交響曲第9番ニ短調
ダニエル・バレンボイム指揮シカゴ交響楽団
75/05
Deutsche Grammophon 469 667-2

 HMV通販で偶然見つけたが、そんなに高くなかった(900円弱)し、購入者によるレビューもかなり良かった(ショルティより上という評価もあった)ため、ついつい購入してしまった。とはいえ、CSOとの47番がそこそこ気に入っていなければ絶対手を出さなかったはずだ。ちなみにDG旧全集から単発されている国内盤は(現役はもちろん過去にも?)皆無、輸入盤も479番だけのようである。やはり売れ筋はそこら辺りなのだろうか? 私としては356番を是非聴いてみたいのだが、シノーポリのような追悼企画(←おい)でもなければ無理かもしれない。もちろん私にはゴルゴ13に依頼する(←おいおい)ための金などあるはずがない。
 BPO新盤の解説にて金子建志が「若さにまかせて」「熱血漢的な突っ込み」などと書いていたが、私は逆にそれゆえ期待していた。つまり47番がそうだったように同じオケのショルティ盤の特徴が強化されているのではないかと予想していたのである。しかし実際聴いてみると、確かに「明晰さ」や「騒音度」(?)では同等以上ながら質的にも少し違っているように思われた。
 第1楽章冒頭からスケール感タップリだが、0分50秒からの盛り上がりなど縦の線が少々ズレている感じだ。こういった詰めの甘さはBPO盤でも特に改善されたようには思えなかったから、あるいはピアニスト上がりの宿命かもしれない。私が驚いたのは2分29秒以降のインフレーション。この程度の微加速なら我慢できるが、途中から弦とブラスのリズムが狂ってくる。ところがところが、2分36秒での減速によってビッグバンの入りはピタリと決まっている。何と強引なまとめ方! 以後もこういうのが幾度となく聞かれる。なので緻密さでは今一歩あるいは二歩という印象だが、それでも聴かせてしまうのは指揮者の若さ(録音時33歳)ゆえかもしれない。7分33秒から時間をかけて盛り上げていく所など実に素晴らしい。中間部では加減速を多用しているが、曲を壊してしまうほど極端ではない。(ヘタに御本尊フルトヴェングラーの真似をしようなどと考えさえしなければ、適切なテンポを設定できるんだな。惜しい。)そうなると決して乱れることのない高性能オケゆえ、ここでも意欲満々の指揮者の「崩し」として好意的に受け止めることができる。コーダの少し手前で所構わず喚き散らすようなブラスも(無機的と貶したがる向きは多いだろうが)私には好ましい。ただし、最後の「ダダーン」が聞こえていないのは大減点。第2楽章も激しいテンポ揺さぶり攻撃をかける。それは全く平気だが、時に音の切り方にシマリがないと感じてしまうため、ここだけはパートバランスの取れた新盤を採りたい。第3楽章は見事な出来映え。全曲通しで聴くと遅すぎず速すぎずのテンポ(両端楽章のバランスはショルティより上)で、シミジミ聴かせるよりは要所でグイグイ推していく部分の方が印象に残る。3度のハ長調による爆発は迫力満点だ。第1楽章同様に極めてダイナミックな演奏である。
 結局のところ、アンサンブルをキッチリ揃えた上でパワーで圧倒しようとする「力業」のショルティに対し、バレンボイムは先述したように若さに任せた「荒技」で勝負しているということになるだろう。ただし、80歳を過ぎてもスタイルを変えなかったショルティは「紫綬褒章級」と評価できるのに対し、バレンボイムは15年後に録音されたBPO盤も仕上がり不足という点で大差なかったから、「ちっとも成長しとらんなぁ」と思ってしまった。果たして最晩年の大化けはあるのだろうか?

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