アンデスの彗星
1994
Victor VICP-200

 紹介ページでも触れた名義変更に加え、前作「アンデスの勇者たち」リリース後に多少のメンバー交代がなされたようだが、6人組であることも含めグループの実体は大きくは変わっていない。(ただしRene、Viviana、OmarのCareagaファミリーを除く3人がすっかり入れ替わっているから、あまりのギャラの安さあるいは人使いの荒さに嫌気がさして逃げ出してしまったのでは、といらんことは考えたくなる。)しかしながら、ビビアーナの名前を前面に出してきただけのことはある。彼女がメイン・ヴォーカルとして活躍する曲が前作の5から9と大幅に増えた(収録曲数は15で同じ)。これは大歓迎である。ただし手放しには喜べなかった。
 1曲目 "La pucha con el hombre" からビビアーナの歌唱が聴けるのは嬉しい。が、前作と比較すれば安定感は増しているものの、その分だけ野趣味が減少してしまった感がある。他メンバー(Elizabeth López)との重唱も逆効果を発揮しているとしか思えない。続く器楽のみの2曲はスルーし、トラック4の "Llorando se fue" に飛ぶ。この曲に関するスキャンダルは、アンデスの民族音楽の歴史に付けられた最大の汚点といっても過言ではない(こちらを参照)。それはともかく、当盤収録のカヴァーではカルカスのオリジナルで聴かれたギクシャク感がないのは評価できる。つまり"Donde estará, recordando este amor" および "Llorando estará, recordando al ayer" 以下をそれぞれ "que el tiempo..." あるいは "que un día...." と関係文にすることで違和感の解消を図っている。冒頭からの声楽アンサンブルも申し分ない。ところが、サビでR・カレアーガによる例の軟弱ソロが入ってきた途端に印象はガクッと落ちる。
 さて、当盤も来日(改名後初めて?)に合わせて制作された可能性が高いが、トラック12 "Amistad"(友情)では日本と南米(特にアンデス)諸国の友好を祈願してか、歌詞に日本語、西語、そしてケチュア語の名詞や挨拶が用いられている。また次の "América india" では、サビで南米大陸にある10ヶ国の名称を一気に歌い上げるというアイデアが面白い。(ただし疑問がない訳ではない。仏領ギアナは問題外としても、それぞれ旧英領および旧蘭領だったとはいえ現在は歴とした独立国のガイアナとスリナムを落としても構わないのだろうか? ブラジルは入っているというのに・・・・)このように趣向を凝らしているという点では前作を上回っているのだが、既に1曲目で指摘したように安定志向に傾き気味の女声ヴォーカルが何といっても痛すぎである。裏声の使用頻度も増しているようだ。そのせいで当盤屈指の名曲 "Oración del Ande"(トラック10)も魅力半減である。あるレビューサイト(作成者が最初に買った「アンデスの勇者たち」について「『目から鱗(うろこ)』状態!素晴らしい!!」「こんな生き生きとしたフォルクローレは聴いたことが無かった」などと絶賛)による「結構良い盤なんだけど、一枚目に比べるとパワーがちと落ちるかなって感じ」との当盤コメントが全てを言い表しているような気がしてきたのでもう止める。男声による駄唱混入こそ軽微だが、ビビアーナの絶唱に圧倒されるようなことは全くなかったから90点には届かない。よって88点とする。

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