ジュゼッペ・シノーポリ

交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
交響曲第5番変ロ長調
交響曲第7番ホ長調
交響曲第8番ハ短調
交響曲第9番ニ短調
(全てシュターツカペレ・ドレスデン)

 Kさんとのメール交換において、シノーポリはマゼールとともに最初期に登場した指揮者である。以下は1998年11月21日に受け取ったKさん執筆分(>>)に対し、私が5日後に返信したものである。

>>  ところで掲示板での話題ですが、シノーポリというのはやはりダメ指揮
>> 者なのでしょうか。

>  掲示板に書いたように僕は彼の「復活」に腹を立て、中古で買ったエルガ
> ーの2番のあまりの緩んだ演奏に唖然とし(異常に遅く、普通50分ぐらいの
> ところを65分)、FMで聴いたブルックナー4番で「こいつはもう駄目だ」と
> 烙印を押してしまいました。その後、スクリャービンの3番&4番を指揮者
> をよく見ないまま中古で買ってしまいましたが、これらは初めて聴く曲だっ
> たので「こんなものか」とすんなり受け入れられました。
>  彼のマーラーは深読みしすぎというか、ヒネリすぎるところがかえって裏
> 目に出て、感動からはほど遠いものになってしまうのだと思います。その他
> のドイツ・オーストリア系の曲、それに19世紀(およびそれ以前)の曲の多
> くも同じ理由でダメなのでしょう。ただし20世紀の音楽、まだスタンダード
> な解釈というものが無く、これからいくらでも優れた新解釈が出てくる可能
> 性がある曲の場合、彼の解釈がうまい具合にピッタリはまることもないとは
> 言えません。最近は「何をリリースしても特選」といった感のあるブ−レーズ
> にはそういうところがありますが、シノーポリもブーレーズとは違ったやり
> 方で大きな成功を収めるかもしれません。
>  ところで、指揮をするにも交響曲と協奏曲ではかなり違いがあるようです。
> 宇野氏は、カラヤンが指揮した交響曲はほとんどボロクソにけなしています
> が、協奏曲ではたまに褒めることもあるようです。もしかしたら、シノーポ
> リも協奏曲ではダメ指揮者ということはなく、いい伴奏をしているのかもし
> れません。聴いたことがないので何とも言えませんが・・・・・・

>>  シノーポリは延々と過大評価され続けているのでしょうか。それとも名
>> 指揮者へと変貌したのでしょうか……。

>  彼の以前の録音で起用されていたフィルハーモニア管は、イギリスという
> お国柄のせいか、それほど色のないオーケストラだったので、彼の自分勝手
> な解釈にも従っていたのでしょうが、いま常任となっているドレスデン・シ
> ュターツカペレには数百年の歴史もあるため、さすがに好き放題にはできな
> いでしょう。こういう伝統的オケとの関わり合いを続けるうちに角が取れ(余
> 分な力が抜け)、彼が円熟への道を進むのならそれに越したことはありません。
> 最近の録音である第九の評価もまずまずのようですし、それを聴いたら僕の
> 評価も変わるかもしれません。(ところで、僕がいちばん好きな第九のディス
> クはスウィトナー&ベルリン・シュターツカペレ盤です。とっくの昔に廃盤
> になっていますが。)

上のエルガーはもちろん即刻退去(現在は12番ともC・デイヴィス盤を所有)、他に中古で買った「オペラ合唱曲集」もやはり出戻りとなった。結局、ブルックナー以外で手元に残ったシノーポリのディスクはスクリャービンのみである。
 この際だから、上のやり取りの切っ掛けとなった「掲示板での話題」についても、例によって(=断りなしに)転載させてもらうことにした。(なお、私の投稿の最終部分=括弧内については蛇足のような気もするが、まあいいだろう。)

  ちなみにこの本(註:「指揮者とオーケストラ」のこと)の執筆者の中で
 は渡辺和彦の文章が抜きん出ていたように思います。この本を読んで以来、
 渡辺和彦の評論はつい気になって読んでしまいます。でもなぜかこの人、
 シノーポリを絶対に誉めません。
  シノーポリを聴いたことがないのでそれについては何も言えないのですが。
                       (Kさんの投稿、98/11/19)

  渡辺和彦氏、僕もこの人の文章には一目置いています。最初は随分きつ
 いことを書くな、と思っていましたが、決して感傷的にならず、筋が通っ
 ているので非常に説得力があるのです。説得力だけでなく、感性も確かだ
 と思います。彼が推薦する新譜ならまずハズレはないと思うほど信用して
 います。
  確かに彼はシノーポリを全く評価しないとまで書きました。シノーポリ
 が世に出てきた頃(80年代終わり)、評論家の多くは彼が医学博士でもある
 ことに目を奪われ、音楽の本質を見ないままに「深い精神分析により裏打
 ちされた演奏」などと持ち上げたのですが、僕は彼のマーラー2番(各誌
 が絶賛していたのでつい買った)を聴いてすぐ「何じゃこら!だまされ
 た!」と思い、売り飛ばしてしまいました。この「復活」、当時中古屋に結
 構並んでいました。今では、当時彼を褒めまくっていた人たちは沈黙して
 います。節操のないこと甚だしい!(あくまで、彼を素晴らしいという人
 はそれで立派です。僕とは耳が違うだけですから何も言いません。)その点、
 最初から評価しなかった渡辺氏の鑑識眼(耳)は確かであったと言わざる
 を得ません。
 (ところでシノーポリ=ダメ指揮者という点では、僕があまり好きではな
 い徹底したアンチ・カラヤン派の宇野功芳氏と不思議なことに見解が一致
 しています。宇野氏、あの支離滅裂なカラヤンバッシングさえ止めたら、
 もうちょっと上のレベルにいけると思うのですけど。ああいうのばかりを
 書いていると、文章が卑しくなってしまうのではないでしょうか。)
                       (私の投稿、98/11/20)

ということで、当時の評価は最悪に近かった。翌年にもこんなことを書いている。

>  少し前になりますが、先月20日土曜の晩は、NHK-FMのベスト・オブ・
> クラシックでシノーポリのマーラーを聴きました。前半の「さすらう若人の
> 歌」はまずまず。実は、僕は彼のマーラー歌曲の演奏については以前より評
> 価しているのです。「復活」にカップリングされていた「若き日の歌」「さす
> らう若人の歌」は、まず何といってもヴァイクル(バリトン)やファズベン
> ダー(メゾ・ソプラノ)の歌唱が最高ですが、オケのサポートも見事です。
> 吉田氏も「この一枚」では、交響曲第5番よりもLPにカップリングされて
> いた「若き日の歌」の方を高く評価していました。
>  ところが、コンサートのメインの交響曲第1番「巨人」は全くスカタン!
> 何年か前にテレビで観た来日コンサート時と解釈は変わっておらず、しかも
> この前はイタリアの放送オケが下手なのでもっと悪かった。とにかく、彼の
> 解釈には首を傾げる以外ない部分が数多くあります。いろいろと考えている
> のでしょうが、彼が小細工をこね回すほど、感動からほど遠いものになって
> いるような気がします。もっとも「巨人」については、猪突猛進的なバーン
> スタインの旧盤(新盤は少しくどい)と定評のあるワルター盤以外で感動し
> たことがないのですが・・・・            (1999/03/05)

ところが翌年になると少々様相が異なっている。下はシベリウスの交響曲第2番について述べたものである。この日のメールでは「クラシック名盤&裏名盤リスト」に言及した部分が数多く見受けられるが、どうやら洋泉社のクラシック本の執筆陣に加わっていた「アホ系評論家」連中に感化され、変態演奏にも関心を持つようになっていたらしい。(ちなみに下の「故両巨匠」とはカラヤンとバーンスタインを指している。阿佐田達造は「ここまで我田引水してしまうのはヒドイ」として彼らのディスクを「と」盤に指定していた。)

>  もうちょっと脱線すると、バーンスタインの2番では2楽章が超遅速で20
> 分を大きく超えるため、全曲で50分以上かかります。(DG盤の「悲愴」は
> 終楽章が17分!で、こちらは約1時間かかる。)ふと聴いてみたくなったの
> がやはりチェリ。(録音してないか?)それにシノーポリです。通常50分程
> 度のエルガー2番に65分かけている彼ならば、故両巨匠を超える究極の
> 「と」盤を作ってくれるのではないかという期待があります。(2000/03/13)

そしてブルックナーCDの蒐集を本格的に始めて以降、シノーポリに対する私の見方は決定的に変わる。その発端は「クラシックCD名盤バトル」にて鈴木淳史がブル5を褒めていたのを読んで興味をそそられたことであるが、実際に購入したのは国内廉価盤の4番が最初で、2003年7月のことである。(通常盤の5番は高かった。)その印象が悪くなかったため、続いて同年9月に5番を輸入盤で購入。さらに昨年(2004年)末から今年にかけて789番も入手するに至った。それらの全てが正攻法による見事な演奏であったことから、ようやくにしてこの指揮者の評価を改める気になった。(今気が付いたが、私が所有する5種はどれも新品購入であり、これは異例中の異例である。なお、他に録音が残されている3番は国内未発売であり、輸入盤も極めて入手困難のようである。→2006年4月追記:ヤフオクにて落札に成功。→2007年1月追記:遅蒔きながら3番の国内盤POCG-1440が91年10月に発売されていることを知った。ただし再発は一度も行われていないため(シャイー盤同様)お詫びはしない。ショルティみたく没後10周年企画としてまとめて出すつもりだろうか?)
 シノーポリについてもクーベリックやマゼールと同じことが当てはまるように私は考えている。すなわち、「マーラー指揮者」という世評とは裏腹に、むしろブルックナーの方が相性が良いという気がするのである。(マーラーは上記以外にも56番を聴いたことがあるが、私的にはことごとくペケであった。)クーベリックは知らないが、同じく「作曲もする指揮者」ということでマゼールと何らかの共通点(マーラーよりブルックナーに親近感を覚える理由)があるのだろうか?

おまけ
 クナッパーツブッシュのページ作成で大いに参考にさせていただいたS氏も、「案外シノーポリがブルックナーとの親近性を持っているのではないかと思えるくらいにいい演奏」(4番評)、「シノーポリは、マーラーよりブルックナーの方に、より深層部では通底しているような気がする」(8番評)と述べておられる。

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