交響曲第7番ホ長調
レジナルド・グッドール指揮BBC交響楽団
71/03/11
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 先に聴いた8番が結構気に入ったため続いて7番も購入。(1枚ものながら通常価格だったので8番より高かった。)これもたいそう立派な演奏である。第1楽章の主題の繰り返し(1分13秒〜)でいきなり眼前に大自然が広がったように感じる。聞き憶えがある、としばらく考えてマタチッチ&チェコ・フィルだったと思い当たった。この種の演奏の良さは文字にしにくいのであるが、まあやってみる。
 何にせよ、こういう「自然体」スタイルは少々ならばミスがあっても堪能できる。そう思って聴いていたが、どうやら十分な演奏水準は維持されているようで安心した。「大根」タイプの指揮者のようにちょっとしたところを大袈裟に表現したりしないし、テンポも極力動かさない。それでいて間延びしないのが立派だ。そのため、実際の演奏時間よりもスケールははるかに大きく感じる。また、ソロの浮かび上がらせ方が非常に上手いと思った。(とても生々しいが録音のお陰かもしれない。)これまたアッパレであるが、今度は誰に似ているかすぐ判った。ムラヴィンスキーである。ということで、あちらの音質の悪さ(モノラル録音)や鋭すぎる演奏が我慢できないという方には強力に推薦したいと思います。(←某サイトから拝借。それにしても2回に1回は出てくるような気がするな、この結び。あと「是が非でも一聴をお薦めしたいと思います」もどこかで使わせてもらおか。)
 パクリはこの位にして、とにかく全曲を通して呼吸の大きさが素晴らしい。(時折飛び込んでくる咳の大きさは好ましくないが・・・・)特にアダージョの再現部以降(14分49秒〜)はテンポの揺らし方といい間の取り方といい絶妙で溜息が出た。クライマックス(17分25秒〜)のティンパニは劇的を通り越して表現過剰にも思うが、とにかく効果的ではある。後半楽章も気に入った。私はこれまで猪突猛進タイプのスケルツォ演奏を褒めてきたことがほとんどだったように思う。これに対し、当盤はゆったりテンポではあるが、ジュリーニのような歌わせる演奏とは異なり、リズムにアクセントを付けながら進むので流れは必ずしも良くない。しかしどのパートも力感に溢れているため大熱演になっている。(この楽章をここまで盛り上げる必要があるのかは別として。)終楽章もアッサリ気味と思わせて途中から粘ってくる。終始イケイケではなくドラマティックに盛り上げていくのは紛れもない名人芸といえる。先のティンパニ同様、この指揮者がワーグナーを得意としていたというのも何となく肯けた。

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交響曲第8番ハ短調
レジナルド・グッドール指揮BBC交響楽団
69/09/03
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 HMV通販の7番の商品詳細ページでは「クライバーが讃え、ショルティが恐れた男、指揮者グッドオールの生涯」という本が紹介されている。(余談だが、2通り考えられる "goodall" のカタカナ表記および読み方についてネット検索したところ、若干だがリエゾンする方が多いことが判明した。よって私は「グッドール」を使っている。)私はこの指揮者の名前すら知らなかったので、それを読んでも胡散臭さしか感じられなかった。それどころか、ショルティと確執があったという記述からも「結局は負け犬の遠吠えに過ぎないんだろう」と思っただけである。ついでながら、著者の山崎浩太郎も時に目にする名前ながら文章を読む機会があまりなかったため、もしかして眉唾ライターによるハッタリ本(失礼)の一種ではないかと疑っていたほどである。(つまり、ケーゲルに意地悪をしたという理由で許光俊がマズアを悪し様に語っていたのと同類扱いしていたのである。)とはいいながら、ベルリンでの出世競争でカラヤンに破れはしたものの決して腐らず、ミュンヘンに腰を据えて活動を続けていたチェリの例もあることだし、ネット評も比較的好意的なものが多い。やはり実際に聴いてみないことには話にならないと考えていたが、3000円強の価格がネックになっていた。結局BBC LEGENDSシリーズの特価セール時に購入した(1990円也)。
 第1楽章は18分台と遅いが、0分51秒の大きな間といい1分18秒や1分48秒のティンパニ立ち回りといい、とにかく桁外れである。指揮者は随分と思い切った賭に出たなあと思わせる。ここままダレることなく最後まで押し切ることができれば「リスボン・ライヴ」級の超名演となるのだが・・・・しかしながら、これではさすがに間が持たないと考えたのだろう。空中分解を防ぐため必要なところでは駆けている。結局は所々でスケール感を際立たせようとした訳で、その点では申し分ない。例によってアンサンブルの緻密さという点では今ひとつだが、この種の演奏は却ってこの位の精度の方が聴き応えがあるものに仕上がるのかもしれない。ただし、終盤のカタストロフ直前(15分38秒〜)のブラスなど、いくら何でも汚いと聞こえてしまう。時に聞かれる木管ソロの危なっかしい音も同様。こういうのが平気な人はおそらく他も大丈夫なはずで、クナに匹敵するといったコメントがHMV通販のユーザーレビューに複数出ているのも納得できる。(ちなみに、終楽章エンディングのティンパニは「これ・でも・かあ」でクナ流を踏襲している。)
 ということで、かなり大雑把な演奏に分類できると私も考えたため、これ以上の細かな指摘は止めにする。とはいえ、これまで私が BBC LEGENDS(プロムスのライヴ)のブルックナーをいろいろ聴いてきた中で最も堪能できたのがこのグッドールの演奏である。(特にこの8番はハース版使用というのも点数が高い。)アダージョのクライマックスまでの盛り上げ方は7番同様見事の一言に尽きるし、終楽章は感動の連続だった。決してトップクラスの実力を持つとはいえないオーケストラ、そして(大きすぎるため)ベストからはほど遠いホールの響き。こういった条件下での演奏にグッドールは(ジュリーニやホーレンシュタインより)手慣れていたということであろう。(ザンデルリンクと似ている?)長いこと日の当たらない場所にいる間に身に付けた技量なのかもしれない。もっとも、当盤からは「クライバーが讃え、ショルティが恐れた男」の片鱗は窺えない。本当にあの「危険人物」がビビるほどの演奏をメジャーオケとは繰り広げていたのか確かめてみたいところだ。
 なお、間もなく発売される予定の74年演奏の9番はコレクター所蔵の録音テープを音源としているという話なので買う気はない。(追記:ここでもウソばっかし↓)

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交響曲第9番ニ短調
レジナルド・グッドール指揮BBC交響楽団
74/05/04
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 上記のように全くその気がなかったにもかかわらず、ヤフオクでの野次馬入札(スタート価格=800円のまま終了)によって入手することになってしまった。  「犬」通販の宣伝文は褒め言葉一色だし、他に「奇跡に近い」とまで評しているサイトも見つけたが、聴き始めから音質の悪さに辟易してしまった。どの装置で再生してもヒスが耳障りである。分離も不明瞭で響きが混濁している。所詮エアチェックテープと言ってしまえばそれまでだが、海賊盤ならともかく、こういうクオリティの低い音源を正規盤としてリリースするのはいかがなものか? などと文句を言いたくなってくる。が、我慢して試聴を続けることにした。
 演奏自体は非常に立派である。第1および第3楽章がともに27分台という堂々とした演奏であるが、単に両者のバランスが良いというに留まらず、同種録音の中では間違いなく上の部類に入る。この曲で遅いテンポを維持するのは容易ではないようで、時に乱心したかのようなテンポいじりで荘厳な雰囲気を見事ぶち壊しにしている指揮者は決して少なくない。私が比較的愛聴しているジュリーニやバーンスタインの新録音(共にVPOとの共演)でさえも、その点では必ずしも成功を収めているとは言い難かった。時に大向こうを唸らせようとするかのようなパフォーマンスを感じないでもなかったからである。当盤は申し分なし。スタンドプレイに全く走ることなしに最後まで緊張感を保ち続けている。「これは並大抵の実力者ではない!」と、私は遅まきながらも「ショルティが恐れた男」の一端を垣間見たような気がしたのである。
 しかも出来はそれぞれ3年前と5年前の7番および8番ライヴ録音より断然良いと聴いた。指揮者の円熟 and/or 編集による完成度アップが原因と思われる。一部指揮者の「ライヴではスタジオ録音とは別人のように燃える」などという謳い文句を当サイトでもたびたび用いてきたが、それはスタジオだとやる気が出ない(出せない)一部ダメ指揮者(プロとして失格)を庇い立てするための道具に過ぎなかったのではないか、と私は今更ながら思い当たった。(といって今から評を書き直すのも面倒なのでそのままにするが・・・・)それは措いて、当スタジオ盤は気品に溢れる両端楽章、躍動感十分の第2楽章、全て素晴らしい。これで第1楽章コーダの「ダダーン」が(途中から明瞭になるが)最初から聞こえていればもっと高評価になっていたところである。

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