交響曲第9番ニ短調
ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
95/01/06〜08
LONDON POCL-9862

 待望の8番リリースを祝ってという訳でもないが、そちらの購入と時を同じくしてヤフオクから入手した。当盤ライナーによるとブロムシュテット&LGOコンビによる録音第1弾(音楽監督就任に先立っての収録)とのことである。(ただし、執筆者の草野次郎がそれについて言及した第1文は日本語がヘンだ。)96年8月の初発時には「限定盤・特別価格」として税込¥2,000(ただし消費税率はまだ3%だった)でリリースされている。その後、同コンビ初の来日公演を記念して99年4月に再発盤(POCL-1878)が出た。ところが、その際にはフィルアップ(弦楽五重奏曲第2楽章アダージョ)を加えて帳尻合わせをしたつもりかもしれないが、何と¥2,548(本体価格¥2,427)に値上げするという暴挙に出た。(通常は再発時に値下げするものなのに。)何にしても両盤ともとっくに生産中止であるから中古市場を捜すしかない。この9番に限らず、LONDONレーベルによるブロムシュテットのブルックナーは一時期かなり高騰したけれど、ようやく最近になって値も落ち着いてきたようである。よって、私も落札価格が1500円を切るだろうと踏んで自動入札を入れておいたのだが、実際には設定した最高額の少し手前(1100円)に達したところで、それ以上張り合おうとする者は現れなかった。某掲示板によると宇野功芳が自分のロクでもない再生装置を棚に上げて酷評していたという話だから(4番ページ下参照)、相当に期待が持てる。帯の「この夢の顔合わせが生んだ奇跡のブルックナー!」が誇大広告だとしても。
 第1楽章の出だしから焦点がボケ気味という印象を受けた。ネット評に「音響特性の把握がいまひとつだったのか少々平板な録音のような気がする」とあったが、その影響もあるかもしれない。2分23秒からのインフレーションでの響きが軽いのも気になる。そのままビッグバンに突入するが相変わらず響きは茫洋としており、3分過ぎに収束するまで全くつかみどころがない。と、ここまでは貶しているだけのように映るだろうが必ずしも悪いことばかりではない。宇宙はこの段階では混沌状態にあり、まだ晴れ上がっていないからだ。実はDENONレーベルの47番から薄々感じていたことであるが、ブロムシュテットはあの几帳面そうな外見にもかかわらず、SKD時代から当盤録音に至るまでオケを厳しく締め付けるようなスタイルは指向していなかったという気がする。そのためヴァントやチェリビダッケが振った9番のようにキチッキチッとしているようには聞こえない。とはいえ、LGOは例えば某国西部の団体のようにアンサンブルが甘くはないから、指揮者が少々アバウトだったとしても絶対に弛緩しまくりにはならない。それで救われているのはもちろん、却って拡がりを感じさせるという幸運な結果をもたらしているように思う。このオケの弦がSKDのようにヒステリックな音色でないこともプラスに作用している。コーダの巨大さは紛れもなくトップクラスである。第2楽章も全く神経質にならないのが良い。アダージョは終盤に入ってから寂寥感が漂ってくれば言うことなしだったが、それでも前2つの楽章を上回る宇宙的スケールを実現している。さほど厳格なリズムが求められない楽章ゆえ十分に予想された結果であるが。こういう芸風を10年間にわたって極めていったのだから、LGOとのお別れコンサートとなった8番が大名演となったのも当然といえる。
 ということで、当盤のどこを捜しても(完成度でもスケール感でも)朝比奈による9番数種の出来を圧倒的に上回りこそすれ、劣るようなところなど微塵も聞き出せなかった。音量レベルがかなり低めに設定されていることから考えるに、やはり宇野はティントナーのNaxos全集と同じく(彼の目次ページも参照のこと)当盤を不適切なボリュームで試聴した挙げ句にお得意の大ボケをかましたと見るのが順当であろう。もっとも裏返せば、彼にとっても朝比奈盤は他の指揮者を無理矢理にでも貶し倒さなければ褒めようのない代物だったということか。ただし彼は重大なミステイクを犯してしまった。それならばテイト盤あたりを引き合いに出すべきだったのだ!

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