交響曲第9番ニ短調
ハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送交響楽団(東)
83/02/09〜12
Deutsche Schallplatten TKCC-30620

 トータル54分ちょっとでシューリヒト盤を上回る速さではあるが、第1楽章の「ビッグバン」までをインテンポで進めるなど、決して無茶はやっていない。また、当盤は両端楽章のトラックタイム差が1分以内に収まっており、その点では「最悪」と言っていいほどバランス感覚の欠落したシューリヒトVPO盤とは大違いである。要は、当盤は「指揮者がブルックナーをちゃんと理解した上で速いテンポを採用している」ということができるであろう。完成度は非常に高い。
 この演奏についても、レーグナーを高く評価している許光俊の見事な批評を「クラシックCD名盤バトル」で読むことができる。それに感心するのは言葉の選び方だ。繊細な演奏を形容するため細心の注意を払って言葉を吟味しているかのようである。おっと、これは「音楽評論家各論」のページではなかった。(←パクるな。)ここでは彼の「薄味な料理ほどごまかしが効かず注意深い調理が必要」という当盤にはまさにピッタリというべき比喩に注目した。私はラーメンは味噌派なので、かつて学会で札幌を訪れた際にも、有名な「ラーメン横町」の店にて躊躇なく味噌を頼もうとしたところ、醤油や塩よりも100円高かったので驚いた。帰ってからその話をラーメン通の後輩に話したところ、味噌は原価が他より高いので仕方がないのだという。さらに、塩を頼むのが通の常道なのだということも教えてくれた。素材の旨味と塩味だけで勝負しなくてはならないためゴマカシが利かず、店の実力を知るには格好のバロメーターなのだそうだ。(炊飯米の食味を評価する際、様々なメーカーが発売している測定機器よりもパネラーによる官能試験の方が微妙な違いを識別するには有効である。やはり最後には人間の舌がモノを言う訳であるが、それを関係者の間では「ベロメーター」と呼ぶこともある。ホントの話。)許の「そう簡単にできあがるような演奏ではけっしてない」という一節の「演奏」を「塩ラーメンのスープ」に置き換えたらそのまま使えるであろう。しかし、私には何度か食べた塩ラーメンの味はどうも物足りず、一度も満足できたことがなかった。そういえば、白醤油や薄口醤油と同じく旨味成分が少ない分、塩分濃度が若干高くなっているので、健康面からはあまり好ましくないという話だ。実はスープを一滴も残さず飲み干すという私の貧乏性が諸悪の根源なのだが。ここからは括弧内に余談の余談(「二次脱線」とでも言ったらいいか?)を書くことにする。(私はとにかく「外食しない人間」なので、実は店でラーメンを食べる機会はほとんどない。要は食べに出かけるのも面倒なのである。それで学生時代の最後には三食自炊になってしまった。料理は大好きだし、食後の洗い物も気分転換効果があるのか全く苦にならないのだ。一方、インスタントラーメンは手軽にできるというだけでなく、味自体も結構好きなのでよく食べた。やはり安価な袋入り、それも5食198円の特売品を狙って買っていたが、そのまま調理するのではなく、フライパン内で麺を計量カップ1杯分、つまり200mlの湯で柔らかく茹でてからカゴメのウスターソースを適量加え、つまり「日清焼きそば」のように仕上げてまず一品、それと並行して小鍋を用いて粉末スープの水溶液300mlを加熱し、よく撹拌した鶏卵を沸騰直前に加えて中華風スープの出来上がりという「一袋で二度美味しい作戦」が常套手段であった。お気に入りの銘柄はサンヨー食品の大ベストセラー「サッポロ一番」で、独特の味わいの醤油味が昔も今も味噌以上に好きである。しかし、私がベストワンに挙げたいのは子供の頃よく食べていた徳島製粉の「金ちゃんラーメン」である。隠し味に何が入っているのか今もって不明だが、なぜかクセになる味である。ところが、最近店に置いてあるのはカップのみで袋の方を見かけることは滅多にない。これは非常に残念である。本場では普通に売っているかもしれないので、四国に行った際は箱ごと買ってこようか? さて、カップが出たついでにそちらにも触れると、こちらは濃厚な豚骨スープがなぜか最も好きである。ただし、カップ麺はあまり買わなかったけれども、新製品が出たらスープだけは必ず一度は試飲しないと気が済まなかったので、人が飲み残したのをよく譲ってもらった。今でこそやらないが。ただし、わが国、いや世界で最初のカップラーメンである日清カップヌードルだけは少々事情が異なり、シーフードを断然贔屓にしている。私は発売直後から「この美味さは次元が違う」と思っていた。2004年にフジテレビの人気番組「トリビアの泉」にて、中国でトップクラスの料理人3名に何十種類ものカップ麺からベストを選ばせるという企画が放映されたが、最終的に残ったのがそれだった。彼らの舌は確かである。いや逆か? ということで、近所のスーパーのチラシに「カップヌードル78円、お一人様6個限り」の日替り特売を見つけた時には、世界第1号の醤油&カレー、それにシーフードを2個ずつ買うことにしている。全部シーフードにしないのは、醤油スープの底に沈んでいる干し蝦を1つずつ箸で摘んで食べるのが大好きなため、カレーは残ったスープに御飯を入れてもう一度という愉しみ方ができるからである。何だか東海林さだおのエッセイみたいになってきたのでもう止める。)
 オーッと、長い脱線話の間にあやうく本当に言いたかったことを忘れてしまうところであったが、要は料理人が、じゃなかった指揮者がいかに手間暇かけて、技巧の限りを尽くして緻密演奏を繰り広げていたとしても、当盤は私の口には、いや耳には合わないということである。食習慣と一緒、つまり味覚が完成するまでの前歴が全てということかもしれない。とてもディスク評とは呼べない駄長文だが、これで勘弁してもらいたい。最後に録音だが、クリアーさに欠ける分だけBERLIN Classicsの輸入盤より劣るという意見をネット上で目にした。しかしながら、この徳間国内盤は耳当たりがきつくないため、私には好ましく思われる。

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