交響曲第9番ニ短調
コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団
02/02/22〜24
LSO Live LSO0023

 第1楽章は6番と同じくノッペリした立ち上がり。やる気の伝わってこない演奏ゆえ印象はサッパリである。ところが2分35秒からまともなテンポに変わり、激しいビッグバンに突入する。それが静まってから(4分26秒〜)は思い入れタップリであるが、そのうち「ちょっと羽目外し過ぎじゃない?」と言いたくもなってきた。パッと聴いただけではジュリーニあたりと間違えてしまいそうである。(彼は実際にはそういうスタイルを採用していないが。)それほど濃厚に歌っている。が、基本テンポは相変わらず遅いまま。15分46秒から徐々にテンポアップすると思わせて爆発の前にはしっかりとアクセルを緩めるなど、妙なところで駆け出したりしないのは評価できるものの、こういうのを延々と聞かされている内に飽きてくるのも無理はない。
 とにかく曲線的な(悪く言えばナヨナヨした)演奏で尖ったところは全く感じられない。よって同じ遅いテンポを採りながらも鋭さを保ち続けたチェリ&MPOの95年正規盤(EMI)とは全く似ていないし、ジュリーニやバーンスタインによるVPO盤のような強靱な生命力といったものも感じられない。それが聞き手である私をウンザリさせた最大の原因ではないかという気がする。このまま無策演奏で終わってしまうのかと思いつつ終盤を迎えた。ところがコーダに入った少し後(27分過ぎ)から俄然気合いが入ったのか、圧倒的な迫力を見せつけて楽章を締め括る。こうなるとエンジンの掛かり遅れが惜しい。低血圧のせいだろうか?
 スケルツォは冒頭から非常に良い。弦の「チャッチャッチャチャッチャッチャ」もキビキビしており好感が持てる。終楽章も間延びしたところがなく見事な演奏であるが、両端楽章のトラックタイム差は3分にも及んでいる。こうなると第1楽章終盤までの無気力演奏はスロースターターというより基本テンポの設定ミスということかもしれない。などとこっちでも偉そうなことを書いてしまったが、これも6番同様のパッとしない録音が元凶かもしれない。なお、ヘッドフォンで聴くと指揮者が唸り声を立て続けに発しているのが確認できよう。唸り声同様終始耳に付いたアンサンブルの甘さも先述のナヨナヨ感の表出に加担していると思われる。例えば終楽章23分18秒以降をトレモロでなくバーンスタインのように律儀に刻ませているが、明らかに不揃いであるためガクッと来る。ただし16分20秒〜、および16分50秒〜で聞かれた弦の音色は全く独特で、まるで雅楽のような妖しい響きに耳を奪われてしまった。(まさか楽器を持ち替えたわけではあるまいな。ライヴだから無理か。)
 ふと思ったことだが、当盤はチェリはチェリでも91年盤(稀少蛾)の方とはスローテンポはもちろんのこと雰囲気も何となしに似ている。しかも当然ながら隠し撮りらしき海賊青裏よりは音質も優れている。芸風の違いゆえベテランのブルヲタには見破られてしまう公算が強いけれども、あるいは素人相手ならチェリの未発表音源と騙って売りつけることも不可能ではないかもしれない。

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