交響曲第9番ニ短調
ヘルマン・アーベントロート指揮ライプツィヒ放送交響楽団
51/10/29
ARIOSO ARI 108

 この指揮者の9番はいくら安くても手を出す気にはならなかった。(同じく徳間の廉価盤として出ていた)4番や5番ならあるいは許せても、「狂暴なフォルム破壊」(海老忠)の施されたこの曲の演奏など到底耐えられそうにないと思ったからである。幸か不幸か、それを聴くことになったのは当4枚組(4578番の方が良かった?)に収録されていたからに他ならない。案の定、第1楽章冒頭はシューリヒト&VPO61年盤ページに私が挙げた「禁忌」(イラチ加速、「ミッラ」ぶった斬り)のオンパレードである。いや、1分35秒から加速を始めているからさらにタチが悪い。この時点で真面目に聴こうという気を失ってしまった。
 ところで、アーベントロートのファンサイトには「1楽章で深淵に落ちてゆくような表現が見事。この曲の神がかり的な部分を上手く引き出している。」というコメントが出ているが、私は全く納得できない。「深淵に落ちてゆく」は本当だが、作成者も指摘しているように奥に引っ込んでしまっている録音、および付加されたと思しき残響(当盤はやり過ぎで不自然な感じ)によってドロドロ音質になっており、不気味さが際立っている。そのため、私は第1楽章の冒頭部分を聴いてドン・ファンが地獄に落ちてゆく様を思い浮かべてしまった。その後も彼が業火に身を焼かれて悶え苦しんでいるかのようである。(そういえばモーツァルトの序曲も出だしはニ短調だったな。)
 つまり私は「神がかり」とは正反対の音楽と捉えた訳である。そういえば、シノーポリ盤のページにて私は「空虚なブルックナーを是と取るか非と取るかは人それぞれ」というようなことを書いた。それとは少し違うかもしれないが、同じ演奏を聴いても感じ方がこれほどまでに異なってしまうのがクラシックの面白さなのだ、ということでここは逃げておこう。(口直し、いや耳直しに何を聴こうか?)

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