交響曲第8番ハ短調
ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団
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sardana sacd-264/5

 当盤、8番のベルリン・フィル96年盤、および9番ミュンヘンフィル盤の3点はCD-Rの海賊盤、いわゆる「リアル・ライヴ」である。私はこれらを「悪魔の店主」から買った。「悪魔」といっても歴としたホモ・サピエンスなのであるが、CD-R専門のネット通販サイトを運営していた彼の手になるディスク紹介文があまりに魅力的で購入欲をそそるため、いつしか「悪魔」と称せられるようになったのである。また、不定期に送られてくるメールマガジンも「悪魔の囁き」であった。「運営していた」と過去形で書いたのは、そのサイトが閉鎖されているからに他ならないのだが、彼は今も新たな場所から囁きを発し続けているような気がする。先日いかにも彼が書きそうな文章をある通販サイトで見つけたのだが、ブックマークを付けなかったのでURLがわからなくなってしまった。その方が身のためだと思うので捜さない。
 さて、この演奏に対する「悪魔の店主」の推薦文がまた見事なものであった。「最初は96年盤と聴き比べるつもりであったが、その必要は全くなくなった」「不覚にも涙が出た」そうであるが、他の2点が以前から気になっていたこともあって、とうとうまとめて注文してしまった。(囁きに負けた。)ただし、(当盤以外は大いに満足したのだが)このディスクは買って後悔した。紹介文にはノイズが混入していると書かれていたが、まさかこれほどとは思っていなかったのである。ケース裏には "Note: Slight digital noises exist" とあるが、とても "Slight" どころではない。しかもそのノイズはかなり低音で「プチッ」というよりは「ボソッ」という感じなのである。私は車の中でこの演奏を聴いていて、どこかで何か(ネジが外れて何かが接触しているといったような)異常が起こったのかと焦ったほどである。何度も捨てようと思ったが、演奏自体は決して悪くないため今日まで手元に置いている。幸いにも低音のあまり出ないラジカセではノイズがさほど気にならないので、もっぱら職場で聴いている。もっとも、これでCD-Rには懲りたので「リアル・ライヴ」の購入はあれが最初で最後になった。(ただし海賊盤CDはその後も何度か悪魔から買った。)CDよりも寿命が短いことと価格が高いこと、そして何と言ってもあまりの点数の多さに恐れをなしたのである。「君子なんとか」と言うし・・・・(←誰が君子や?)
 ここから演奏評に入るが、悪くないどころか、もしかしたら演奏だけで点数を付ければ所有8種類中のベストかもしれない。第1楽章終わりのカタストロフは96年BPO盤と寸分違わず14分50秒から始まるが、ティンパニもトロンボーンもまるで地獄の底から鳴り響いているようである。この壮絶さは録音には到底入り切らない。こういうのをきくと、口惜しいけれども「やはり生を聴かんことにはどうにもならんなあ」と認めざるを得ない。録音ではティンパニのドロドロ音によって響きが混濁してしまっているが、おそらくホール内では凄まじい地獄が展開されていたに違いないのだ。とはいえ、その雰囲気は十分に感じられる。(音が割れないようにと)下手にリミッターで調節していないのが救いである。某掲示板のヴァントのスレッドにて、この演奏を「まったりヴァント」と評している文章を目にしたが、言い得て明だと思った。(「まったり」の芸風は2001年BPO盤にも引き継がれている。)
 ところで、私は昨年(2003年)9月にそのスレッドにて「8番の2000年NDR正規盤がBMGから発売予定」という書き込みを見て、「なにっ!」と興奮のあまりコーヒーカップをひっくり返してしまったのであるが、リリースされるのはこの2000年5月の超名演ではなく、同年7月(ミスが多くてイマイチ)の別音源であるという投稿があってガッカリした。この件に関するニュースはその後入ってこないが、どうなっているのであろうか?

2004年9月追記
 先日当盤を再生していた時、第1楽章の中間部(225から234小節)や終盤のカタストロフを微動だにしないテンポで押し進め、まさに「まったり」とでもいうべき演奏を繰り広げているのを聴いて今更ながら感動したのだが、ふと「ヴァントとチェリビダッケのハイブリットみたいな演奏だな」と思った。2001年BPO正規盤よりも「究極の演奏」に近いのかもしれない。願わくば音質も「究極」レベルのディスクが発馬諫連呼とを。(←願望の「ん」や「む」が入るとちゃんと変換できないようでは日本語変換ソフトとして失格である。→2005年4月追記:今年度から職場で新しいパソコン=iMac G5を使っているが、OSXに併せてATOKも13から15にバージョンアップしたところ、「発売されんことを」と正しく変換されるようになった。また、このバージョンからの新機能「話し言葉関西」に変換モードを設定しているが、これは大変便利である。)

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