交響曲第9番ニ短調
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
86/03/21
AUDIOR AUDSE-520〜1

 チェリ目次ページに挙げたCDの中で私が最も後に入手したのがこれである。(2004年11月追記:その後「リアル・ライヴ」の海賊盤CD-Rを3種購入した。)2枚組だが1日の演奏会を収録したのだろうか? DISC1のショスタコーヴィチ9番も名演だし、諸経費込みでも2000円ちょっとで入手できたので安い買い物だった。彼の実演を知らない一般人にとってEMI正規盤は敷居が高すぎるのか、ネット上の評価もSDR盤あるいはMPOでも80年代の演奏の方が高いようである。かくいう私もそうである。トータルで約66分というのは遅いけれども、決して遅すぎるということはなく、絶妙なところギリギリで踏みとどまっているのが良い。(ジュリーニ&VPO盤はさらに長い。)ディスクそのものを比較するなら、やはりEMI正規盤より当盤なのだろう。もちろん「実演でしか感じられないチェリの本当の凄さは入っていない」には反論しない。録音も極上であり、同じオケを振ったヴァントのsardana盤と甲乙付けがたい。「インフレーション」(2分21〜31秒)の響きはSDR盤と似ているが、「ビッグバン」(2分31〜50秒」ではユニゾンでも弦と管のパートが明瞭に聞き分けられる。迫力も十分である。ここを聴いて思わず「やったあ」と歓声を上げてしまった。ヴァント盤と比べると「込み上げてくる切なさ」はやや希薄であるが、「磨き上げた美しさ」という点では当盤が断然上である。音色こそ全く違うが、カラヤン75年盤と同じような「果敢ないゆえの美しさ」 を見事に表現していると思う。
 なお、同じ「緑」でも81年の演奏とされるAUDSE-511〜2は当盤より第2楽章が約1分短く、逆に第3楽章が約1分長くなっているようだ。その結果として両端楽章の差が1分以内になっており、全体としてのバランスが優れているといえる。チャンスがあれば入手したい。(追記:2004年8月に同じ内容を収録したCD-Rを入手した。)なお、その9番はMETEORからも出ているが(MCD-038)、ネットオークションでの高騰が激しく(時に5桁に上ったこともあった)、入手は極めて困難となっている。もしかしたら「チェリの紫のブル9」の方が音質良好なのだろうか?
 ここからは私の持論なのだが、この曲の「第1楽章と第3楽章の演奏時間の差は1分を超えてはならず、超えている場合はどこかが間違っている」と考えている。第4楽章を完成できるかどうか怪しくなったブルックナーは、第3楽章で完結しても問題がないようにと考えてこの楽章を書いたと思う。その場合、第2楽章(トリオ形式)の中間部を折り返し地点とした対象型(両端がスローテンポの楽章)になる。何でも数えるのが好きだったというマニアックな作曲者(セサミストリートに登場する「カウント・フォン・カウント」の19世紀版)のことだから、(彼がイメージした)正しいテンポで演奏していけば両端楽章のトラック・タイムはピッタリ同じになるはずだ。だから、1分も違っているような演奏はバランスを欠いていると私は考えている。もっとも、「バランス欠如=ダメ演奏」ということにはならない。感動は別の軸上にあるからだ。

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