フィリーパ・パイシュ(Filipa Pais)

 横浜のKさんが主催するマドレデウス掲示板への出入りを私が始めたのは1998年11月のことであるが、その3ヶ月後にデビューし、その後しばらく常連として活躍されたNさんという方(女性)がおられた。世界各地の音楽を愛好するという点では私以上であると拝見したが、その初投稿時に紹介されていたお気に入り歌手の1人がこのFilipa Paisである。(さっき過去ログを閲覧したところ「『テレーザがポルトガル民謡を歌ったらこんな感じ』というイメージです」とのコメントが寄せられていた。)それで少なからず興味を抱いたものの、生協店頭のカタログにはこの歌手のCDが掲載されていなかったため注文不可能。さらに名古屋出張の際には輸入盤販売店で捜してみたのだが、いつ行っても置いてなかった。後に各種通販サイトを利用するようになってからも注文だけはできたが、待たされた挙げ句に在庫切れ→キャンセルの繰り返し。アマゾンの中古市場でたまに出品されているのを見つけても決まって高値が付いていた。それゆえ半分以上諦めムードだったが、何かのルートより "L'Amar" の中古を入手することができた。(どこで買ったのかがどうしても思い出せない。ネット通販やオクには記録が残っていないので、あるいは小さな中古屋の在庫ページで見つけて直接メールで注文を入れたのかもしれない。購入価格も不明である。)それから何年か経ってダメモト注文(実は故意)ながら "A Porta do Mundo" の新品をゲット。さらに勢いでJosé Peixoto(ギタリスト&マドレデウスの現役メンバー)との共演盤 "Estrela"(および "Aceno" 収録の2曲)をダウンロード購入してしまった。それを機にディスク評を急遽分離することに決めた。当初はどんなに長くなろうとも単一ページとして公開するつもりだったが、あまりにも度を越していると思われたからである。

おまけ(歌手名の日本語表記について)
 一部に「フィリッパ」という綴りを見かけるが、例えばイタリア人歌手のF・ジョルダーノ(Filippa Giordano)のように“P”がダブってはいないので、やはり却下だろう。姓については少し迷った。今年(2007年)入手した "A Porta...." の日本語オビや解説では「パイース」が使われていたからである。スペイン語ほどはアクセントのルールに自信のない私ゆえ、"Maria" のように特にアクセント記号を振らなくても“i”に強勢位置が来るのかもしれないと思ったのだ。その疑問を上記BBSに書き込んだところ、ポルトガル語にお詳しい常連投稿者Aさん(ただしHN)より「『Pais』の『i』にアクセント記号が付いてなければ、伸ばさなくてよさそうに思います」との実にありがたいご助言をいただいた。なので長音記号(ー)を付けるのも止すことにした。(やはり「フィリッパ・パイース」などと書くのは余程のボンクラだけだろう。)
 以下もう少しこの件に関してダラダラ話を続ける。後日「スペイン語からポルトガル語へ」という文法書(私には非常に役に立った)をパラパラめくっていて、葡語では「弱母音+強母音」が二重母音にはならないと今更であるが気が付いた。これに対し西語では二重母音化する。ゆえに先の "Maria" を "Ma-ri-a" と読ませるためには“i”にアクセント記号を付けて二重母音を割らなくてはならない。それが葡語では不要なのである。ゆえに両言語の間にアクセント記号の要不要という違いが生じるという訳だ。ところが "Pais" は「強母音+弱母音」の組合せだから何れの言語でも二重母音化する。つまり綴りから1音節で構成されていると判断できるのだ。そして(Aさんも指摘されていたように)「国」を意味する単語には、"Pa-is"(パ・イース)のように二音節として読んでもらえるよう“i”にアクセントを打っているのだ。結局のところ "Pais" は "País" に非ずということで疑問は完全に解消した。(ただし戻る前に二次脱線しておく。西語表記についても私の理解が怪しいと思い知らされたことがある。"país" の複数形は "paises" でアクセント記号が落ちると思い込んでいたのだが、実際には単数形と同じ位置に打つ必要がある。最近ネイティヴから指摘されて気が付いた。「根」を意味する "raíz" についても同様である。これからフリオ・イグレシアスのページを直してくる。)
 閑話休題。それでは「フィリーパ・パイス」で良いのではないかと思われる読者もいることと想像する。が、後述する理由により勝手ながら「パイシュ」とさせてもらうこととした。ちなみに葡語では音節末尾の“s”が "sh" のように発音されている(&そう聞こえる)ことから、なるべく忠実に記すため本来なら(慣例には従うけれども)「シュ」で記すべしと考えている人も少なくないようである。(例えば高場将美がそうだ。またKさんのサイトでも同趣旨の見解について紹介している。)そういえば、最近ではMaria João Pires(ピアニスト)の姓のカナ表記が「ピリス」から「ピリシュ」または「ピレシュ」へとシフトしているような感もある。しかしながら、私は既にアップした「マドレデウス」や「ドゥルス・ポンテス」などに今更手を付けるつもりはない。この措置はあくまで緊急避難的措置(「パイス」だとどうしても「国」を連想してしまうから)であると理解していただきたい。ただし、気紛れで今後「シュ」を使う可能性もゼロではない。

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