交響曲第9番ニ短調
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
50/01/28
KING International (Tahra) KICC-4248〜9 (TAH 207/8)
クナのブルックナーには8番MPO盤のように「もし原典版でやってたらトップクラスの評価をしていたのに」というのもある。(おそらくは「原典版など退屈極まりないダメダメ版」ぐらいにしか思っていなかったであろう指揮者に何を言ったところで、馬の耳に念仏だっただろうが・・・・)けれども、当盤はたとえ原典版であったとしても「ダメなものはダメ」である。それは、フルトヴェングラー盤ページで述べたのと同じく、第1楽章冒頭の「インフレーション」(当盤では1分28秒〜)の手前から加速を始めてしまうからである。他にも気に障る加速減速は数知れない。また、シューリヒトと同じ悪弊がここでも見られる。すなわち「ビッグバン」の締めのところ(2分37秒)、全休止直前の最後の2音を「ミッラ」とブッタ斬りにしているのである。(バイエルン国立管盤も同じ。)こんな波田陽区みたいなやり方はお笑いだけでたくさんだ。終楽章冒頭の大爆発(1分32秒〜と1分51秒〜)も尻軽テンポで台無しにしている。つまり私からすれば「原典版か改訂版か」という問題以前に却下ということである。さらにヘンテコな改変(例えば先述した終楽章の盛り上がりをソフトにしてしまっている)が加わるのだから「鬼に金棒」じゃなかった、私のイライラに対してはまさに「火に油」である。
ただし、当盤におけるトッピングのティンパニは、じっくり聴いてみるとバイエルン国立管盤よりも幾分まともであり、例えば「ビッグバン」直後(2分過ぎ)や、同じ旋律が再現する12分台など普通の連打になっている。(あるいはバイエルン盤と違ってティンパニが前面に出てこないため、打撃音がつながっているように聞こえているだけかもしれないが・・・・)一方、同じ箇所でも58年盤はフレーズの切れ目が強調されており、それこそ憂さ晴らしをするかのようにメチャクチャに叩きまくっているようにすら聞こえる部分もある。壮絶さと悪趣味度は比較にならない。また、当盤の両端楽章の締め方ももちろんフツーではないが、ワーグナー風のケレンは控え目である。5番改訂版と同様に冗談音楽あるいはゲテモノ演奏を嗜むという目的に適った「やりたい放題」の演奏は、むしろ音質で圧倒的に上回る当盤(併録の8番同様にモノラルとしては極上の部類)でこそやってもらいたかったところだ。さらに無い物ねだりをすると、3番や7番のごとく晩年(60年代)に録音が残されていればなあ、とも惜しまれる。アンサンブルは緩めでも構造がさほど崩れていない晩年様式による演奏であれば、純粋に改訂版を鑑賞し、笑ったり怒ったりすることができたかもしれないからだ。
9番のページ クナッパーツブッシュのページ