交響曲第9番ニ短調
クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送交響楽団
02/05/03
Sounds Supreme  2S-062

 通販サイトの宣伝文にはこうあった。

 ヴァント指揮のベートーヴェン・プロが予定されていたが、
 惜しくも逝去。ヴァント晩年の代表的プログラム「未完成」、
 「ブル9」をメモリアル・コンサートとして万感の思いを
 込めて現NDR首席エッシェンバッハが指揮した。メンバー
 もヴァントの通りに演奏したと言う伝説のライヴ。

こういうのに弱いのよワタシ。とはいえ、ヴァントと瓜二つの演奏など聴きたくもない。(許光俊が「ヴァントが離れて以降の北ドイツ放送響からは年々魅力が失われつつある」などと書いていたが、それが事実だとすると劣化コピーにしかなり得ない訳だし。)もちろんエッシェンバッハ独自の解釈を期待したのである。楽天フリマで1000円以下だったはず。文字通り「音質最高」を看板に掲げているレーベルなので、その点については全く危惧していなかった。(さすがにモノラルやヒスノイズまみれの音源を売ったりはしないだろう。)しかし、ヘッドフォンで聴くとリミッターによる調整なのか、突如音量が下がるところが何ヶ所もあって気持ち悪かった。
 さて、第1楽章1分過ぎでいきなりやっている。ファンファーレで大きくうねる。この時点で「ヴァントの通り」が嘘八百であると判明する。とはいえ、以後ビッグバンに至るまでセカセカテンポにしないのは「ヴァント流構造主義」のスタイルである。そして、ビッグバンの(少々薄味に聞こえる)響きもヴァント&NDR93年盤のそれとまさに同じだが、以降の「伸び」の大きさはエッシェンバッハ流の味付けである。こういうのは積極的に採用してもらって構わない。だが、彼はその前にやるべきことがあった。インフレーション(2分53秒〜)ではホルンの合いの手が他のパートと明らかにずれている。ヴァント時代には考えられない乱れである。言いたいのは他でもない。盛り上がりを強調しようという意図は解るのものの、仕上げが不十分なために「崩れ」と判別できなくなってしまっているということだ。(ついでながら、9番に限っては「デフォルメ」と感じさせるような解釈は全て御法度である。)こういうのを数え上げればキリがない。(まさかヨボヨボのヴァントがこの日指揮台に上っていたらこれ位乱れるだろうと踏んで「ヴァントの通り」を謳った訳ではあるまい。)リハーサル不足もあるかもしれないが、特定パートが前のめりになったり遅れたりするため、どうしても統率力不足を感じてしまう。それ以前にフレージングの甘さが気になって仕方がなかった。その結果、速い部分では「崩れ」が耳に付くし、遅い部分では音楽の流れが滞ってしまう。そして、4番評にも書いたようにエッシェンバッハの音楽が(テンポの速い遅いに関係なく)リズム感に欠けるのも偏にこの不正確なフレージングが元凶である。(あるいは個人の裁量でリズムを崩すことが許されていたピアニストから転身した指揮者の宿命なのだろうか? とはいえアシュケナージやバレンボイムはここまで酷くないから、エッシェンバッハがピアニストとしても相当な異端児だったためかもしれない。)これが彼の今後の課題だろう。
 そういえば許も「言いたい放題」にて「どう見ても、エッシェンバッハは指揮が下手だ。どう聴いても、相当異常だ。」と指摘している。さらに、「各地で評判がそれなりによくて、いいポストも持っていて、相変わらず奇怪な演奏をしている。」と述べているけれども、私はそのままで押し通せるほど甘くはないと考えている。この楽章の中間部やコーダでアホなテンポいじりをしていないことから、楽譜の読みはしっかりしていることは明らかであるし、両端楽章に遅めの基本テンポを設定しながらも決して間延びしていないことから判断すれば、パリ管客演の4番で聞かれたほど統率力に劣ることもないようだ。ジュリーニやバーンスタインにも匹敵する終楽章のスケールの大きさからは紛れもない才能を感じる。あとは細かい詰めだけである。と思っていたが、2004年からはドホナーニがNDRのシェフの座に座っている。「エッシェンバッハよ今どこにいる?」と跡を追ってみたら(要は検索してみただけだが)いつの間にかフィラデルフィアに高飛びしていやがった。新天地でのブルックナー続編も聴いてみたいところである。

おまけ
 あるクラシック総合サイトでは、エッシェンバッハのシューマン交響曲全集を「鳴らすところはとことん鳴らす、それこそ容赦なくとことん鳴らす、そして繊細な部分はとことんネットリと演奏する、そう言う確信に満ちていますね」と評していたが、その捉え方は正しいと思う。さらに「こうなると、音が汚いとか、楽器のバランスがどうのかという問題ではなく、彼の闇から吠えるような音楽に共感できるかどうかの問題になります。」「こういう演奏は、好きになるか、気分が悪くなるかの二つに一つです。」と続いていたが、やはり当サイトのブルックナー評も見事なまでに6番とそれ以外(49番)とで賛否真っ二つに別れてしまったのも当然かもしれない。

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