交響曲第8番ハ短調
マルクス・ボッシュ指揮アーヘン交響楽団
03/06/09
Coviello COV30301

 耳に全く馴染みのない指揮者だったため新譜発売情報を見ても無視していたのだが、某掲示板での評判が上々だったので「犬」通販にて注文。「組み枚数:1」とあったのに届いたのは2枚組ケースで「アレッ」と思ったが、実はDISC2は「おまけ」のDTS盤(5.1chサラウンド)だった。DVDオーディオ再生機能付きプレーヤを所持していない私にとっては今のところ「猫に小判」である。それはともかく、「1枚に収まっている演奏としてはベスト」という意見は発売直後から、そして2年が経過した今でもブル8のスレで目にすることができる。
 ところで、「犬」をはじめとする通販サイトでは当盤の宣伝文に「アーヘンで“奇跡”を起したカラヤンのようになれるか」と記載されている。そこでさらに検索したところ、「1935年アーヘン市の音楽監督に就任」という記述を見つけた。カラヤン27歳の年である。(ついでながら、オケの所在地名には他にも何となく聞き覚えがあった。確か北原幸男関係だと思っていたが果たしてそうだった。彼の経歴には「1992年、ドイツのアーヘン市立歌劇場および同管弦楽団の常任指揮者、1993年には音楽総監督に就任し、1996年まで務めた」とあった。つまり北原にとってカラヤンは大先輩ということである。)その後も若き指揮者はザルツブルク音楽祭、ウィーン国立歌劇場、ベルリン国立歌劇場と次々に成功し、“奇蹟のカラヤン”と呼ばれたということだが、その切っ掛けが彼の地での大成功だったという訳であろうか? 何にしてもカラヤンにとってのアーヘンは日本(五輪)代表にとってのマイアミと同じだったという訳だ。(もちろん無茶苦茶な関連づけであるのは承知している。悪あがきついでだが、あの時と一部メンバーが重なっていたから「あるいは」と思った私がバカだった。「ドルトムントの奇跡」など期待するほうがわるい。サッカーを愛する者は、そのくらいは知らなくてはだめだ。)
 さて、当盤演奏時のボッシュも34歳前後という若さである。さすがに当盤を聴いて直ちに「第二のアーヘンの奇跡」を呼ぶに相応しい人材か否かを断ずることはできない。が、その資格は十分にあると私は思った。年齢を考えたら当然かもしれないが、とにかく瑞々しさが際立っている。(今気が付いたが当サイトで採り上げた指揮者中、唯一私より後に生まれている。)鮮明そのものの音質も大いに寄与している。勢いも迫力も全く不足していないし、それでいて力任せには陥っていない。難を挙げるとすれば第1楽章0分49秒以降。明らかに先走り(本来4拍のはずが1拍少なく聞こえる)で意欲が空回りしているような印象を受けるし、その直後からスタコラ駆け出したのも理解に苦しむ。が、ありがたいことに以降は安定していた。遅くて静かな部分は文句なしに素晴らしい。(アンサンブルの不揃いはあったが。)テンポ揺らしを頻用していたものの、8番としては優に許容範囲に収まるレベルである。私は最小限に留めてもらいたいと考えている人間だが、メリハリのない演奏を凡庸として嫌う人にはむしろ受けるだろう。第2楽章も上々の出来だが特に短調部分のしみじみ感が良かった。前半楽章に30分かけたのなら、第3楽章はもう少しゆったり振って27〜28分程度使ってもいいのではないかと思った。(楽章間バランスが適正ならギリギリ1枚に収まる演奏時間になっていたはずである。)が、まっしぐらにクライマックスに突入するのを聴いていたら、こういうのは若い時にしかできないのだろうと思い当たり、許せる気になってしまった。決して粗っぽくはない、というより所々で繊細な表現が聞かれたこともあって(曖昧な言い回しながら)説得力が感じられたからである。この指揮者の演奏は現時点では「自力型」(by 浅岡弘和)であるが、終楽章ラストでなだれ込むような締め括りを採用していないことからも窺い知れるように、(最晩年の短期間を除いて)生涯イケイケスタイルを貫いたヨッフムやマタチッチなどとは一味違うようである。なので何十年かの熟成過程を経た後に再録音を聴いてみたいという気にもさせられた。当盤の充実ぶりからすると相当に期待大である。

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交響曲第7番ホ長調
マルクス・ボッシュ指揮アーヘン交響楽団
04/05/31
Coviello COV30405

 「アーヘン交響楽団創立150周年記念アルバム」ということだが、8番同様若々しさに満ち溢れ、しかも繊細な仕上がりを聞かせてくれる。繰り返すが優秀録音のお陰でもある。教会でのライヴながら決して「風呂場録音」にはなっていないし、ましてや不自然な「空中浮遊感」など微塵もない。しかも8番以上にスケールが大きくなっているようにも思った。第1楽章1分37秒から盛り上がるところの壮大さ、2分を過ぎて腰を落とすところの貫禄、7分少し前からの余裕など、挙げていったらキリがないが、これらはマタチッチ&チェコ・フィル盤にも匹敵するではないか。驚いた。それでいて5分過ぎからの行進曲風の歩みは若さに満ち溢れている。加えてリズムが前のめり気味になることも「大根役者」風の解釈もない。アッパレ。途中まで申し分のない演奏を成し遂げていてもコーダで台無しにしてしまっている指揮者が少なくないが、テンポ設定は適正そのものであった。20分を少し切っているが、そうとは全く感じさせない。つまりムラヴィンスキー盤級の高密度演奏である。もちろん録音の違いにより印象は圧倒的に当盤が上回る。もしかしたら、とんでもないディスクを入手してしまったのかもしれない。一瞬ながらそんなことを考えてしまった。
 アダージョは23分を超えている。第1楽章に続くものとしては長い。案の定、冒頭からもたれる。とはいえ、尻軽加速や極端なスローダウンはしていない。基本テンポが遅いだけであるし、クライマックスを筆頭に聴き応え十分だったから楽章単位としての完成度は非常に高い。対照的に少々速すぎと聞こえた後半楽章も同様だ。どうやらボッシュにとって曲全体を俯瞰した場合の時間配分が今後の課題のようだ。(のような主張は、もちろん当方の勝手な決め付けに基づいている。)この人は少なくとも現在のラトルの地位ぐらいには登り詰めるだろう。今度はそんな思いが頭を過ぎった。(妄想に終わるか、それとも・・・・・)欲を言えば、であるけれど、いつかワールドクラスの機動力と馬力を備えたオケとの共演が聴きたい。ということで浮かんだのはミュンヘン・フィルやバイエルン放送響。そういえば「鐘」が営業を再開することは金輪際ないのだろうか?
 なお、この7番と前年リリースの8番が好評だったためか年1曲のペースで全集チクルスが進められることとなり、今年(2006年)第3弾となる5番が出たが、そういうことなら完成するまで待つ。バラでセッセと集めるより安上がりで済むと思われるから。(まだ2枚なので引き返せる。)ちなみにその5番についてはチュービンゲン交響楽団の自主制作盤(1999年録音)が出ているらしく、新録の演奏時間は何と13分も短くなっているという話だ。当然予想される芸風の大きな変化に興味が全く湧かないことはない。ただし、私の眼鏡に適いそうなのはトータル83分強の旧録音である。よって、ここにもう一つ見送りの大義名分が立った。(ホッ。)

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交響曲第5番ホ長調
マルクス・ボッシュ指揮アーヘン交響楽団
05/05/16
Coviello COV30509

 秋葉原に店舗を構える大手家電量販店の通販サイトからメールが来た。その記憶が全くないのだが会員登録していたらしい。キャンペーン中ということで500ポイント(500円分)が付いていたので、それを利用して当盤(税込価格2079円)を買った。送料無料ラインの1575円をギリギリでクリアできた訳だが、ネットオークションで入手する場合には諸経費(送料と手数料)が加算されるから、新品を1200円台で落札したと考えることもできる。まあ悪くない買い物だった。このコンビの録音は年1曲のペースらしいので全集の完成と発売は当分先の話だし、当盤の翌年にリリースされた3番が初稿使用と知って聴く気は失せてしまっている。既に第1弾の8番が輸入盤店の通販からは姿を消している(廃盤?)こともあり、とりあえずこの5番だけは確保しようと思った次第である。(今後発売されるであろう469番にも手を伸ばすかどうかは現時点では未定である。)
 最初に職場自室のCompanion3で聴いて驚いた。第1楽章冒頭の1分08秒でアンサンブルが崩壊しているように聞こえたからである。実際には凄まじい残響が次の音符に被さっているだけと判明したが、これほどの風呂場録音を聴いたのはヴァント&NDRのリューベックライヴ(8&9番)以来かもしれない。既発の78番も同じ聖ニコラウス教会でのライヴだったはずと思い当たり、それらを改めて聞き返してみたところ残響過多と感じるほどではない。マイクを立てる位置の違いだろうか? 帰りの車の中ではさほどではなかったが、自宅のWave Music Systemではもっとワンワン鳴っていた。内部に共鳴構造を持つBose製品では反響が反響を生むという相乗効果を発揮してしまうようだ。(昨年末に1位に就いたカラヤン&BPOの80年ライヴにおける転写と同じ結果を生んでいる。)何にしても、テンポが遅い部分、特に全休止ではどうしてもエコーが気になってしまう。速い部分の元気溌剌演奏は大いに買えるのだが・・・・
 ということで、HMV通販に掲載されていたユーザーレビュー2件中の「爽やかで清風のように気持ちの良いブルックナー」(最高!)、「速すぎて情緒もへったくれもありません」(だめ!)については、ともに少し違うのではないかという気がする。確かにトータル70分ちょっとの快速テンポを採用しているものの、既に使った「贅肉タップリ」や「熱帯夜」のような形容を持ち出したくなるほどの濃厚な響きのせいで、東独御三家(ケーゲル、スウィトナー、レーグナー)に代表されるようなアッサリ系の演奏とは全然違っている。月並みな言い方かもしれないが、やはり「異色演奏」ということになるだろうか? その中で最も出来が良いと思ったのが第2楽章で、玄妙なる響きが何ともいえず魅力的である。(なお、アーノンクール&VPO盤と同じく、この楽章のラストは1989年改訂版由来の「ソードーレミーーーーーーーーソーソー」である。これが今後は本当に主流になるのだろうか? どっちでもいいけど。)反対に第3楽章はちょっとガッカリである。スケルツォ主部は文句ない。ABA構造におけるテンポ設定(速遅速)は適正である。ところがトリオのスタスタには「こんなんで委員会?」と言いたい気持ちを抑えられない。主部で全力疾走したのなら、ここは一休みするべく落ち着いた演奏を繰り広げてもらいたかった。両端楽章は可も不可もなし。ここで遅まきながら気が付いたが、およそ19分、16分、13分、22分という各楽章のトラックタイムは短いことは短いけれども他盤と比べて極端に短いとまではいえない。やっぱりヘンなのは第3楽章のトリオだけだったということになる。アホなテンポいじりも特に聞かれなかったから余計に惜しいが、アダージョの出だしがハチャメチャだったスウィトナーと一緒で何かの発作だろうか? なお、当盤でも縦の揃いがイマイチと聞こえた箇所が複数存在したが、異様な音響空間のお陰で緩和されているという印象を受けた。もしかして残響付加はアーヘン響の実力不足を隠蔽するのが狙いだったりして。(まさか?)

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