます。これは私が所有するブルックナーの
> 全てのCDの中で最も美しい演奏であると断言することにためらいはありま
> せん。ヴァントのSARDANA盤は何といっても裏の世界の品ですから、今後
> 何十年も皆に聴かれ続けるであろう演奏は実はこのカラヤン盤ではないか、
> とまで思っています。カラヤンでは翌76年のVPOとのライブ盤(DG)も
> 彼らしくない荒々しさが魅力です。ムラヴィンスキー盤(メロディア)と似
> ていると感じるのは私だけでしょうか?ここで脱線させてもらって両指揮者
> の違いについて触れさせていただきますと、カラヤンは録音ごとに違った魅
> 力があるので、異演奏を揃えていたくなる。(4番は2種、789番は3種
> ずつ正規盤を持っています。)これに対して、ヴァントはべストが手に入っ
> たらベターは要らなくなる。(他の3種の演奏はもう聴く気がしません。)
> 私はそのように思っております。そしてチェリビダッケも明らかにカラヤン
> 型で、少なくともシュトゥットガルトとミュンヘンとで1セットずつは持っ
> ていたいと思わせます。他に1人だけ挙げるならば、ジュリーニがシカゴ盤
> (EMI)、VPO盤(DG)とも素晴らしいと思います。

 上に書いた通りヴァント&MPOがトップであり、これを脅かすような演奏に今後巡り会える可能性はほとんどないと思っている。チェリ&MPOの海賊盤(AUDIOR)が3位に食い込んだ。同レーベルからはシューマンの4番とセットになった別演奏も発売されているようだが未入手である。(録音がもう一つのようだから、さほど執着してはいない。)かつてカラヤン盤の単発ものとして唯一入手可能だった66年盤はファースト・チョイスとしては推せない。一方、75年盤は怪しげな海賊盤(いわゆる「駅売りCD」など)でしか入手できないという状態が続いていたが、2001年に4番と組み合わせた廉価2枚組として再発された。この演奏をファースト・チョイスに挙げる。ただし、4番の方は相当にアクが強い演奏なのでビギナーは聴かない方がいい。捨ててしまうか、しばらくの間施錠の出来る容れ物で厳重に保管されることをお勧めする。(←危険物かい)

2004年8月追記
 今月入手したチェリ81年盤が初登場で1位にランクインしたので、MPOによる演奏がトップ3を占めることになったが、当然の結果だと思う。今の私には上位3枚と4位以下との間には相当な開きがあると感じられる。

2004年11月追記
 ヴァント&MPO盤を聴き直し、少なからぬ音質差によって1位と2位が交替した。

2005年5月追記
 先月入手した新装置でチェリ81年盤を聴いたところ、あまりの美しさと立体感に呆然としてしまった。よって、またしても入れ替わり。このようにランキング最上位については今後も迷走する可能性があるが、トップ3に食い込んでくるようなディスクは上のリストに載っているものにはやはり見当たらない。

2007年1月追記
 前言を翻すことになった。昨年末に入手したヴァントの2001年NDR盤を2位に割り込ませる。


サイト立ち上げを機に、この曲について私が前から書きたかったことをついに文字にすることにした(2004.4.13執筆開始)。

 たぶん1986年だと思うが、ハイティンク&コンセルトヘボウ管のディスクで初めてこの曲を聴いた時、私は「これは宇宙のはじまりを表している」と直観した。「ドッカーン!」という大爆発を彷彿させる2分30秒頃の全奏は「ビッグバン」そのものだと思ったのである。そうすれば、大爆発以前のモヤモヤした音楽が宇宙誕生前の混沌ということで辻褄が合う。もちろんブルックナーの存命中にはビッグバンなど知られているはずもない。彼は本能的に宇宙誕生の秘密を知ってしまったのだ。(ベートーヴェンの第9を聴いていると、いい線までは行っていたものの残念ながら核心には辿り着けなかったように感じる。)
 その後、物理学(素粒子物理とか量子力学)や天文学(観測技術)が進歩するとともに、宇宙の誕生直後のことがより詳しくわかってきた。科学雑誌に繰り返し掲載された解説を読むうちに、この曲が宇宙の誕生から終わりまでを表現しているという私の確信はもはや揺るぎないものとなった。
 最新の理論によると、宇宙はトンネル効果(無と超ミクロ宇宙とを結ぶ量子論の効果、ってナンノコッチャ?)によって無から生まれたということである。「ボコッ」という感じで実にさりげなく生まれたのである。つまりブルックナー開始こそが宇宙誕生だったのである。この後しばらく混沌状態が続くが、ホルンが高らかに歌い上げた後(50秒頃)は澄み切ったような(何か吹っ切れたような)境地を表すような曲調になり、次第に盛り上がっていく。特に大爆発直前の「ドシラソ#ドシラソ#ドシラソ#ドシラソ#ドシラソ#ドシラソ#ドシラソ#ドシソ#ミ」は凄まじい。ここが宇宙誕生から10のマイナス44乗秒後に始まった「インフレーション」である。これは「真空のエネルギー」によって宇宙が指数関数的に急膨張する(わずか10のマイナス数十乗秒という短い時間の間に何十桁も大きくなった)現象のことである。インフレーションが終わると(10のマイナス33乗秒後)真空のエネルギーが熱エネルギーへと転化され、宇宙は灼熱状態となった。これが「ビッグバン」である。その後、原子核に電子がとらえられ、電子に散乱されていた光が直進できるようになる。いわゆる「宇宙の晴れ上がり」である(30万年後)。第1主題部によってここまでが表現されている。当時の物理学についてもおそらくは明るくなかったであろうブルックナーが、これだけの正確さでもって宇宙の誕生を音にしてしまったのは全く恐るべきことである。
 ここで曲冒頭に話を戻すが、私は物理はからっきし(高校時代は赤点スレスレ)で実はNewtonの解説を読むのもシンドイという人間なので、ここからはやはり強引なこじつけでも宗教関係に話を持っていってしまう。オーボエその他による「ラー」(D音)に呼応するようにホルンが1オクターブ低く「ララー」を吹く。この1オクターブ違いのやり取りが何度も繰り返されるのは、あたかも掛け合いのように聞こえはしないだろうか? そうなのである。これは宇宙を創造した神と何者かの対話である。ではその「何者」とは何か?
 キリスト教ではそのような存在は認めていないが、仏教には出てくる。釈迦は悟りを開いたものの、「自分の見い出した法はとても深いので、欲に目が眩んだ民衆にはたぶん理解できないだろう」と教えを広めることに消極的であった。天上でそれを眺めていた梵天(ブラーマ=バラモン教の最高神)は「このままではこの世は滅んでしまう」と危惧したので、「力士の曲げたる腕を伸ばし、伸ばしたる腕を屈ぐるがごとく、すみやかに」釈迦の前に現れて、「世尊よ、法を説きたまえ」と三たび勧めたという。
 戻って、ブルックナー開始直後の「ラー」は溜息のようである。気力がまるで感じられない。神は宇宙を創ったものの、これを育てていく意欲がどうにも湧かない。(もしかしたら目を離した隙にできてしまったのかもしれない。いくら何でも「できちゃった宇宙」は不謹慎だろうが。)そこで思わず溜息が出る。誕生した宇宙に構おうともしない神に対して見かねた「梵天」が話しかける。

「ハァー」(またやってしまった・・・・)
「どうしたのだ? 宇宙を育てないのか?」
「いやです。」
「いったいどうして?」
「これまでは全て失敗作でした。また同じことでしょう。」
「今度こそ上手くいくかもしれないではないか?」
「私にはその才がないのです。」

こんなふうにして対話は続くが、ついに神は説得に折れて天地創造に取り組むことを決意する。ホルンの咆哮は神の決意表明を聞いた「梵天」の歓びの声である。「これでもう安心だ。宇宙は握りつぶされずに済んだ。」(インフレーションが不十分だと誕生直後の宇宙はアッという間に潰れてしまう。ちなみにインフレーション以前の宇宙には物質は存在せず、現在の時間とは異なる「虚数時間」が流れていたということである。こうなると私には全くチンプンカンプンであるが、「梵天」は「虚数時間」の世界の住人といえるのかもしれない。)
 あとはインフレーション→ビッグバンと一直線である。それ以後は創世記に書かれているような手順で創造が進められた、のかは知らないが、敬虔なクリスチャンであった作曲者の頭の中にはそれがあったと思う。6日目に一組ずつ地上の動物および人間が作られ、ついに創造は成し遂げられた! 第1楽章のコーダは、7日目(安息日)の神による歓喜の踊りである。「ドシーン、ドシーン」という地響きが表現されている。であるから、冒頭の重要な動機「ララー」が回帰してこない(「ララー・ララー・ララー」がハッキリと聞き取れない)演奏は全てスカであるといっても過言ではない。(←言い過ぎだって)
 第2楽章は人間の世界である。地球外生命のことは作曲者の念頭には全くなかっただろうし、ここが人間(地球人)中心になるのもやむを得ない。スケルツォ主部は人類による破壊活動である。神の希望を嘲笑うかのごとく、自然破壊と殺戮が容赦なく繰り返される。中間部は神の「やっぱり失敗だったか?」という焦燥と憂いである。愚行は止む気配がなく、ついに神は人類を滅ぼすことを決意する。
 第3楽章冒頭の主題は神の慟哭である。しばらく回想した後、神はひと思いに人類を滅ぼしてしまう。ハ長調による全奏は地球を思いっ切り上から踏んづけているようである。これが立て続けに2度繰り返され、地球上の生命は息も絶え絶えとなる。が、それに飽きたらず、後半部のダメ押し(再度の踏み付け)によってトドメを刺す。10対0で勝敗が決しているにもかかわらず、ノーアウト2塁から送りバントとスクイズで11点目を取るような徹底ぶりである。
 私は永井豪の「デビルマン」はTVアニメでしか(それも断片的にしか)知らないのだが、院生時代に後輩が研究室に置いていた原作(なぜか最終巻だけあった)をパラパラとめくっていて、そのラストシーンに衝撃を受けたことがある。(あとは忘れてしまった。)生きとし生けるものが死に絶え、上半身だけチョン切られたデビルマン(不動明)も絶命する。後に残されるのは完全に静まりかえった世界。第3楽章の終わりの数分を聴いて、あの場面を思い浮かべるのは私だけだろうか?(←たぶんそうだ。)
 ここで曲はいったん完結する。だからこの先はなくても構わない。どうしても続けるなら「復活」以外考えられないだろう。で、ブルックナーは書き始めた。これまでと同じく霊感のままに。そして神は焦り始めた。「この男は私の過去、現在および未来の振る舞いをことごとく正確に描写してしまった。人間には立ち入ることが許されていない領域に大きく足を踏み入れてしまっている。このままにしておくわけにはいかない!」 作曲者が第4楽章を完成させることなく召されたのも当然である。そして、こんなことを書いている自分も長くはないのかもしれない。
 この文章を作成するにあたり、金子建志の「ブルックナーの交響曲」の楽曲解説を参考にさせてもらった。が、こんな妄想まがいの解釈を目にしたら彼は愕然とするだろう。自分でも結構ヤバイ文章だという気もするが、東京在住Mさんのヤバさには負けているように思う。まだまだ真剣さが足りない。

2004年5月追記
 全く偶然ではあるが、「TVアニメ『デビルマン』の最終回にて交響曲第三番の第W楽章冒頭が使われていた」という旨の投稿がブルックナー総合サイトになされていたのを知った。Macだと修飾数字が文字化けして省略記号になってしまうが、前後関係から判断するに「(協)」はたぶん「「」(←報復措置)のことだろう。それはともかくとして、同じような考えを持つ奴(←ここではアニメ製作者の誰かを指す)は必ずどこかにいるものである。ちょっと悔しい。

2005年4月追記
 新年度からのパソコン更新に伴いブラウザも"Firefox"というのを使っているが、久しぶりに上を眺めてビックリした。何とこちらの画面上でも文字化けしてしまっているではないか!(「W」も「「」も私が意図した通りには表示されなくなっている。)これでは「報復」というより「自爆テロ」である。修正を試みたが、どうあがいてもダメだったので仕方なくこのまま放っておくことにした。(なら削除すりゃいいものを。全くもって潔くない奴ぢゃ。)

2004年6月追記
 1998年に宇宙の膨張が加速しているという驚くべき観測結果が発表された。また2003年2月以降に明らかになったことであるが、現在の宇宙の構成要素は普通の物質がわずか4%で、正体不明物質の「ダークマター」が23%を占めるという。(2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊がスーパーカミオカンデによって検出することに成功したニュートリノは、かつては宇宙の膨張にブレーキをかける「ダークマター」の有力候補だったが、比率はせいぜい1%程度であり、どうやら主役ではないらしい。)そして、残りの73%はさらに正体不明の「ダークエネルギー」であり、宇宙膨張においてアクセル役を演じているのだという。それが宇宙創成時に「インフレーション」を引き起こした「真空のエネルギー」と同じものだとすると、この先宇宙は永遠に膨張を続ける。宇宙はやがてブラックホールだらけとなり、それらが光を発しながら全て「蒸発」してしまうと正真正銘の暗黒となり、最終的な死が訪れる。少し前の宇宙論で予言されていたのは「エントロピー無限大の宇宙」、つまり全ての場所が同じ温度、同じ物質密度となり、宇宙全体が何も起こらない「絶対的な静止状態」(宇宙の熱的死)に至るというものであった。いずれにしても、第3楽章の終わりと恐ろしいまでに合致しているではないか。
 ところが、「ダークエネルギー」は先述したように謎に包まれている。(理解するには100年かかるという学者もいるほどである。)「定数」ではなく宇宙の進化とともに値が変わるものだとすれば、現在の加速膨張も一時的な「ミニインフレーション」に過ぎず、この先加速が鈍る、さらには収縮に転じることもあり得るのだという。後者の場合、最終的に宇宙は潰れてしまう(ビッグクランチ)。私は第4楽章の補筆完成版をインバルおよびアイヒホルンの演奏で聴いているが、いずれも土壇場で第1楽章冒頭の「ビッグバン」のテーマが回帰してくる。ブルックナーがこの楽章で「復活」の描写を試みたと私が考えていることに変わりはないが、もしかするとお終いで「ビッグクランチ」を予言しようとしたのかもしれない。フィナーレを完成することが許されなかった本当の理由は何だろうか?

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