ドゥルス・ポンテス(Dulce Pontes)
 向こうがメカーノを出してきたならば、それに対抗するためにはDulce Pontes(ドゥルス・ポンテス)しかあるまい。(←おまえは紅白歌合戦の司会者か?)Mで始まる団体を初回から3組連続で紹介してきたが、その記録がここでストップするのもやむを得まい。
 話はいきなり飛ぶが、いわゆる「三大テノール」のうち私が最も美しい声だと思っていたのはパヴァロッティである。何かのアリア集CDの帯で「これまで一度もクラシック音楽を聴いたことがない未開人でも、パヴァロッティの声には魅了されるだろう」というようなコピーを読んだ記憶があるが激しく同意する。ただし、アッケラカンとした歌いっぷりは一本調子で、時に脳天気にも聞こえてしまうこともあったのが玉に瑕。(単細胞の主役を演じるには好都合だったようだが。)オペラ歌手としての表現力(人物描写など)はドミンゴの方がはるかに長けていたように思う。歌唱力は甲乙付けがたかったから(ルチアーノは楽譜が全く読めなかったけれど)、トータル的に判断すれば実力はドミンゴの方がやや上である。私はそう考えてきた。(もう1人は蚊帳の外。なお、過去形で書いたのは既に彼らが全盛期を過ぎてから年月がかなり経っているためである。)
 さて、これまで採り上げた女性歌手、Teresa SalgueiroとAna Torrojaは掛け値なしに素晴らしい声の持ち主である。(私はこれにKaren Carpenterを加えて「世界三大美声女性歌手」としたいのである。彼女はアルトゆえ声質は全く異なり、名前とは裏腹に(当たり前)決して可憐とはいえないけれども、発声あるいは発音の美しさを含めた歌唱力では紛れもなくトップクラスだと考えているから。)ポンテスも十分美声ながら、透明感抜群で鳥肌が立つほどだった上記2名と比べればさすがに一歩を譲る。しかしながら、情念を見事に歌い上げるという点で Amália Rodrigues の域にまで迫ろうとしているほどの彼女だから、表現の豊かさということでは一日の長があるように思う。また、デビュー当時から技術的にも全く不安がなかった。ということで、当サイトで紹介する予定の全歌手のランキングを総合評価によって行うとすれば、その頂点に立つのは他ならぬポンテスではないかしら?(←吉田秀和口調)実はそんな風に考えているのである。
 この人については特に書くことはない。他のラテン系歌手と同様、FM雑誌の特集で高く評価されていたため名前が記憶に残り、後に中古屋でディスクを見つけたから手に取ってレジに持って行ったというお決まりパターンである。最初に買ったのが2ndアルバムの "Lágrimas" で次が3rdアルバム "Caminhos" (入手順は多分それで合ってると思うが、もしかすると逆かもしれない)でやはり中古、以後は "O Primeiro Canto"(4thアルバム) → "Lusitana"(1stアルバム)→ "Focus"(Ennio Morriconeとの共演盤)の順に新品を購入した。

おまけ(ディスク評執筆を終えて)
 ブルックナーのページ(インバルの目次)には「最初の4人(ヴァント、チェリビダッケ、カラヤン、ヨッフム)を終えるまでが第1の山」などと書いた。ポピュラーの方も全く同じで、最初の4ヶ月(モセダーデス、マドレデウス、メカーノ、そしてこのポンテス)のページ作成には予想をはるかに上回るエネルギーと時間を注ぎ込むこととなった。とはいえ、クラシック関係の文章のように肩が凝ることもなく執筆作業はとても楽しかった。ようやく来月からは少し余裕が生まれそうだ。実は特別企画も考えているところである。

ポルトガル語圏の音楽のページに戻る