交響曲第9番ニ短調
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
78/05/09
Andante RE-A-4070
埋もれていた音源の発掘によって一時期は注目を浴びたAndanteレーベルであるが、最近ではすっかり影が薄くなってしまった。ワルターの「大地の歌」スキャンダル(新音源だったはずが、デッカのスタジオ録音に拍手を重ねただけのバッタもんだと判明)によって信用を失ったからである。こんなことをしたらリスナーからソッポを向かれて当然だ。
さて、私は不祥事があろうがなかろうが4枚組で9000円近いAndanteのディスクなど買う気がなかったのだが、amazon.comで捜し物(国内廃盤&中古)をしていた際に新品がUS$52.99(送料を入れたらほぼ60USD)だったので衝動買いしてしまった(40ドル台の中古品もあったが海外発送してくれないため断念)。ところが、入手直後にYahoo!オークションで出品価格4800円のままで落札されていることを知って愕然とした。(プレミアム会員資格を暫く停止していた。)結果的に高く付いた。何にせよ、購買者が払ってもいいと考えているのはせいぜいその程度の額だということである。高値でも買ってくれていたクラシック・ファンを裏切った罪はあまりにも大きいといえる。今ではフルトヴェングラー&VPOの54年盤はArchipelでも買えるので、敢えてこの4枚組を購入する意義はあまりない。あの分厚いブックレット(もはや「レット」ではない)を読みたい人は別だが・・・・(ただし100ページ以上あっても英仏独3ヶ国語分あるので、実質は1/3である。)私は読む気がしないので、割増料金を払わされているようで気に食わない。なお、ディスクを解説書に収納するタイプなので場所は取らないけれども、取り出すときに傷を付けてしまう恐れがある。ここも減点1である。(以上で難癖終わり。)
ここからディスク評に入るが、ただでさえ低い音のレベルが第1楽章の44秒頃からさらにガクッ下がる。レベルの上げ下げは何度も行われており、決して聴きやすいとはいえない。ヘッドホンでの聴取は全くお勧めできない。音質はかなりメタリックであるが、重厚ではないので、DGの「カラヤン・サウンド」とは違う。ということで、録音はあまり褒められたものではないが、演奏は非常に興味深い。「インフレーション」(2分04〜11秒)ではアンサンブルの乱れ(金管が他と全然合ってない)がハッキリと聴き取れる。が、指揮者はそんなことはお構いなしに一気に「ビッグバン」に突き進んでいってしまう。「これホンマにカラヤン?」と、にわかには信じられない思いである。楽章の終わりも凄まじい。「ドシーン」の足取りがあまり聞こえない(←76年盤も同様でVPOの使用している楽譜が悪いのだろうか?)のはマイナスだが、あまりの激しさにその不満を途中で忘れてしまう。当盤以上に激しいカラヤンの演奏を私は知らない。
実はカラヤンのディスク評の最後に執筆しているのが当ページである。そこで言いたいことを言って締めくくることにする。フルトヴェングラーを神格化している評論家などには、「演奏が日によって全く違っていた」という点をとかく賞賛するという傾向があった。しかし、そこには彼が「音の缶詰」をとことん嫌っていたために残された正規録音が極めて少なく、その代用として複数のライブ録音が古くから出回っていたという特殊事情があったというだけのことである。しかしながら、他の指揮者についてもライブ録音が次々と世に出るようになってみると、演奏会ごとに違っているのは別に彼に限ったことではないという、よく考えてみれば極めて当たり前の事実が今更ではあるが広く認識されるようになった(ここまでは某掲示板の投稿の受け売り)。フルトヴェングラーが最高の指揮者であるという評価を変えたくない人はそれでもいい。が、彼の美点として掲げてきた「即興性」という看板を下ろすべき時期はとっくに過ぎてしまっている。フルヴェン賞賛派の多くが忌み嫌うカラヤンも少なくともその点では決して負けていない。(つーか、ライヴと比べたらスタジオ録音が「きれいごと」「人工的」であるという点ではフルヴェンもカラヤンも五十歩百歩だとしか私には思えんのだが。なお、私は「きれいごと」を悪いとは全く思っていないし、「人工的」という形容はナンセンスだと考えている。)
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