ブルーノ・ワルター

交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
 コロンビア交響楽団

交響曲第7番ホ長調
 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
 コロンビア交響楽団

交響曲第8番ハ短調
 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団

交響曲第9番ニ短調
 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団(46)
 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団(53)
 コロンビア交響楽団

 ワルターといえば、彼の「田園」をテープに録って繰り返し聴いていたことは「私のクラシック遍歴」ページに記した通りである。また、私がクラシックにのめり込む切っ掛けとなったCBSソニー・ファミリークラブの「音のカタログ」にも彼の演奏が何種類も収録されていた。ゆえに私が最初に親しんだ指揮者といってよい。(やはりCBSに録音を残していたバーンスタインが二番手で、セルとマゼールが続いただろうか。EMIの来日記念廉価盤がCD初購入だったカラヤンは、かなり出遅れた。)
 やはり今月採り上げるクーベリックと同じく、「ベスト・クラシック100」の最初のシリーズ(87年)中でのラインナップを見ると、モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」他管弦楽曲集、ベートーヴェン369番、ブラームス14番、というたったの6点。大指揮者の割には冷遇されていたとしか言いようがない。(モーツァルトやブルックナーは音の良さを優先してデジタル録音のクーベリックが選ばれたのかもしれないが。)もしも私が最初期に集めていたマーラーとブルックナーがこの廉価盤シリーズ(1枚3000円は当時の最安値)で発売されていたら、前者の129番及び「大地」、後者の479番を間違いなく買っていたはずだ。(「音のカタログ」収録の39番メヌエットも気に入っていたので、もしかしたらモーツァルトにも早い時期から手を出していたかもしれない。)けれども当時は初CD化盤(1枚3500円、2枚組5600円)がまだ現役で、「なるべく安い物を買う」という方針によって選択肢からは外す以外なかった。後に「ワルターの芸術」(92年頃)や「新ワルター大全集」(98年頃)、輸入盤としても "The Edition" シリーズとして再発されたが "It's too late"、他の指揮者のディスクを既に所有していたので敢えて買い直そうという気にはならなかった。(要は「間が悪かった」ということである。)ブルックナーCDの蒐集を始めるようになって重い腰をようやく上げるに至ったという次第である。
 ここに挙げたブルックナー5種の内、ステレオ録音によるスタジオ盤479番は比較的早い時期に揃えたが、いずれも中古である。(4番は輸入盤の新品を最初に購入したが、後に国内盤を買い直した。詳しくは当該ページにて。)モノラルライヴ2種も中古で(8番は楽天スーパーオークション、9番はディスクユニオン新宿店)、ほとんど衝動買いである。ブル以外に持っているものはあまり多くなく、ベートーヴェンは36番のみ。(「音のカタログ」に収録されていた9番は同級生から借りて聴いたが全く気に入らなかった。他の番号は未だに聴いたことすらない。)CBSステレオ録音をともに中古屋で買ったが、前者は渋谷レコファンでたしか100円だった。「不滅の名盤」である「田園」は文句の付けようがない。2位(ベーム盤)以下を大きく引き離し、断然トップである。「英雄」は他にトスカニーニ追悼コンサートのライヴ盤(M&A)も持っている。宇野功芳がことあるごとに絶賛しているという話だが、私にはその良さがもう一つ解らない。むしろ雄大なコロンビア響盤の方が好きだ。名盤選びで常に上位に来るフルトヴェングラー&VPOの52年EMI盤と演奏スタイルは非常によく似ているが、音質は当然ながら圧倒的に上回っており、私には過小評価されているように思えてならない。ブラームスは4枚組全集をこれまた中古で買ったものの、23番のテンポ揺さぶり攻撃で大きなダメージを受けたため、たちまち中古屋へ逆戻りとなった。後に「ベスト・クラシック100」(96年シリーズ)の14番を買い戻した。(ともに800円ぐらいだったような。)あとはマーラーで、12番はBOOKOFFで買ったので安かった。「大地」は正直言って好きな曲ではないし、9番もカラヤン82年ライヴ盤とバーンスタイン&ACO盤でとりあえず満足しているので、たぶん買うことはないだろう。以前から気になっており、安価な中古を見つけたら手を出すと思われるのはベートーヴェンの12番、それにシューベルトの「未完成」「グレイト」といったところである。(以前なら「シューベルトの89番」と書いたところだが、最近では数字の1つ少ない表記が次第に優勢になりつつあるようだ。けれども私は「未完成」を「第7番」、グレイトを「第8番」と書くのはどうしても抵抗がある。)モーツァルトも激安ボックスが発売されないかな? 非正規盤でも構わないから。

2005年12月追記
 モーツァルトはブックオフにて「ハフナー」から「ジュピター」まで6曲収録の2枚組を入手した。またブルックナーについても今月に9番のNYP53年盤を新規購入した。

おまけ
 「巨匠神話」(文藝春秋)という本にてワルターの「偽善者」ぶりが暴露されているらしいので前々から気になってはいるが、未だ入手していない。ただし間接的ながらその内容は知っている。「こんな『名盤』は、いらない!」(許光俊編著)の共著者の一人、吉澤ヴィルヘルムが「偽善の微笑みを忘れずに」という文章中で、多くの音楽専門家によるワルター観「微笑みを忘れずに」「温厚な人格がにじみ出た演奏」を覆すに十分なものであったとして、この本を紹介していたからである。ちなみに、あるクラシック総合サイトでも「巨匠神話」を読んでの感想が載っているが、確かにあれが全て事実だとすれば大変ショッキングな内容ではある。もっとも、このサイトのオーナーは「ブルーノ・ワルターは、すばらしい指揮者がすばらしい人間でなくてもいいという、生きた証拠であった。」という著者レブレヒトの言葉を引いて「私もそう思います。レブレヒトの本を読んだ後でもやはりワルターの音楽はすばらしく聞こえます。プライベートはあくまでもプライベート。音楽は虚心坦懐に聴くのが一番でしょう。下手に知識は詰め込まないほうがいいかもしれません。」と最後にコメントしている。あくまで冷静な人である。
 ここで吉澤に戻ると、彼は「巨匠神話」中の「卑劣で意地悪な利己主義者だった」(アンナ・マーラー)、「貪欲な豚」(シェーンベルク)、「感傷的なばか」(トスカニーニ)といったワルター評をこれでもかと示しつつも、最後には上記のサイト作成者とほぼ同じ結論を導いていた。(ワルターへの愛情など微塵も感じられぬ底意地の悪い書き方ではあったが。)そこまでは良しとしよう。だが、あの文章のダメっぷりを見逃さなかった人がネット上にいた。
 その筆者は「こんな『名盤』は、いらない!」の【読書感想文】としてそれを記したということだが、「読んだ感想は1600円は高い買い物」と感じたらしい。(私と全く同じである。)そして、彼が「気になる部分を指摘しておきます。(悪のり風に)」として槍玉に挙げたのが、他ならぬ「偽善の微笑みを忘れずに」であった。「吉澤氏はさまざまな人の言葉を引用しているが、その信憑性について、第三者の言葉の尾ヒレについて調査・検討したのだろうか?」と疑問を呈し、「吉澤氏はワルター=偽善者説を読者に“すりこみ”させようとしているようだ」と指摘しているが、全くその通りである。貶しが鈴木の(それしかない)得意技なら、“すりこみ”は吉澤の常套手段である。また、吉澤がワルターの講演内容を読んで「いかにも自己宣伝のような内容」と批判的に書いたことに対しても「バカバカしい!!!」と一刀両断。「人間が講演を依頼されれば当然カッコイイことをしゃべりたくなる。これを普段のワルターの姿と考えるのはオオマチガイ」は人間の心理をちゃんと念頭に置いた至極尤もな意見である。ところが、吉澤は「普段のワルターの姿」という前提であれを書いたのだから、読者への“すりこみ”を目論んだのか、それとも(許のページに書いたように)もともと素朴極まりない人間(ちゅーより爬虫類並み単純思考の持ち主)であるのかのどちらかである。
 最後にダメ押しとして、論理破綻までもが指摘されている。吉澤は「ワルターがアメリカ人をバカにしていた、あるいは嫌っていたのでそもそも関係が上手くいくはずがなかった」など理由を付けて「手兵のニューヨーク・フィルとは最後までしっくりいかなかった」と述べている。(実は「もはや用なし」として最近この本を人に譲ってしまったため、手元にないままでこれを書いているのである。)ところが、モーツァルトの交響曲の録音に話が移ると、晩年のコロンビア響とのスレテオ録音をこき下ろすために「NYPとのモノラル録音は別人のように素晴らしかった」などと、舌の根も乾かぬうちから前言と見事なまでに矛盾するようなことを書いてしまっている。(「まだ若いのに認知症か?」と書いたらさすがに誹謗中傷になるだろうな。ま、自説に固執しがちな「最初に結論ありき」タイプの書き手が陥りやすい過ちである。)この感想文の結文「理の評論とはこの程度のものなのか???」は極めて正当な評価である。
 ところで吉澤は民間の研究所(分野は不明)で働いていたらしいが、そっちの方面での書き物はしなくても済んでいたのだろうか? 私が言うのも何だが、こんな体たらくではマジでヤバかったのではないか。大量のクレームが付くことは十二分に予想されるから。何にせよ、小遣い稼ぎのような執筆活動をこれ以上引き受けないでもらえたら読者にとっても幸いである。今どこで何をしているのか知らないが、二足のわらじなどは考えず、本業に専念していただけたらと思う。(余計なお世話か。)

2006年2月追記
 青弓社より吉澤の新刊「ピアニストガイド」が今月発売された。許光俊がHMV通販サイトの連載「言いたい放題」にて「力作の本」などと宣伝していたが、確かに300人ものピアニストを378ページもかけて紹介するというのは片手間ではできない仕事であろう。分量に相応した価格設定(税込定価3150円)、および器楽奏者にさして興味が湧かないという理由により私はスルーするが、レビューでも読めないものかとアマゾンに飛んでみたら「2点在庫あり。ご注文はお早めに。」とあったので驚いた。そんなに売れているのだろうか?

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