交響曲第9番ニ短調
ベルンハルト・ギュラー指揮エスリンゲン青少年南ドイツ・フィルハーモニー
89/09/24
Digital Masterworks US 71814 CD

 ファーストネームは私の贔屓とする阿蘭陀人指揮者と同じ綴りだが、当然ながらドイツ語式の読み方は違う。(そういえばランガーというプロゴルファーもいたなあ。)
 全く知らない指揮者だったので、ヤフオクに出品された当盤についても最初はスルーする方針だった。ところがケース裏の画像を見て気が変わった。両端楽章がともに28分近い。つまり晩年のチェリビダッケとはいかぬまでも、ジュリーニ級の堂々たるテンポを採用しているということである。ちょっとだけ聴いてみたくなった。とはいえ、どこの馬の骨とも知れぬ指揮者のディスクに手を出してガッカリさせられるのもつまらない。そこでギュラーが何者なのか調べてみたんで・す・YO。そしたら・・・・SO! 何とオフィシャルサイト(www.gueller.com)まであったんだJO。(顰蹙を買いそうだからもう止める。)その経歴ページには「最初はシュトゥットガルトの高校在学中にチェリストとしてキャリアを開始した」云々とある。「チェリに縁のある土地ではないか」と思っていたら、1979年の指揮者コンクールに優勝し、驚いたことにその2年後には「伝説的指揮者」の代わりに放送響を引き連れて国内ツアーまで行っている。さらにギュラーを最良の教え子と見なしていたチェリは、ミュンヘン・フィルを振らせるため彼を何度も招いていたとのこと。ならばノロノロ演奏になるのはむしろ当然である。ますます聴いてみたくなった。
 開始価格は680円と決して高くはなかった。が、入札に踏み切る前に通販サイトでも捜索してみた。既に新品の扱いは終わっている模様で、amazon.co.jpのマーケットプレイスではバカ高い値が付いていた。ところがamazon.comでは様相が全く異なっていた。叩き売り状態である。うち最安値は何と0.88USドル。諸経費(5.49USD)を加えても700円ちょっと。オクで入手するより安く付く。ただし、そちらでは同じ出品者(物故大指揮者のフルネームをIDとしている人で、既に評価数は5桁に達している)が別の無名指揮者(「私達の父」という意味の名前)のブルックナーCDを出品していたので、それも同時落札できれば安上がりになる可能性もある。それゆえ何れも上乗せなしで入札を入れたのだが、最終的に当盤は1480円、他盤は2000円以上に上がってしまった。もちろん高値更新と同時にカートに入れておいた米尼損の品を注文確定させた。(その後も1ドル以下&海外発送可能の出品がゴロゴロしている。)
 ちなみに、この演奏はCascadeというレーベルの "FAMOUS COMPOSERS PREMIUM EDITION" という40枚組ボックス(CASCADE4000)にも収録されているらしい。それを6000円弱という激安価格で売ろうとしている(2007年4月時点では「発売延期未定」)HMV通販の紹介文には「ユンゲ・ドイチュ・フィルのブルックナー9番など、マニア向けの演奏もあるのが面白いところです」という一文があった。「"Süd" を省略しても構わないのだろうか?」と疑問に感じたので再度検索したところ、何と「ドイツのアマオケ紹介」という国内サイトに掲載されていた。(なお、当初私は「ユンゲ・南ドイツ・フィルハーモニー・エスリンゲン」としていたのが、そこでの和名表記を使わせてもらうことにする。)しかも「色々な職業の社会人たちまでをも網羅している」とあるから市民オケに近い。やっぱりバルシャイなどと数々の名録音を残しているユンゲ・ドイチェ・フィル(現ドイツ・カンマーフィル)とは全くの別団体だった。とにかく甘オケの演奏に(宇野&日大管の4番と同じく)多くを期待することはできない。「しくじったか!」と半ば後悔しつつ試聴に臨むこととなった。
 第1楽章出だしを聴いて案の定と思った。冒頭からのっぺりとした感じで、まさしくチェリばりの高エントロピー演奏を繰り広げようとしている。ただし、こういうスタイルによって名演を成し遂げるのは容易ではない。最後まで緻密なアンサンブルを維持しなければならないから。ひとたび緊張が破れれば単なるユルユル演奏へと転げ落ちてしてしまう。で、やっぱりそうなっていた。(つまり二重の意味で「案の定」だったという訳である。)3分11秒のラッパが危なっかしいし、全休止後の入りも揃いが悪い。この時点で完成度については匙を投げてしまった。
 ところで当盤はライヴ録音のようだが残響が異常に多い。(ついでながら、出だしは録音レベルが異様に低いと聞こえるが、ダイナミックレンジを相当広く取っているのでボリューム設定には注意されたし。後でビックリしないためにも。)録音会場は "Basilika Weingarten" と記されているから思わず「教会堂なのかブドウ園なのかハッキリせい」と言いたくなったが、後者は固有名詞(地名)らしい。つまり87&88年のシュレースヴィヒ音楽祭開幕コンサート(@リューベック大聖堂)に臨んだ北ドイツ放送響と状況は同じである。楽員達もさぞかしやりにくかったに違いない。それでもNDRはプロとしての意地を示し、悪戦苦闘しつつもヴァントと優れた演奏を残すことに成功したけれど、このような逆境を跳ね返すだけの技量を素人集団にも要求するのはいくら何でも酷というものである。(ただし第2→第3楽章と進むにつれて立て直してくるのは評価できる。)
 したがって当盤購入は全く無駄な出費であったかといえば、実はそうはならなかった。第1楽章コーダに思わず耳を疑った。27分10秒からのティンパニがトレモロではない。ハイティンクの81年盤と同じく「ララー」の音型に合わせて叩いていたのだ!(ただし打撃音は軽めで「ダダーン」というよりは「トトーン」といった感じである。)つまりギュラーは隣国の同名指揮者への共感あるいは親近感により、直接に薫陶を受けていたチェリとは違う解釈を採用してしまった「裏切り者」と考えても良いのだろうか。(←たぶん良くない。)さらに驚いたのが第2楽章。スケルツォ主部の終わり(4分10秒〜、11分27秒〜)でも乱暴狼藉が聞かれる。早速クナ盤を取り出し、同じ箇所を聴き比べてみたところ、例の便所蝿のように煩わしい(by平林直哉)ティンパニ付加こそ確認できたもののリズムは明らかに別物である。つまりレーヴェ改訂版からの拝借ではなかったという訳で、あるいはギュラー自身のアイデアかもしれない。ちなみに先述のサイトには "He is an acknowledged interpreter of Mahler and Bruckner" (マーラーとブルックナーに定評のある解釈者)とも書かれていたから、もしかすると使用楽譜についても一家言を持っている人物なのだろうか? ということで、他のブル交響曲も聴いてみたいという気になった。もっと上手なオケで。

おまけ(お誘い)
 当サイトでは数箇所に監視カメラ、いや、アクセス解析を配置しているのだが、閑古鳥が鳴いている他のコーナーとは裏腹にクラシック音楽(特にブルックナー)のページには閲覧者が絶えることがない(ホスト名より何処の誰なのか大凡の見当が付いている方もチラホラ)。最近はろくに更新していないというのに・・・・何にせよありがたいことではある。とはいえ、他分野のコンテンツに足を踏み入れた形跡が全くといっていいほど見られないのは作成者として少々寂しいものがある。(参照元ページを見るとブックマークにより直接訪問される方が多いようだ。それはそれで嬉しいけれど。)誠に勝手な願いであるとは承知しているが、たまには「更新記録」(トップページのタイトル下にリンクあり)を経由してポピュラー音楽や自転車関係のページ等にも目を通していただけたら幸いである。今や執筆に熱が入っているのは断然それらの方なのだから。

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