交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
リッカルド・ムーティ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
85/09/04〜07
EMI HCD-1314

 宇野功芳が何を血迷ったのか絶賛したために人気を博し、廃盤後はレアもの扱いされて一時は中古市場で途方もない高値が付いていた、などという記述をどこかで目にした記憶があるのだが、改めて捜しても見つからなかった。あるサイトに「音楽誌の『求む』コーナーで『10000円で譲ってください。美品希望』とまで書かれた伝説のCD」とあったので、もしかしたら私が混乱しているのかもしれない。とはいえ、宇野が推薦盤にしたのはどうやら事実らしい。後にRED LINEシリーズの廉価盤が再発されたため、当然ながら風船は崩壊している。現在はさらにお買い得なセット(ムーティの4番+マゼールの78番+テイトの9番という4枚組で2000円前後)でも入手可能のようである。(一方、同コンビによる6番も名演とされているが、再発の見込みがないため時にネットオークションに出品されると結構値が上がる。VPOとの海賊青裏はさほど入手困難ではない。)
 もう少し宇野の推薦について絡んでみるが、もしかしたら解説執筆をウッカリ引き受けてしまったので悪く書けなかったのだろうか?(いつか必ず書くが、テイトの9番はまさにそのケースで、宇野は奥歯に物が挟まったような褒め方をしている。)私は「新・名曲の世界」というクラシック全集のバラ売り(ブックオフにて250円で購入)を所有しているので、もちろん解説書は付いておらず確かめようがない。(と思っていたが、どうやらこれも図星のようだ。)が、そう考えたくなるほど、この演奏には宇野が褒める要素がない。とにかく美音にこだわった演奏。「外面的で極めて中身に乏しいといえよう」と私が代わって作文してやろうかと思ったほどだ。つまり、カラヤンの特徴を一身に引き継いだ演奏なのである。金箔をまとったようなゴージャスな響きだけでなく、遅めに設定されたテンポ(トータルタイム、トラックタイムとも結構似ている)による濃厚な歌い回しも「帝王」の70年盤とソックリである。そういえば、コーホー先生は小澤やショルティと並んで自分からは最も遠い指揮者であるとコメントしていたはずだが、もしかして「嫌いなムーティでも誉めるときは誉める」と自分の公正さをアピールしたかったのだろうか? いくらそうだとしても、このカラヤンのコピーみたいな演奏を誉めることはないだろうに。ムーティもムーティだ。彼はこんな録音を残して本当に満足していたのだろうか? 「うちのカラヤン盤は演奏は良いけれども音がもう一つだから、(ライバルDGの75年盤と差を付けるためにも)デジタル録音による音質良好の音源が欲しい」と考えていたEMIの幹部から「できるだけカラヤンに近いスタイルで演奏してくれないか?」と頼み込まれ、渋ったところ高額ギャラまで提示されたので、魔が差して引き受けてしまったということはなかったのだろうか? ひょっとして、その偉いさんは「バレなければカラヤンの最新マスタリング盤として売り出してやろう」とすら考えていたかもしれない。もちろん私がそこまで邪推したくなるのは、あのレーベルお得意のイカサマ体質のなせる業だが、アイデンティティの乏しい演奏に終始したムーティにも責任はある、ということにしてしまおう。
 「コピー演奏」とはいったものの、もちろん完全に同じである訳はない。第1楽章中間部にティンパニ付加はあるが、同楽章冒頭の弦の1オクターヴ上げや終楽章冒頭のシンバルなど、改訂版のきらびやかなアイデアは採用していない。また、第1楽章最後もカラヤンのように「グァン」と威圧的に終わらせたりしない。要は豪華絢爛に徹し切れていないのである。(「ムーティはカラヤン以上にオケをコントロールし、非常に美しい。が、あまりにコントロールされた感のあるフォルテに関しては、抑制しすぎかなと感じる」というネット評が出ていた。)恥ずかしさが先に立ってしまったのであろうか。だから、こちらも中途半端という印象を受けてしまう。「フルトヴェングラーの模倣者」バレンボイムを思い出してしまったが、ムーティも同様に「劣化コピー」と言われても仕方あるまい。

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交響曲第6番イ長調
リッカルド・ムーティ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
88/01
EMI CDC 7 49408 2

 上記4番以上に名盤の呼び声高いこの6番BPO盤であるが、再発の見込みが全くないことも手伝ってか中古市場では結構値が上がる。ヤフオクでも2000円程度しか払う気のない私には全く歯が立たず、ある日初発国内盤(CC33-5336)に気紛れで定価(3300円)ジャストで自動入札した時でさえ、その日の内にひっくり返されてしまった。(ちなみに86年VPOライヴの海賊青裏 (Lucky Ball, LB-0016) はそこまで高騰しない。)それで完全に諦めムードだったのだが、先日某掲示板から海外尼で手に入るとの情報を得たため早速各店を回ってみたところ、マーケットプレイスに悪くない値で(しかも "International shipping available")出品されていたのを発見。お陰様で2000円以下(諸経費込み)で手にすることができ非常にラッキーだった。(情報提供者に御礼申し上げる。)もっとも届いた品はといえば、ブックレットには折れがあり裏紙もヨレヨレ。"Good" にはほど遠い状態であった。が、再生に支障はなかったので許そう。
 ここで既所有のベルリン・フィルによる6番CDを思い浮かべてみれば、躊躇なく「快演」「名演」と呼べるものが少ない、どころか皆無であることに愕然とする。カラヤン盤は真っ当すぎて私には物足りない。カイルベルト盤は録音がイマイチ。その点ではノープロブレムのバレンボイム盤だが、肝心の演奏は全くの期待外れだった。では当盤はどうだったか?
 まず第1楽章冒頭の「チャッチャチャチャチャ」がせせこましくないのにホッとしたが、30秒過ぎから大胆にクレッシェンドして第1主題になだれ込む。0分51秒以降は実に壮絶である。BPOが地力を発揮すれば自ずとそうなるのだが。他曲なら思わず「やかましいわい!」と言いたくなるかもしれないが、地味な曲ゆえこれで丁度良い。この豪華絢爛たる響きはカラヤン盤をはるかに凌駕している。騒ぎが収まってから(1分41秒〜)スタスタ駆け出さないのも良い。ただでさえスケールの小さい曲の印象を頻繁なテンポいじりによってさらに貶めるというアホな真似に走らなかったのが勝因の全てである。(この楽章でコロコロテンポを変える指揮者は決して少なくないが、そういうのを聴かされるのはウンザリだ。大したことのないカーブでもいちいちブレーキを踏むヘタクソドライバー(註)の後ろに付いているような気分になる。本当はこんな大それた口をきけるほどの腕前では全然ないのだが・・・・)第2楽章は最初「もうちょっと遅くても」と思ったが、重々しい響きとの釣り合いを取るにはこれが限界かもしれない。第3楽章は文句なし。躍動感溢れるスケルツォと叙情タップリのトリオの対比が絶妙である。そして終楽章だが、出だしのテンポは速すぎず遅すぎず。以降のテンポ変更にしても曲想の変わり目に限定しているので落ち着いた気分でパワー全開演奏を堪能することができた。(ついでながら、この楽章に対する「のちのマーラーを思わせる神経質さがある」という勝手な思い込みから出発し、凡演に終わってしまったバレンボイムがいかにアイデア倒れであったかもよく解った。)惜しまれるのがアッサリしすぎの締め括り方。最後の最後(14分40秒)で踏むべきはアクセルではなくブレーキではなかったか?

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