交響曲第9番ニ短調
ゲオルク・ティントナー指揮ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団
97/05/08〜09
Naxos 8.554268J

 私がよく利用するCupiDや Seikyou Internet Shopping といった国内CDのデータベースで、「ティントナー」「ブルックナー」をキーワードとして検索すると唯一ヒットするのが当盤である。実際、当盤のブックレット後半には日本語解説も付いているが他盤にはない。なにゆえに当盤だけが国内盤扱いになったのかはわからない。それはさておき、ティントナー自身によるこの解説が面白い。中でも、「ブルックナーについて」の最終段落で述べられていたブルックナーとドストエフスキーの共通点「人間の魂の最も深い部分に触れる要素がある」には肯かされた。これら2人は私が最も好きな作曲家と小説家でもあるのだが、私が彼らの作品に惹き付けられ、離れることができなくなっている最大の原因がその要素であることは間違いない。そして、こんな私の書く文章にもそのような要素が含まれているということは、もちろんあるわけがない。(それにしても、「ブルックナー自身も、かつて13歳の少女にいたずらをはたらいたことがあると告白している」にはちょっとビックリした。十代の少女に求婚したり、「お嬢さん、今私が書いている交響曲の話をしてあげるからこっちに来なさい」と呼びかけたりといった彼のロリータ趣味については、それこそ至る所で目にしていたのだが、そのエピソードは知らなかった。ちなみに、英語解説にはそのような記述はないし、ネットで検索しても見つからない。まさか訳者の創作じゃないだろうな?)
 さて、おおらかな演奏によって初稿の良さを出し切った38番、素朴さが曲の性格と見事にマッチした47番、問題はあるがそれなりに良さも感じられる56番という順にディスク評を書いてきた訳だが、この9番はどうか? 結論からいえば、隙のない、完成度の高い演奏である。テンポを変にいじったりしないのも好ましい。ただし、曲の性格上、厳しさがもう少し欲しいという気がする。長調の部分はとても美しく、申し分ないのだが・・・・ そう感じさせるのは柔らかい音色のせいかもしれない。硬質な響きであれば評価はずっと高くなっていたはずである。言っても仕方がないが、ドイツのオーケストラと録音して欲しかった。 (ただし、それだと逆に47番の評価が低くなっていた可能性もある。)
 と、ここまで書いて、ワルター盤について書いてもこんな感じになるだろうと思った。これはあくまで9番に対して厳しさと寂しさを要求する私の評価である。それらを求めない人であれば、この演奏はきっと気に入ると思う。(なお、私は9番には必ずしもスケールの大きさは求めないので、当盤のようなこぢんまりした演奏でも構わない。)これでティントナーのページ作成を終わることになるが、ディスク評を書く前には(同じ「廉価盤指揮者」である)スクロヴァチェフスキの評価との間にここまでの差異が出るとは思ってもみなかった。

9番のページ   ティントナーのページ