交響曲第9番ニ短調
ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
44/10/07
Deutsche Grammophon 445 418-2

 戦時中の録音だが、併録の7番(51年録音)よりも音質は良い。7番ページでも触れたクラシック総合サイトのオーナーY氏は「オーケストラの音とは思えない凄まじさに、この曲の『宇宙』的なものを感じたことをよく覚えている」と書いている。「オーケストラの音とは思えない凄まじさ」には完全に同意する。一方、「『宇宙』的なものを感じた」には部分的同意に留まる。第1楽章では「インフレーション」(9番目次ページ下参照)から加速する指揮者が少なくなく、その時点で私はダメ演奏の烙印を押してしまうのだが、当盤では何とその前の1分38秒から始まってしまうのだ。あるいはもっと前から、もしかしたら曲の開始と同時にアッチェレランドが始まっているのかもしれない。(だとしたら、5番ページで述べたのと同じく非常に息の長いアッチェレランドである。)また、「ビッグバン」よりもその後の2分38秒の爆発の方が凄まじい。私に言わせればこれらは完全な「邪道」である。それが言い過ぎだとしても、宇宙のはじまりの表現としては明らかに間違っている、と言わせてもらう。他にもこのようなハチャメチャ解釈は数知れず、それらはことごとく曲の宇宙的スケール感を減退させる結果となっているとしか私には思えない。
 などと大仰なことを書いたけれども、要はY氏の考える「宇宙的」と私のイメージするそれとが同一でないということで済んでしまう問題かもしれない。あるいは宇宙でも局所的な現象、例えば超新星爆発とか星同士の衝突ならば、このようなチンケな表現でもまあ許せなくもないという気もしてきた。(←相変わらず傲慢な口調だ。)ただし、この楽章でもコーダだけは買える。インテンポで足音の「ダダーン」もハッキリと聴こえる。つまり私の理想に近いのだが、ここでは音質の悪さが幸いして実に壮絶な締め括りになっている。このような均整の取れたスタイルが楽章全体に浸透していたら、かなり高い評価となっていたに違いないと惜しまれる。第2楽章ではそれ以上に劣悪音質がプラスに作用し、ここは文句なしに合格点。終楽章は嫌な予感がしていたのだが、2分22秒のハ長調による爆発でアホ(←誰とは言わんが)みたいな早足にならないのでホッとした。12分51秒も同じ。この楽章ではテンポの揺さぶりがさほど顕著ではなく、イライラすることなく聞き通すことができた。というよりも後半はかなりの秀演で、終わりが近づくほどに引き込まれていった。やろうと思えば第1楽章でもこれだけの演奏ができたはずなのに・・・・やっぱり惜しい。

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