交響曲第8番ハ短調
ジュゼッペ・シノーポリ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
94/12/14-21
Deutsche Grammophon UCCG-3232〜3

 某掲示板のブル8スレで、シノーポリの8番は良いという書き込みを目にした。5番に満足していたため欲しくなったが、「犬」サイトにて「bruckner sinopoli」で検索したら何と5番しか出てこない。「尼損」でも8番は国内、輸入とも在庫切れである。慌てて大学生協の「music online shopping」に行ったところ、「取寄せ商品」である。入手不可になる前に買っておかないとヤバいかもしれないと考え、同じ扱いだった9番と同時に注文した。意外と速やかに入荷したのでホッとした。ところがである。後に両盤がネットオークションに出品されているのを眺めていたところ、それほど値上がりしないまま終了したので拍子抜けしてしまった。とても品薄とは思えないほどの無風落札である。焦って少し損をした。(これから先、3番並に高騰する可能性もないことはないが・・・・)
 とはいいながら、演奏自体は大変素晴らしいものだったから救われた。(安物買いの銭失いよりはずっとマシである。)とにかくスケールの大きい演奏である。17分を超える第1楽章もシノーポリ流の緻密演奏では全く間延びすることがない。5分20秒から2分以上続く弱音部分のヴァイオリンによる細かな表情づけは見事としか言いようがない。一方、迫力にも不足していない。9分04秒〜や9分26秒〜で少しだけテンポを上げるが、セカセカというほどではないからスケール感は損なわれない。彼の楽譜の読みが確かであることを示している。(マーラーではなぜダメだったんだ?)カタストロフの堂々とした歩みもたいそう立派であるが、ちょっと粘り過ぎているという感じで、その分鋭さには欠ける。好き嫌いでいえば、もうちょっと尖っていて欲しかった。(獲物に襲いかかるようなヴァント93年盤が私の理想だ。)ところが第2楽章は結構鋭かったりする。よくわからない。第3楽章は粘るスタイルで正解。ここでも弱音の表現が素晴らしいが、過度に耽美的にならないのが良い。12分50秒頃から左右の弦による掛け合いに耳を奪われていくが、その絡みが次第に執拗になっていく。18分42秒〜のヴァイオリンの音型をハッキリ弾かせているのもシノーポリ流である。こういうのは何となくマーラー的であるように思うが、それが7番アダージョとは違ってこの曲では気にならない。というより、結構合っているような気がしてくるから不思議だ。さすがに20分40秒〜のチェロの対旋律はやりすぎだと思ったが。クライマックスで何か変なことをやるかと思っていたが、そんなことは全くなし。終楽章も正攻法で押し切っている。テンポ設定は真っ当そのものだし、あざとい解釈は冒頭からエンディングに至るまで聞かれない。最後の「ミーレードー」は私の理想を具現している。恐れ入りました。
 ところで、9番を酷評していたI氏も、シノーポリの死後には当盤を「ある程度客観的」に聴き直すことができたため、「熱血漢のシノーポリらしい演奏だと感じられるようになった」そうである。(購入時には「もうこの組み合わせのブルックナーは二度と買うまいと堅く心に決めた」とのことであるが。)私はシノーポリの(あくまで曲との距離を置いた上での)分析が最も功を奏した例として当盤を評価しており、「熱血漢」という見方には賛同できないが(それ以上に氏のサイトで紹介されていた録音エンジニアの「暖かく宗教的なブルックナー演奏」というコメントには賛同不可能)、極めて水準の高い演奏であることは間違いない。
 最後に録音であるが、当盤を「音響的に面白い」と評していたI氏は、「サウンドそのもののデモンストレーションには良いCD」として4Dオーディオ・レコーディングにも言及していた。ただし、この録音方式は確かに音の拡がりという点では抜群であるものの、私は少々散漫という印象を受けないこともない。当然ながら再生装置に向き不向きがあるだろうし、好き嫌いもハッキリ分かれるのではないだろうか。

8番のページ   シノーポリのページ