マドレデウス(Madredeus)
 やはり「ポルトガル語圏の音楽」の初回という大役を務めることができるのはマドレデウスをおいて他にないだろう。既にKさんの偉大なサイトがあるため、執筆前から少々気が引けるとともに腰も引けている。とはいえ、あちらにはディスク評コーナーが特に設けられていない。(2007年6月追記:先月「悶絶度」を尺度とした「アルバム比較」ページ (寸評付き) が公開された。)また、極めて独創的な文章が並んでいた首都圏在住Sさんのサイトは、どういう訳か「開店休業」状態(表紙のみ残存)のまま数年が経過していることもあり、「ここは私がやらねば」と一念発起した次第である。「ブルックナーのページ」同様、こちらも好き勝手に書き散らすことになるだろうから、それを踏まえた上で読んでいただきたい。あくまで客観的な記述やデータを求める方は、こんなところで道草を食っていないで直ちにKさんのサイトに飛ばれることをお薦めする。(検索すればイッパツだ。)
 この団体については98年以来Kさんへの私信や彼の主催する掲示板にしたためた大量の文章が今も閲覧可能であるが、それらにはなるべく頼らず執筆を進めるつもりでいる。掲示板の過去ログやメールの切り貼り(コピペ)で逃げるのではなく、記憶の糸を辿りながら改めて綴ってみようという気になったのだ。思い違いも多々あるだろうが、記憶の美化は思い出を作るに不可欠な発酵&熟成過程であると都合良く解釈することにした。
 この音楽集団に限らないことであるが、「マドレデウス」の名を知る切っ掛けとなったのはFM雑誌で読んだラテン音楽特集である。(最初取っていたのはFM fanだったが投稿をボツにされた腹癒せに、というのはウソで、10円安かったのと記事が面白かったから週刊FMに変更し、その廃刊後は仕方なくFM fanに戻った。というより専門誌として唯一生き残っていたのではなかったか?)内容はほとんど思い出せないが、非常に質の高い音楽を作っているという話だった。そのお陰で少なくとも名称だけは記憶に留まることとなり、当時足繁く通っていた名古屋の中古屋にて何気なく手に取った「プレイ(pray)」というコンピレーションアルバムを迷わずレジに持って行くという幸運な結果を生んだ。ケース裏に「マドレデウス」の名を見つけたからである。(ちなみに名前を出すのも腹立たしい某レーベルが2000年に発売して大儲けすることになった「フィール」や「イマージュ」の先駆け的アルバムである。)1曲目はマイケル・ナイマンによる映画「ピアノのレッスン」のテーマ曲だったはず。他にも坂本龍一やら何やらの曲が入っていたが、ほとんど忘れてしまった。カサンドラ・ウィルソンの(男だか女だかパッと聴きでは判らないような)野太い声が印象に残った程度である。(そのCDはとうの昔に行方不明になっているため、改めて amazon.co.jp で検索してみた。発売は94年11月23日であった。ナイマンのピアノ独奏曲は「楽しみを希う心 ─ プロミス」という題で、他にもう1曲収録されている。ラストが私の好きなシンニード・オコナーの "I do not want what I haven't got" (「蒼い囁き」というおバカな邦題) だったことも今更ながら思い出した。)お目当てのマドレデウスは "Matinal" と "O pastol" の2曲が採用されていた。(それらがアルバム「海と旋律」の冒頭から順序通り収められていることを後年Kさんとのチャット中に教えてもらった。)Kさん主催BBSへの最初の投稿には「他がかすんでしまうほど」と書いたと記憶している。その感想は誇張ではないが、女性ヴォーカルTeresa Salgueiroの透明な声と歌唱力にはとにかく感心したものの、印象は「結構良かった」というレベルに留まっていたと今になって思う。
 その数ヶ月後に同じ店で入手した "O Espírito da Paz"(輸入盤)が決定的だった。冒頭収録の "Concertino" によって完膚無きまでに打ちのめされたが、受けた衝撃の大きさはマーラーやブルックナーの交響曲のさわりをテープ版「音のカタログ」で初めて聴いた時に勝るとも劣らないものだった。これを機にのめりこんでしまう。それから程なくして "O Paraíso" (今度は国内盤、邦題は「風薫る彼方へ」)を購入した。ここで早速訂正が入る。私は途中まで("Movimento" を予約注文するまで)マドレデウスのディスクはことごとく中古を買ったという誤った記憶を持っていたのだが、よく考えたらこの品は大学生協経由で入手したはずだ。カウンターに置いてあったCDカタログで調べたところ「風薫る〜」の収録時間が最も長かったため、それを注文票に記入したことを思い出したのである。聴いて驚いた。もちろん女性の声は一緒だったが "O Espírito..." とは完全な別団体の音楽と聞こえたのである。最初はそれに不満を抱いた。が、繰り返し聴く内にジワジワと来た。(詳細はディスク評にて。なお、メンバーおよび楽器編成の変遷についてはKさんのサイトに譲る。というより押し付けてしまおう。)
 これら2枚を携えて私は郷里に戻ることになった。その年(98年)に各種ウェブサイトを巡り、時には掲示板に居座るようになったが、やがて辿り着いたのがKさんのサイトだった。そこで国内盤未発売のデビュー盤 "Os Dias da MadreDeus" の存在を知る。即座に生協ショップに向かい、輸入盤カタログで番号を調べて注文し無事入手した。以降も名古屋出張の度に例の中古屋を訪れ、 "Existir""Ainda" (ともに国内盤の「海と旋律」および「アインダ〜リスボン・ストーリー」)の順にゲットした。(ついでながら "O Espírito..." の国内盤「陽光と静寂」も同店で安売り品を確保し、既所有の輸入盤は人手に渡ることとなった。)先述したように "Movimento" (邦題「ムーヴメント」)は予約して発売日に入手。リミックス・アルバムの "Electrónico" およびオーケストラとの共演盤 "Euforia" は見送り。ベストアルバム "Antologia" も買ってないし、ライヴ盤の "Lisboa" と "O Porto" には最初から興味がない。(前者は「リスボン・ライヴ」のもう一方の雄なのだが・・・・関係ないか。)"Um Amor Infinito" はCCCDなので買う気がしなかったが、ヤフオクか楽天フリマのどっちかに出ていた新品が安かったので買った。次の "Faluas do Tejo" であるが、前作および前々作の日本語解説があまりに稚拙だったため、国内盤は真っ平御免だった。(Kさんも以前から腹に据えかねておられたようで「うんこ解説」とまで書かれていた。)ある日「尼損」のマーケットプレイスでUK盤の安売り新品を見つけて購入。(後で知ったことだが、件のライターHは執筆から外されていた。)サルゲイロと他歌手との共演をまとめたアルバム "Obrigado" は紆余曲折を経て海外通販経由で入手した。実はamazon.com および amazon.caの "Used CD" で注文したものの2度にわたって一方的にキャンセルされたのだ。それもケシカランことに同じ店から。なら最初から売んなボケ! と、この音楽集団に相応しく格調高い言葉でこのページを締め括る。

追記
 新規録音によるサルゲイロのソロアルバム "Você e Eu" を予約注文し発売日(2007年6月20日)に入手した。

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