交響曲第8番ハ短調
ギュンター・ヴァント指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
96/09/19
sardana sacd-100/1

>  ところで、いろいろなブルックナー・サイトを回ったおかげで、数々の有
> 益な情報を得ることができました。まず、1996年9月のベルリン芸術週間に
> ヴァントがBPOと演奏した8番は、契約か録音いずれかの問題でBMGによ
> るライブ録音が行われなかったそうです。(BSで生中継されて超名演と讃
> えられたにもかかわらず。「BMGにとって痛恨」とコメントしている人も
> いました。)前回はそういう事情を知らなかったため、「来年は1996年録
> 音の8番で受賞か」などと書きましたが、その線はなくなりました。SARDANA
> RECORDSというレコード会社から海賊盤が出ているそうですが、それに
> アカデミー賞を授けることは絶対にあり得ないでしょうから。(00/03/13)

 上は例によってKさんへのメールから。この録音がCD化されなかった理由が2001年BPO正規国内盤に載っている。93年盤の発売直後だったこともあり、同一曲をコストのかかるベルリン・フィルと録音するのは現実的でなかった。演奏会が2日しかない状況でのライヴ録音は困難であるとヴァントが判断したため。このうち後者の理由からは、ヴァントのライヴ録音に対する考え方がわかる。許のインタビューにて自分のライヴ録音ほど完璧なものは他にないと豪語していたようだが、彼の言う「完璧」はスタジオ録音と同じく演奏ミスも会場ノイズも全く入っていない(きれいに修正されている)という意味ではなかったか。(「観客の咳一つで台なしすることだってできるんだから」という発言からもそれは窺える。)演奏のキズは指揮者の責任だが音質の悪さは技術者の責任、自分の知ったこっちゃない。おそらく自分の望む「完璧さ」さえ備えていれば彼はそれで満足だったのである。その代償としてライブの生々しさが時に犠牲にされたが、彼はBPOとの9番や7番のような音の「死んだ」録音が世に出てもさして気に留めてはいなかったのであろう。
 さて、この演奏であるが、生々しさはちゃんと保存されている。第1楽章6分過ぎの例えばホルンのソロ。奏者がミスらずに吹けるだろうかとハラハラしながら聴くことができた。フィルハーモニーの聴衆も同じ気持ちで固唾を飲んでいる様子も目に浮かんだ。この楽章終わりのカタストロフ(当盤では14分50秒〜)について、2001年正規盤のページでは「音が宇宙に抜けるよう」と書いたが、こちらはコンサート・ホールで鳴っているという感じがよく伝わってくる。どちらがいいという問題ではない。(ネット上では生々しさゆえにこちらをより高く評価する人が少なからず存在するようであるが、何しろ価格が正規盤の倍近くするので強いてこちらを購入する必要はないと思う。)一発録りにもかかわらず演奏自体に(今のところ)キズらしいキズが全く認められないのは、今更ながらであるがこのオーケストラの凄腕ぶりを示している。ただし最後の最後にキズがある。それは1人のアホ観客が発したフライング・ブラヴォーである。自然かつ同時多発的なブラヴォーに不快感はあまり覚えない私だが、ああいう間の抜けた掛け声は本当に腹が立つ。そのために指揮者がCD化を許可しなかったとしたらアホの罪はあまりにも重い。演奏会の実況を聴いていると、この手のアホブラヴォーが年々増えてきているように感じるのだが、もしかしたら売り上げが落ちる一方の正規盤業者が「リアル・ライヴ」の発売を阻止すべく刺客を送り込んでいるのではないかと疑いすら持ちたくなる今日この頃である。

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