交響曲第9番ニ短調
オイゲン・ヨッフム指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期不明(87/01 → 83/07/20)
METEOR MCD-058

 通販サイトの紹介文にはヨッフム最後の演奏会で録音は1980年代とあり、他に1987年と記したサイトもある。5番ACO86年盤(KING)のブックレットには、「ヨッフム最後の公演は、ミュンヘンで1月におこなわれた」とあるが、当盤がそれを収録したものだとすれば、彼の死(1987年3月26日)のわずか2カ月前の演奏ということになる。この9番でも私の嫌いな箇所が耳に付くが、それ以上に聞きどころは多い。
 まず音がいい。チェリビダッケ&MPOのどの録音よりも音質良好で、ヴァントの9番sardana盤と肩を並べている。「カラヤン・サウンド」と(は重々しさという点で違うが)同様にメタリックで艶のある音色がよく捉えられていると思う。第1楽章の24分台はフツーのテンポであるが、それまでの録音より一気に1分も遅くなり、ヨッフムとしては異様に遅いテンポといえる。彼は速い部分は本能的に駆け足になってしまうので、その分遅いところはチェリ並に遅く感じる。不慣れなテンポを採用したことが響いたのかは知らないが、遅いゆえにアンサンブルが壊れているという所もなくはない。が、勢いに任せて壊してしまうよりよっぽどマシである。この程度の「壊れ」は我慢できる。(クレンペラー盤ぐらいになるとさすがに辛い。)ヴァント&MPO盤のページに書いた「切々たる響き」は当盤でも感じられる(20分50秒〜)。弦と管のリズムが揃ってないため、こみ上げてくるものがやや少ないのが惜しまれるが・・・・・その代わり、コーダの22分19秒〜23分30秒頃までが素晴らしい。テンポがほんの少し揺れることが却って切なさを引き出している。これは他のディスクからは決して聴かれない。最後の最後で走ってしまうことはこの際大目に見よう。
 終楽章はもともと悪くなかっただけに、当盤は見事としかいいようのないものに仕上がっている。MPOの音色はBPOやSKDのように騒々しくないので、静粛さがこの楽章にはピッタリなのだ。特に26分丁度から曲が終わるまでの90秒間は、まるで曲と一緒に指揮者が天に一歩一歩昇っていくかのようであり、ヴァント&MPO盤の「最後の比類なき数分間」(ヴァント&NDR93年盤ページ参照)をはるかに凌駕している。ヨッフムがこの後100日もしない内に亡くなったことを知っている耳には、ここはまさに「遺言」に聞こえる。「諸行無常」「もののあはれ」をこれほどまでに感じさせてくれる演奏を私は他に知らない。

2007年7月追記
 来月Weitblickレーベルより正規盤がリリースされることが発表され、それによって正しい録音の年月日と場所(1983年7月20日、ヘルクレスザール)も明らかとなった。つまり各種ブート(METEOR、RE! DISCOVER、MEMORIES)の販売ページに記載されていたデータは誤りだったということである。よくあるパターンながら結果として随分と間抜けなことを書いちまった。改めて聴けば、「犬」通販サイトの紹介文にある「晩年とはいえ枯れ切った味わいとは異なる、オケを叱咤激励する推進力に富んだ演奏であり、チェリビダッケが磨きはじめた輝かしい音色と妙技がマッチした非の打ち所のない演奏です」にも納得できるかもしれない。(なお「バイエルン放送マスターによる音源は極上品質」とのことだが、当盤の音質に十分満足できているため買い直すつもりはない。)我ながらええ加減な奴と思うけれど、いまさら書き直す気にはなれんので、このまま晒しておくことにした。

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