交響曲第9番ニ短調
ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
84/08/16
The Bells of Saint Florian AB-3

 カラヤンでもヴァントでもヨッフムでも、BPOが9番を演奏するとみんな体育会系というか筋肉質の演奏になってしまうという印象がある。(カラヤンの75年盤は突然変異的な演奏だと思う。)ところが、このクーベリック盤はちょっと違う。既に第1楽章冒頭から非常に伸びやかで、他盤のように窮屈さは感じない。インフレーションの終わりから少しずつテンポを落とし、ビッグバンも途中から遅くする。お陰でスケール感はBPOによる演奏としては随一である。他の曲でもそうだったが、クーベリックは9番に関しても特にインテンポにはこだわっていない。7分少し前から8分12秒までの味わい深さは格別である。「構造」あるいは「造形」という点からは間違っているのかもしれないが、こういうのも私は好きである。時に加減速することはあっても節度を失わないのが何といっても良い。テンポを少々揺らしてもアンサンブルが全く乱れない高機能オケだからということもある。剛毅一辺倒の演奏を赤身肉とするなら、当盤には霜降りが入っていると喩えられようか。といっても不健康な入り方ではない。コーダでも少しだけ手綱を緩めることによって、BPO特有の重々しい響きと開放感を両立させているのは見事だ。第2楽章は霜降りのせいで少々散漫な感じになってしまったかもしれない。終楽章は宇宙の終わりを表現したものとして文句の付けようがない。12分台後半から伴奏トレモロの完璧さに今更ながら舌を巻いていたが、13分30秒の大爆発には完全に脱帽した。何と正確かつ巨大な演奏! この指揮者との共演をBPOのメンバーは心待ちにしていたのだろうか? 最後まで手を抜かない。消える直前に大きく燃え上がる蝋燭を思わせる23分47秒以降は特に素晴らしい。その後の24分47〜58秒もやる気満々である。(バーンスタイン盤ページで触れると思うが、刻みがハッキリ判る弾き方をしている。)最後も消え入るようではなく、少し余力を残しているかのような終わり方である。よって「はかない美しさ」が際立っていたカラヤン75年盤とは少々毛色が異なるけれども、BPOのブル9としては双璧をなす名演である。(もしチェリが振っていたら、これらに割って入っただろうか?)

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