交響曲第9番ニ短調
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
91/03/14
Rare Moth RM-531S

 ネットオークション経由で入手した3番91年盤(En Larmes)が予想以上に素晴らしかったので、調子に乗って入札→そのまま落札してしまったが、こちらはやや期待外れ。購入価格(2000円+諸経費)も決して安くなかっただけに落胆は決して小さくない。 いかんいかん。このところ手当たり次第に「リアル・ライブ」を入手しているような気がする。このままの勢いでヴァントにまで手を伸ばしていったらそれこそ「アリ地獄」である。今月(2004年10月)末でYahoo! プレミアム会員資格を(会費を半分で済ますために)いったん停止するので、これを機にしばらくオークションも覗かないようにすることにした。
 さて、当盤に付いていた解説(紙切れ)には以下のように書かれている。海賊盤(非正規商品)であることだし、そのまま転載してもまあいいだろう。(ネット通販のサイトでも同じ紹介文が使われている。)

 録音:1991年3月14日、ミュンヘン。ステレオ。初出音源。
  このコンビによる同曲は、1981年盤(FKM FKM-CDR167)、
 1986年盤(AUDIOR AUDSE-520(廃盤)/EN LARMES、ELS-
 02-205/RE! DISCOVE、RED-127)、1995年盤(EMI)が知られ
 ているが、 今回は1986年盤と1995年盤の間を埋める貴重
 な録音が登場。この9年間にチェリビダッケの演奏スタイ
 ルは大きく変化したが、代理店によると「結論から言えば
 この1991年盤がチェリのブル9のベストのように感じられ
 ます」とのこと。
  イン・ホール録音としてはまずまずの音質で、チェリの
 サウンドが実によく収録されている。

まず「イン・ホール録音って何や? ホールの外で録音できるわけないやろ」と思ったが、聴いてみるとどうやら客席での隠し撮りらしい。ヒスノイズが耳に付くし、音の欠落も気になる。残響のため音の拡がりはある程度感じられるものの、ヴァイオリンの音が左から聞こえてこないなど分離が非常に悪い。放送局が収録したのなら、いくら何でもここまで貧相な音になるはずがないし、エアチェックということも考えられない。最初はモノラル録音かと思ったほどである。が、PCに取り込んでチェックしてみたら2つのチャンネルの波形は僅かながら異なっている。ヘッドフォンで聴くとヴァイオリンがわずかに右寄りに聞こえるので、あるいは左右逆になっているのかもしれない。いずれにしても(分離が悪いのはマイクの設置に制限があったので仕方がないとしても)、せめてデジタル録音機を使えなかったのかと不届き者を問い詰めたいくらいだ。ということで「まずまずの音質」は大嘘である。
 ところが、そんな録音にもかかわらず妙に臨場感があるのだ。(こちらが隠し撮りを意識しているせいもあるだろう。)特に強奏部分の生々しさはチェリの他のディスクからは感じられないものだ。(大音量でヒスノイズが埋もれるのも助かる。)トータルタイムは約70分(86年盤の95年盤の中間であるが、若干後者寄り)で、特に第1楽章は30分近い長大なものとなっているが、そのお陰で巨大さだけが感じられ、ノロいとは感じずに済んでいる。冒頭で触れた3番91年盤の丁度半年前の演奏会であり、演奏会に臨んだ指揮者の気力も非常に充実していたと思われる。弛緩したところは微塵も感じられない。よって、上の「この1991年盤がチェリのブル9のベスト」は、商品に対するコメントとしては賛同できないものの、演奏のみについて述べたものであればあるいは本当かもしれないと思った。(当サイトはディスク評なので、音質面での減点により上位には来ない。)それだけに遠くから鳴っているような録音がつくづく惜しまれる。このコンサートを聴いた連中はさぞかしええ思いをしたんだろうな、という妬ましさが次第に募ってきてしまうのだ。
 ということで、当初はフェドセーエフの「論外盤」と同じく「買ってはいけない!」に指定しようとまで考えていたのだが、演奏は素晴らしいのでそれからは辛うじて免れた。私のような物好きの方のみ、であるが手を伸ばされても悪くないだろう。

追記
 音質は何となくであるがムラヴィンスキーの来日公演時のチャイ5(Altus)と近いような気もする。あのディスクにふんだんに入っているテープヒスや会場ノイズがさほど気にならない人は、臨場感に不足していない当盤にも満足できるかもしれない。

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