Lusitana
1992
Movieplay Portuguesa MOV 30.426
マドレデウスの "Os Dias da MadreDeus" と同じく、ポンテスのデビュー・アルバムとなった当盤も現在に至るまで国内盤は発売されていない。その存在は次作 "Lágrimas" の日本語解説で知っていたが、早速職場の生協に注文したものの、とうの昔に廃盤となっていたため当然ながら入荷せず。いったんは諦めていたが、2001年11月にamazon.co.jp で売られていたのを発見(不覚にもその約1年前に再発されていたことを知らなかった)、ようやくにして購入の運びとなった(税込で2000円ちょっと)。
このディスクについては聴後の感想をKさんへのメールに割合詳しく綴っていた。そこで今回は手抜きで済ます。
聴いてみてやや意外だったのは収録曲がポップスだったこと。私はポンテ
スはポルトガルの伝統的音楽から出発し、後に無国籍音楽へとシフトしてい
ったという先入観を何となしに抱いていたのでした。それにしても10代にし
てあの歌唱力! 曲が普通のポップスだけに上手さが余計に目立っているよう
な気がしました。その後、次作の「ラグリマス」をかけたのですが、1曲目
の「海の歌」の歌が始まった時の驚きといったら! この間、彼女に一体何
が起こったのか、と暫く呆然としてしまいました。落ち着いて考えてみると、
曲自身の持つ力が大きいこともあって、表現が前作とは比較にならないほど
幅広くなっていることに気づきます。窮屈だった服を脱ぎ捨て、ようやく自
分に合うサイズのものを彼女は見つけたのだ、そのように感じました。その
後「明日を夢見て」「プリメイロ・カント」と聴き続けました。以前「プリ
メイロ・カント」は「偉大な失敗作」かもしれない等と書きましたが、ここ
に至ってようやく、彼女がポップスによる表現に物足りなくなったために
(あれだけの実力があれば、そのままでも売れていたでしょうが)新しい境
地へと足を踏み出さざるを得なかったのだということに思い当たったのでし
た。ここで言いたいのは、「近づくためには離れる必要がある」ということ
です。既に絵画では接近して細部を見ると同時に離れて全体を眺めることの
重要性は叫ばれていますね。私もポンテスのデビュー作を聴いて初めて、一
時は不可解とも思えた彼女の新しい試みの凄さが理解できたのでした。また
また判ったような口の利き方をしていますが、とにかくポンテスは素晴らし
い。マドレデウスと共に次作が出たら絶対に買おうと思わせる今や数少ない
アーティストです。 (2001/12/25)
改めて読み返し、いきなりボケをかましているのを見つけてしまった。3行目終わりだが、ポンテスは1969年生まれだから当盤の録音時には既に20代だった。(どうしてこんな初歩的間違いを犯したのだろう?)とはいえ、印象自体は当時も今も全く変わらない。桁外れの歌唱力(技術的には既に完成している)と途方もないポテンシャルを彼女が備えていることを知るには1曲目を30秒聴くだけで十分である。エネルギッシュで伸びのある声は言うに及ばず、力の入れ方と抜き方が抜群に上手い。だから既に触れた表現の幅広さはもちろんとして格調も非常に高い。
正直なところポルトガルのポップス歌手のレベルがどの程度なのかは知らないが(他に持っているのはAnabelaぐらいか?)、当盤は「これ1枚あればもういいや」と私に思わせたほどの完成度を誇っている。私の好みから外れた曲が混じっていないことも嬉しい。ただし、収録時間(34分10秒)があまりにも短く感じられる。この欲求不満(─2)により88点。
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