交響曲第9番ニ短調
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団
96/09/20
haenssler CLASSIC CD 93.186

 前日(1996年9月19日)の演奏はリハーサル付きでDVDとして市販されていたが、この20日の方は長いこと南西ドイツ放送協会の自主制作盤(MAS 375)でしか入手できなかったらしい。ちなみにその「超レア盤」は、ヤフオクで10000円で出ていたけれどもあまりの高値のため誰も手を出さなかった模様である。そのうち見なくなってしまったが、検索してみたところ、今年(2006年)7月25日に6000円で再出品され、その2日後に無競争落札されていたことが判明した。もちろん値下げは当盤のリリース情報を得たからであろう。出品者にはご苦労様、落札者にはお気の毒様の言葉を贈りたい。(ネットオークションの転売で稼いでいる人間にとって廉価再発はまさに天敵である。その情報が知れ渡る前に高値で売り抜ける苦労は並大抵ではないと想像する。)
 既にDVDの方が名演の呼び声が高かったから、当盤入手に際して何の不安もないどころか大いに期待していた。これまで聴いた他指揮者とシュトゥットガルト放送響の共演によるブル9がことごとく素晴らしかったという記憶もそれを強烈にサポートする。HMV通販の紹介文にも記載されているが、極度に肥大して「ブヨブヨ」の感があった88年VPO盤はもちろん、76年のCSO盤よりも総演奏時間が1分以上短くなっている。(最後に拍手が30秒ほど収録されているため終楽章の正味の演奏時間は25分ちょっと、トータルタイムは約61分50秒となる。)これは意外だったが、最初の録音以上に引き締まった演奏になっているということである。しかも向こうはマスタリング担当者がアレだったから、音質の方も相当上回っていると考えるのが道理というものである。嬉しいことにそれらの予想は全く裏切られなかった。ビッグバン付近の響きを聴き比べれば明らかだ。剛毅なスタイルは同じだが、上っ面で鳴っているだけにしか聞こえない76年盤とは仕上げの細かさや表現の深さがまるで違う。
 演奏時間についてもう1つ注目すべき点がある。両端楽章のトラックタイム差である。ジュリーニの過去2度の録音ではいずれも1分半ほど終楽章の方が長くなっている。ところが当盤では約40秒(つまり半分以下)にまで縮小され、曲全体としてのバランスがはるかに良くなっている。実はチェリビダッケ(1974)もヴァント(1979)もライトナー(1983)も1分以内に収まっているのである。さらに驚くべき事実がある。あの悪名高き(?)VPO盤との61年スタジオ録音で何と5分以上(!)という常軌を逸した唯我独尊時間差攻撃を繰り広げていた「構造クラッシャー」ことシューリヒトでさえ、51年SDR盤では1分20秒にまで改善されているのだ。もしかすると、この放送オケには本能的に均衡を感じ取る何かの能力が備わっているのだろうか? そうだとすれば、バランス感覚を失って暴走ばかりしていた指揮者を強制的に送り込んで矯正させれば良かったのかもしれない。
 冗談はこれ位にしてディスク評に入りたいが、この素晴らしい演奏について細かいところを論っても仕方がないという気がしている。(CDが溜ってきたのでここは手抜きで済ませたいという事情もある。)鳴りの弱さが致命的だったチェリ盤はもちろん、大胆なテンポ変更が私的にはイマイチだったヴァント盤をも凌ぎ、SDRとの9番としてはライトナー盤に肩を並べる超名演だと思う。

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