交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ユベール・スダーン指揮メルボルン交響楽団
86
DECCA 426 425-2

 この人については何の知識もなかった。最初はアフリカ人指揮者かと思ったほどである。シュタインの6番と同じくHMV通販による豪ELOQUENCEセール時に手頃な価格(790円)だったので買った。自室のマックで再生できないのも同様。どちらかといえばマイナーな指揮者&オケによる演奏がこのシリーズに名を連ねたのはやはり21世紀枠(選抜高校野球)、いや開催国としての出場枠みたいなものだろうか? ならば岩城宏之指揮による演奏がリリースされてもおかしくないように思うが、おそらくデッカには録音を残していないのであろう。
 さて、リヒター盤評の執筆直後に聴いているのが当盤であるが、あちらを上回るスロー演奏で、トータル74分46秒というのは旧規格なら収まるか収まらないかギリギリという時間である。両端楽章がいずれも22〜23分台というのは両盤に共通しているが、第2楽章はリヒターの約16分に対してスダーンは18分半、第3楽章はそれぞれ11分45秒と10分42秒となっている。となれば、遅い両端楽章に見合っているのはスダーンのアンダンテとリヒターのスケルツォで、逆にリヒターのアンダンテとスダーンのスケルツォは相対的に速く感じるということになる。何はともあれ聴いてみる。(iTunesによる試聴に慣れてしまっているからラジカセ再生は不便で仕方がないが・・・・)
 第1楽章最初の3分ちょっとの印象がリヒター盤とはまるで異なっている。遅いテンポだが、こちらは淡々とした感じで進む。にもかかわらず中身が薄いとは全く聞こえないのだから、これは並の演奏ではない。もしかすると、ブルックナーにはさほど精通していないオケをおもんばかって(←「慮って」と書くとは知らなんだ)指揮者は録音に臨む前に猛特訓を課し、メンバーもそれに真摯な態度で応えようとした。それが見事に実を結んだのかもしれない。(録音の月日が不明だが、相当長期に及んだのだろうか?)そんなことをついつい考えてしまったのであるが、そうなるとフレーズの変わり目で流れが一瞬滞るように聞こえることが幾度かあったとしても、音楽を折り目正しく進めるための手続きを入念に行っているとして好意的に捉えることが可能である。(さもなくば「モタモタしている」と聞いてしまったことであろう。)とにかく、(決してリヒター盤が不潔という訳ではないが)思わず身が引き締まるような清潔感が当盤最大の特徴であると思う。(もっともオケの音色にこれといった特徴がないため、あまり魅力がないと感じる人も結構いるだろう。)冒頭でも述べたように指揮者のことは全く知らないが、かなり几帳面な性格なのだろうと想像する。(ただし厳格とはちょっと違う感じ。)
 さて、先に触れた第2楽章であるが、私は全曲中で最も完成度が高いと聞いた。ほとんどアダージョのような足取りは静謐さに満ち溢れており、それを崩すことなく15分50秒の(7番のそれを彷彿させるほど輝かしい)頂点を迎える。その構成が実に見事である。一方、荒々しい第3楽章は「起承転結」の「転」としての役割は十分に果たしているのは確かだが、私としては場違いに思われてどうにも馴染めなかった。危惧していた通り速すぎと感じてしまったのだ。第4楽章も1分30秒の爆発など「もうちょっと何かあっても良かったんじゃないの?」と思ったが、出来は決して悪くない。スタジオ録音だから当然ともいえるが、途中で息切れするようなことはない。ただし、最後の40秒ほどはさすがにノロすぎて足並みが揃っていないと聞こえたため減点である。(超スローテンポを採用した場合、あの部分が鬼門なのかもしれない。チェリがヴィオラに「ザンザンザン」と弾かせたのは、その解決策の1つなのだろうか?)とはいえ、当盤も(リヒター盤とはタイプが違うけれども)聴後の充実感はなかなかのものである。この優れた演奏が今でも「犬」では格安で手に入る。見逃す手はない。

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交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ユベール・スダーン指揮ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団
98/08/21
OEHMS CLASSICS OC 101

 クーベリックの4番ライヴ盤ページに書いたことが、この指揮者による異演奏にも当てはまるかもしれない。12年後の当盤の方がトータルタイムにして10分以上も短くなっているからだ。(トラック4に終演後の拍手が1分ほど含まれているから、当盤の正味の演奏時間は64分弱である。)もちろん86年のメルボルン響盤がスタジオ録音で当盤がライヴという条件の違いが少なからず影響しているだろうが、何らかの心境の変化によって曲の解釈に相当な違いが生じているかもしれないとも想像できるので、ここは聴き比べてみなければという気になった。何せ超お買い得だったメルボルン盤が思いもかけず名演だったから。よって、その購入直後に発売された当盤を狙っていたが、幸いにしてヤフオクで出品価格(600円)のまま落札に成功した。
 繰り返すが、旧盤との違いはものすごく大きい。第3楽章のトラックタイムはあまり変わっていないから、先に触れた10分の差が第124楽章に分散されている訳である。これら3つの楽章はいずれも3分半ほど短くなっているから、これはただごとではない。明らかに異常だ。
 予想通り第1楽章は快速テンポによる出だし。そのままの勢いで(加減速なしで)1分49秒の全奏に突入するが、重厚でパワフルな響きは全く予想してなかった。モーツァルテウム管というのは小編成で、どちらかといえば軽快なフットワークが持ち味だと思っていたからビックリした。これは前に他盤で聴いたことがあるとしばし考え、ヴァント&BPO盤だと思い当たった。確かにテンポだけでなく、キビキビとした進め方や力感もどことなく似ている。(ただし、ヘッドフォンでは響きが混濁しているように聞こえ、印象はかなり悪くなる。)さらに8分過ぎの荒々しさには仰天してしまった。ティンパニなど暴走寸前ではないか! ここまでやられると、もはやメルボルン盤のスダーンとは別人のスダーソが振っているのではないかと疑いたくもなる。予備知識なしで両盤を聴いて同一指揮者と判定できる人は皆無だろう。まるで自分の過去を清算したかったのではないかと思わせるほどだが、この場合はベビーフェイスからヒールへの転向に喩えるべきかもしれない。何にせよ、その12年の間にこれほどのスタイル変更を迫られるような一大事が彼の身に起こったことは間違いない。そう思ってネットでいろいろ検索してはみたものの、彼の経歴中には特にそのような出来事は見い出されなかった。結局訳が解らない。
 などど勝手なことを書いてしまったけれど、当盤も優れた演奏であることは変わりない。むしろ旧盤とは異なる魅力を備えたディスクがコレクションに加わったことを喜ぶべきであろう。約15分の中庸テンポとなったため、第2楽章からはメルボルン盤の神々しさが失われてしまった。それは仕方ないが、代わって第3楽章の収まりがずっと良くなったことで補償されている。終楽章も最初から渾身の力を振り絞っている点が旧盤より高く評価できるし、コーダも揃っているのは良いが、ラストはティンパニの決めが早すぎて混沌状態が十分解消されないのは惜しまれる。なお、以前はヴィンベルガーの「アーヌンゲン」という曲と併録された自主製作2枚組(VFMO0898-1/2)でしか聴けなかったらしい。そのことを私はyahoo! オークションで知ったが、「商品の情報覧」に出品者は「オケのサイズも小さいため壮麗で豪放なブルックナーからは程遠く繊細で肌理の細かい美しい仕上がりを見せており意外なほど聴き応えのある名演です」と記していた。さらに「非常に入手が難しい逸品です」と煽って高く売りたいようだが、当盤が出た今となっては大枚をはたくような物好きは現れないだろう。それはともかく、演奏評自体は当を得ていると思う。

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交響曲第9番ニ短調
ユベール・スダーン指揮ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団
02/05/02
OEHMS CLASSICS OC 102

 「犬」通販で税込590円だった(「本日の特価」だったかな?)のでカートに入れておいた。後日まとまってから注文画面に進み、あとは確定させるというところで突如の来客があり一時中断。しばらくして操作を再開しようとしてディスプレイに向かい目を疑った。何をどう間違ったのかは知らないが、表示された当盤価格の桁が1つ増えていた。(確か倍以上に値上がりしていた。ちなみに2006年4月現在のインターネット税込価格は1722円、キャンペーン税込価格でも1550円である。)全く身に覚えはないが、一度カートから出してしまったため特価でなくなったらしい。こんなケチが付いては到底買う気にならない。後日「塔」通販でも同様の大幅割引価格が設定されているのを見つけたけれども、その時はあいにく送料無料価格ラインに乗せるための同時注文品がなかったため指をくわえて眺めるしかなかった。そして、どうしても欲しい品でもなかったため、いつしか忘れてしまった。が、今年3月末の東京出張で立ち寄ったリアル「塔」渋谷店にて590円で売られているのを見つけたため、少々回り道をしたものの結局入手することとなった。
 などど入手過程にはケチが付いたけれども、演奏そのものには付けるところは特にない。第1楽章の最初の数分を聴いて、大音量部分はネットリ、小音量部分はアッサリという非常に解りやすい解釈を採っていることが判ったが、テンポ変更には節度があり私にとっての許容範囲内には余裕で収まっている。2分35秒や2分49秒で爆発前にほんの一瞬タメを作るのもスケール感増幅に貢献している。4番同様小編成によるハンデは皆無で、十分に音量を上げて聴けばパワー不足とは感じない。というより9番の方がスケールに可変性のある曲である分、持ち味の機動力を生かせているように思う。14分過ぎおよび16分過ぎでは巨大なピークが出現するし、コーダも申し分なし。少ない人数でここまで盛り上げる巧みな手腕に舌を巻いてしまった。思い出したが、響きの透明感が抜群だからこそレーグナーばりの「透かし彫り」技法が功を奏したといえるだろう。
 よって超名演として上位に食い込むか、といえば残念ながらそうはならない。「特別な魅力に乏しい」というコメントを複数サイトで見た記憶があるが、実際その通りなのである。特に終楽章はあまりにもアッサリしすぎで、時に流しているだけにも聞こえた。第1楽章同様ここぞという所ではテンポを落とし、切々と詠い上げても良かったのではないか? あるいは、そうすることで両端楽章のバランスが損なわれるのを指揮者は危惧したのかもしれないが、40秒以上の「アソビ」はあったのだ。とはいえ、淡泊質演奏を端正でヘルシーだとして評価する人は少なくないだろう。そしてコストパフォーマンスという点では間違いなく最高ランクに位置する。(仮に1180円あるいは1550円で入手していたら、CPはそれぞれ半分、4割以下まで低下していたところだが。)

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