交響曲第9番ニ短調
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
76/07/25
Deutsche Grammophon 435 326-2

 カラヤン自身のだったか他の指揮者のものだったかは忘れてしまったが、ある演奏会のライヴ録音のプレイバックを聴いた彼は「なんだ、こんな不完全なもの」と吐き捨てるように言ったという。納得いくまで録り直し、時には自ら編集作業にも携わっていたほど完璧主義者の彼だけに、世に出たライヴ録音の点数は極端に少ない。複数テイクが存在し、後の編集が十分に可能な場合のみリリースを許可していたのであろう(例えばマーラー9番82年盤?)。私が所有するブルックナーのCDでは、ウィーン・フィルとの9番2種のみである。当盤はVPO150周年記念として1992年にまとめて発売されたCDのうちの1枚であるが、録音年月日からおそらく一発録りではないかと思われる。それゆえ、カラヤンの死を待って(録音後16年の時を経て)ようやく発売されたのであろう。
 さて、このディスクはオーストリア放送協会(ORF)の音源を使用しているが、マスタリング担当はゴットフリート・クラウスとオトマール・アイヒンガーである。この2人の名前をブックレットに見ただけでジンマシンが発生する人も中にはいるかもしれない。(当サイトのどこかで触れる可能性もある。)しかし、当盤に関しては音質に不満はない。(おなじく「極悪マスタリングコンビ」によるフルトヴェングラーの「第九」1953年盤も特に酷いとは思っていない。比較対照できるディスクを持っていないし、もともと録音自体が古いので「まあ、こんなもんか」と思っている。)9番目次ページに載っている「ブルックナー・ザ・ベスト」への投稿文中にある「ムラヴィンスキー盤(メロディア)と似ていると感じる」は事実である。ともに残響の少ないデッドな録音であるが、両盤とも冒頭から臨場感(椅子のがたつく音など会場ノイズが結構入っている)をひしひしと感じる。また、演奏に対しても速めのテンポで即物的という印象を共通して受けるが、その点ではムラヴィンスキー盤を上回っているかもしれない。「ビッグバン」でのティンパニの最強打が典型的だが、66年盤以上に荒々しい演奏である。ただし、粗っぽいと感じさせないのは、BPOより技術力では劣るオーケストラを指揮者がしっかり統率しているためであろう。80年代後半のVPOとの録音とはえらい違いだ。
 録音は生々しく演奏は荒々しい。カラヤンの美意識丸出しのスタジオ録音とは似ても似つかぬものであり、彼の存命中にリリースされなかったのは当然であるどころか、彼がテープの存在を知ったら即座に消去を命じていたかもしれないのだ(←ええ加減な憶測)。予備知識なしに聴いて演奏者を当てられる人間がそんなに多くいるとは思われない。やはりライヴのカラヤンはオモロイ。「リアル・ライヴ」CD-Rの封印を解くつもりはないので、新音源の発掘と正規盤発売(特に345番)を待ち望むばかりである。
 なお、当盤はネットオークションでも人気商品であり、時に3000円近い値が付くこともあるようだが、そこまでして入手すべきディスクであるとは思っていない。ところで、「ANFソフト」という怪しげなレーベルがカラヤンのライヴと称して製造&販売した4番(BPO)と9番(VPO)のディスク(4番がLCB-081、9番がLCB-082、2枚組はLCB-141)が巷に出回っているようだが、4番はザンデルリンク&バイエルン放送響、9番はホーレンシュタイン&BBC響の演奏であるので注意されたい。(実際にそれらのディスクを聴き、同一演奏であると確認した。)このうちモノラルの9番はピッチが低いのでVPOらしくないが、当盤のような荒々しさから「もしかすると」と危うく騙されるところであった。中古屋やネットオークションで見かけても決して手を出してはいけない。(ただし、ザンデルリンクの4番が欲しいと思っている人は安ければ買ってもいい。名演である。)

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