L'Amar
1994
Strauss ST 03011010242

 実はこの後に執筆する予定の次作 "A Porta do Mundo" の出来があまりにも素晴らしいため、当盤評は手短に済まそうと思っている。とはいえ、このデビュー・アルバムも決して凡庸な出来ではない。1曲目の "Vos omnes" の雰囲気は どことなくケルトっぽいし、"Existir"(マドレデウス)冒頭の "Matinal" と似ているような気もする。無伴奏で朗々と歌っているだけなのでちょっと評価が難しいが、声も歌唱力もしっかりしていることは判る。次の "Se me desta terra for vos levarei amor" を聴いて本当に感心した。短いピアノ伴奏を受けて始まる歌唱には何ともいえぬ味がある。声には透明感があり、敢えて分類するなら「美声系」で間違いないだろうが、既に当サイトで紹介してきた女性歌手数名とは少なからず違う。どこか翳りを感じるのだ。断じて濁っているのではない。あるいは陰影と言い換えてもよい。それが歌に奥行き感を与えるという効果を生んでいる。テンポが速くても遅くてもそれは変わらない。これが最大の特徴であり魅力であると思う。逆から見れば、当盤は彼女の持ち味を100%発揮できるような、つまり常に(長調であっても)ほの暗さを帯びた曲を取り揃えているといえる。(派手な曲との相性は最悪ではないか?)アコースティック楽器のみで固めた伴奏も極上である。この歌手を生かすには最強の布陣を敷いているといって差し支えないだろう。全13トラックを通じて格調はもの凄く高い。(ちなみにKさんのサイトでも言及されているように、10曲目の "Janelinha" およびラストに置かれた "Instrumental" はマドレデウスの現リーダー、Pedro Ayres Magalhãesの作である。前者はなかなかにしっとりした名曲だし、後者は題名通り器楽的用法の声(ヴォカリーズ)と打楽器による軽快な掛け合いが楽しい。)
 入手直後の印象は「結構ええな」ぐらいで、それは以後も変わることがなかったのだが、今改めて聴いてみたら、これは並の傑作では絶対ない。ひとまず90点を付けておくが、処女作でこのような高得点を叩き出した歌手/団体が過去にいただろうか?

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