交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ユストゥス・フランツ指揮フィルハーモニー・デア・ナツィオネン
録音年月日不明
Quadromania 222116-444/A

 超廉価盤「クアドロマニア」4枚組の存在は以前から認識しており、今年(2006年)はモーツァルト・イヤーだからという訳でもないが、ピアノ・ソナタ集、ヴァイオリン・ソナタ集、そして弦楽四重奏曲集という3セットを買ってしまった。紙ケースに頼らずともあの厚さに4枚を収めるというアイデアはなかなか良いが、爪がユルユルで空ける度にディスクが落ちてしまうのに閉口させられる。つまり仕様については「安かろう悪かろう」だが、収められている演奏には概ね満足できるからコスト・パフォーマンスは抜群だ。
 ブルックナー集も出ているのは知っていたが手を出す気にはならなかった。ロスバウトの7番とフルトヴェングラーの9番は既所有だったし、残る48番はオケも指揮者も耳に馴染みのない名前で、特に前者は何となく第二次大戦前あるいは戦中を思わせるような古めかしい響きだったので、どうせ(少なくとも私にとっては)無名指揮者による劣悪録音を数合わせに加えただけだろうと思って無視していたのである。(しょーもない話だが、オケ名を「ナチ・フィル」と略したらさすがに怒られるだろうな。ついでながら「那智交響楽団」というのがあったら世界中から目の敵にされそうだ。)ところが、ピアニスト出身の指揮者ユストゥス・フランツが結成した若者オケ(世界中から優秀な若手演奏家を集めた新興団体)による録音であるとの情報をネットから得て聴いてみたくなった。ネット企画「ブルックナー・ザ・ベスト」でも4番が演奏・録音とも絶賛されていたから尚更である。が、そう思った時は既に遅し。通販でも安く売っている所はことごとく売り切れ。近所のスーパー(平和堂)の特設売り場で1000円均一だったのを見送ってしまったことが悔やまれた。オークションやフリマでは諸経費を加えると1200円を超えてしまうので、結局1191円(税込)の「塔」から買った。が、注文直後に「犬」が在庫一斉セールとして780円で売りに出したのでガックシ。(だいたい「塔」はキャンセルできないのがケシカランし、いつ頃からか検索機能が腐ってしもた。はよ何とかせんと見放されまっせ。)最近こんなんばっかしやなぁ(泣)。それでも気を取り直して今日も試聴に励む私であった。(なお、ロスバウトの7番とフルヴェンの9番については、それぞれ既所有のCONCERTO ROYALE盤およびDG盤と比べても特に音質が劣っているようには聞こえなかった。また前者にはブルックナー開始もしっかり入っていたため、音声加工ソフトによる修復の必要がなくなったのはありがたい。)
 第1楽章1分27秒のホルンの音が汚い。何だか力任せに吹いているような感じである。それは以後も変わりなく、それだけが原因ではないと思うが合奏はあんまり美しくない。(ヘッドフォンで聴くと顕著だ。)正直なところ奏者の腕前は大したことがないように思える。ところが、このゴチャゴチャした響きが時に「ええ味」を出しているのである。この前採り上げたノイホルト&フランダース・フィル盤のような上品さは全くないが、チームワークの勝利という点で共通している。とにかく(ホルンさえ出しゃばらなければ)オルガンっぽく聞こえる箇所が多いのに感心した。逆に両端楽章のラストはある意味「聞き物」といえる。(あれが先述のページにある通り「超一流」なのかは知らないが。一方、金管は相対的に弱いという印象を受けるものの、8番ではパワー全開の鳴りっぷりを聞かせているから、こちらは指揮者が意図して抑えていたか同じライヴながらマイクのセッティング等に制約があったかのどちらかだろう。)私としては混濁箇所の少ないアダージョが最も上出来と聴いた。キビキビした歩みも若々しくて好感が持てる。スケルツォはそれまでのスタイルを踏襲するならもっと暴れても良かった。トラックタイムだけを見ているとフィナーレ(正味の演奏時間は約21分)のみ突出して遅いのではないかと思ってしまうが、出だしからしばらくはそれなりの快速テンポである。3分過ぎの短調部分以降もまあ普通。ところが5分06秒から減速してティンパニ乱打というケレンを聞かせてくれた。以降もスタスタとノロノロの繰り返し。9分16秒の弦合奏は少々やりすぎではないか。そんな訳で、この楽章だけ浮いているという感じは否めなかったけれども、何やかんやで退屈しないで済んだのは事実だから許そう。というより、この値段でこれだけの演奏が聴けたんだから文句言ったら罰が当たる。

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交響曲第8番ハ短調
ユストゥス・フランツ指揮フィルハーモニー・デア・ナツィオネン
99/08/08
Quadromania 222116-444/C

 「ブルックナー・ザ・ベスト」で4番を推した人は「フランツの解釈もブルックナーの本質を外さない程度に荒れ狂っており」とコメントしていたが、むしろテンポ揺さぶり攻撃のようなケレンもある程度までなら許容する曲だから名演となったのではないかと私は考えている。そういう見方からすれば、同じスタイルでは駄演に終わってしまう危険も大アリなのがこの8番だが・・・・まずは杞憂に終わった。
 第1楽章中間部のイラチ加速(悪しき風習)はまあ仕方ないとして、他は決してイケイケにはなっていない。第2楽章も実に堂々としたものである。誰かにブラインドで聴かせて指揮者とオケを当ててみろと問うたら果たしてどんなビッグネームが飛び出してくるだろうか?(何といっても録音が優秀だし、歯切れが良く、緩んだところが全然ないので若手の演奏と判る人もいるだろうが。)アダージョは硬軟を使い分けているものの、気に触るほどのテンポいじりはやってない。7分15秒過ぎでホルンが吹き鳴らされる辺りはたいへん感動的である。24分台の柔らかい音も同様で、結局(ノヴァークのアホカットは措くとして)最後まで隙を見せることなくこの長い楽章を演じきったのだから賞賛するしかない。
 ところが終楽章冒頭のスタスタには愕然。これには誰だって「あなたってせっかちなのね」と言いたくなるだろう。5分40秒および12分40秒からも突如爆演と化す。4番もそうだったが、フランツは終楽章に入ると何かやらなくては気が済まないという変な病気でも抱えているのだろうか?(あるいは暴走が燃料切れのサインだったりして。)とはいえ、いかにも青年指揮者のやりそうなことだと思えば大して腹は立たない。それどころか、若手による1枚ものの8番ということならウェルザー=メスト、最近ではボッシュより上を行っているのではないだろうか。と書いたはいいが、指揮者が何歳の時の演奏なのかを把握していなければ話にならんと思い至った。そこでネットで調べようとしたが結構苦労した。(もちろんゴルゴ13ほどではなかったけれど。)ようやくde.wikipedia.orgから1944年生まれであることが判明。一方オケの設立は1995年という話だから早くても50歳に入ってからの録音である。なーんだ。というより「若手」が楽員だけを指していたことに気付けよ!

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交響曲第7番ホ長調
ユストゥス・フランツ指揮フィルハーモニー・デア・ナツィオネン
97
Quadromania 222127-444/D

 上述の「クアドロマニア」とは別の4枚組にフランツ&ナチ管、いやフィルハーモニー・デア・ナツィオネンによるブル7番が収められていることは認識していたが、とりあえず48番の2曲があればいいやという気分だった。が、「塔」通販の在庫一掃セールで640円(税別)たっだため、とりあえず確保することにした。
 相当な快速テンポの演奏である。ただしオーマンディ盤のように爆走しているという感じはしない。メリハリの利いた(というより利きすぎた?)あちらとは異なり、曲全体を均等に縮めて(速くして)いるからである。そのため約59分が淡々と流れ去ってしまう。とりわけアダージョのクライマックス以降は、あまりのスタスタに余韻もへったくれもあったもんじゃない。あるいは小澤征爾が若い頃に採り上げていたらこんな演奏になったかもしれない。そして箸にも棒にもかからない男からは「実にさわやかで頬を撫でる風のよう」との褒め言葉をもらうことができたはずである(想像過多)。
 確かに味気ないには違いないだろうが、このような清々しいブル7は聴き疲れしないから時たま再生する分には問題ない。もっとも当盤で初めて同曲を耳にしてしまうと、チェリは言うに及ばず中庸テンポの演奏もかったるくて聴いていられなくなる恐れがある。こういうのをビギナーが手を出しそうな廉価ものに採用するのはいかがなものか? 最後におまけだが、このセットではDISC1のモツ40&41番が私としては最も聴き応えがあった。他のロマン派交響曲(ブラームス2、メンデルスゾーン&シューマン4)もまずまずの佳演。

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