交響曲第9番ニ短調
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
95/09/08〜13
EMI TOCE-11621〜2

 このディスクの録音に対しては不満はない。8番EMI正規盤では???だった「切れ味の鋭さ」はこの盤では感じられるし、非常に艶があって美しい音だとも思う。5番や8番のようなAUDIORによる極上録音&演奏が存在しないことも大きいのかもしれない。ただし発売形態には大いに不満がある。トータル77分弱の演奏がなにゆえに2枚組なのか?! リハーサルなど付けず4番のように1枚で発売すべきだ。これまでフルトヴェングラー、マタチッチ、朝比奈のディスクを購入した際にもリハーサル風景が併録されていたが、興味のない私は聴いたことがない。曲が終わった後は余韻に浸りたいと思っているのに、オマケのトラックが再生されるのは邪魔である。どうしてもリハーサルを付けたいのならDISC1が9番全曲、DISC2をリハーサル風景とすべきではないか。確かにリハーサルにも興味があるというファンもいるだろう。ならば、1枚もの(9番のみ)と2枚組の両方を発売して、好きな方を選べるようにすれば良いだけのことではないか? 蛇足ながら、その場合には後者を1枚分の価格(DISC2はボーナス扱い)とするのが筋(業者の良心)というものである。そもそも、ヴァントのケルン全集のように7番1枚と9番1枚という2枚組を最初から出しておけば私がこのように噛み付く必要もなかった。この業者への不満は堪りに堪っているが、ここで一旦止めておくことにする。
 許光俊著「世界最高のクラシック」によると、当盤がチェリ最後のブルックナー演奏だったらしい。彼はEMI正規盤の489番を紹介しているが、9番に最も多くの字数を費やしている。(指揮者への傾倒が伝わってくる非常に感動的な評論である。)そして、「録音ではチェリビダッケのすごさはわからない」という前言を翻し、「この三曲(489番)を聴けば、すごさのすべてではないにせよ、これらが途方もない演奏だったことは間違いなく、わかる。」と結んでいる。が、私は「途方もなく遅い演奏」ならば完全に同意できるけれども、残念ながら「途方もなくすごい演奏」とは今に至るまで思うことができない。実演の印象の助けを借りながらディスクを聴くことができる許と、それが不可能な私との違いであろう。ともに30分を超える両端楽章は、スローテンポのままで(インテンポで)演奏すれば単調に陥る危険が大きすぎるためか、チェリはメリハリを付けることによってそれを回避しようとしている。例えば、第1楽章「ビッグバン」のテンポを冒頭から「インフレーション」までよりも相当に遅く設定している。さらに、「宇宙の晴れ上がり」直前(3分05〜20秒過ぎ)に至ってはカタツムリの歩みのようである。しかしながら、5番のヴァント&BPO盤のページに書いたように、(5番や8番なら功を奏したのかもしれないが)この曲に限ってはテンポのメリハリがキツイと私は興が削がれてしまう。これに尽きる。ただし、第2楽章は「スケルツォに聞こえない」というネット評もあるようだが、私には許容範囲ギリギリに収まっていて巨大さが上手く出せている演奏と聞こえた。

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