交響曲第9番ニ短調
カール・シューリヒト指揮フランクフルト放送交響楽団
57/02/01
MEMORIES REVERENCE MR 2018/19

 レビューの前に余談。当盤の帯では7番と9番の演奏についてそれぞれ「デンマーク・ライヴのブル7は、お馴染みの快速テンポを採用し、グングンと前へ進む爽快な演奏です。」「そして、フランクフルト放送響に客演したブル9では、クナッパーツブッシュもびっくりの変化をつけ、打楽器の追加など、効果的な演奏となっております。じっくり聴くとその個性的表現に圧倒されます。」と紹介しているが、HMV通販の商品コメントでは「・・・・爽快な演奏とのことです。」および「個性的表現に圧倒されるとか。」という伝聞口調に変えられていたため思わず吹き出してしまった。が、よくよく考えれば販売者は「自分が聴いてもいない演奏に対して断定的な表現を用いるのは好ましくない」との良心的な判断を下した訳であるから、それを笑ったりしては絶対いけない。一方、それ以外の業者のサイトでは [輸入元のインフォより] などとして原文を基本的にそのまま載せていたものの、最終文「ヒスノイズ、音ゆれなどソースに起因する問題も若干ありますが(特にブル9)、音そのものはしっかりしております」のみ「しっかりしておるとのことです」となっており、その少々古風な言い回しについつい笑ってしまった。こちらは撤回するつもりはなし。(ちなみに「犬」サイトでは同箇所が「しっかりしているということです」となっている。)
 この際ついでにその宣伝文句に文句を付けておく。「特にブル9」とあった音質上の問題であるが、少なくともヒスノイズは同梱の7番の方が圧倒的に耳に付く。当盤は除去処理を行ったのか、そっちは控え目である。ただし「キーン」という感じの持続音がちょっと気になる。続いて上記の当盤演奏へのコメント。「クナッパーツブッシュもびっくり」ってねえ。クナは楽譜こそ「変態グロ・ヴァージョン」(別名「改訂版」)を採択していたものの、その解釈(テンポ設定その他)に関する限り言語道断級の逸脱行為はさほど聴かれなかったように思う。むしろ9番演奏において許し難いほどの暴挙を繰り返してきたのは、誰が何と言おうともこの「構造派解任」、いや「構造破壊人」ことシューリヒトなのである。「なにを今更」と言いたい気分だ。で、やはりというか当盤でも様々な愚行が確認されたものの、既に本サイトでは何度も糾弾してきたため、いちいち挙げるのは控えておく。
 ただし第1楽章コーダは別だ。例によって最重要の「ダダーン」をスポイルしているが、当盤ではさらに(本来は対旋律であるはずなのに彼の演奏では出しゃばってくる)「ラーミラー」の1オクターヴ上昇音型までもが(事情不明ながら)よく聞こえないから必然的に響きは異様となる。この曲を初めて聴いた人でも奏者が入り損なったなど何らかの事故が発生したと思うに違いない。
 第2楽章で少し持ち直し、フィナーレで再度失速するのも他盤と同じ。18分過ぎの尻軽加速など呆れ果てて言葉もない。(敢えて絞り出すなら「宇宙の終焉を描いた神聖な音楽を何だと思っているのか!」あたり。)唯一肯定的に評価したいのがコーダ(21分09秒〜)でのヴァイオリンのレガート。61年VPO盤はテンポが速過ぎてモヤモヤっとした感じに聞こえなくもなかったが、ここではジックリ腰を落とした上でネットリ弾いているため、曲が終わってしまうことに対する名残り惜しさが十全に表現されている。もっともこれを「所詮は『部分こだわり派』の自○行為」として批判する向きもあるだろうが・・・・・(「そりゃお前だろ!」と怒られてしまうかも。ちなみに私としては「慰」よりも「傷」の字を入れたい気分ですな。)

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