交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
ギュンター・ヴァント指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
98/01/31〜02/01
BMG (RCA) BVCC-34002

 浅岡がこの曲におけるシノーポリの解釈を批判した文章によって、第1楽章冒頭のフォルティッシモによる「ドーソーファミレド」(1分46秒)が第1主題でないとはじめて知った。私の無知はともかくとして、この部分のベルリン・フィルの馬力はやはり凄い。このディスクを聴く場合には、ある程度ボリュームを上げないと真価は解らないと思う。音量不足だと、この部分のテンポが速いだけに「ケルン放送響盤と大して変わらないじゃないか」といった誤った印象すら抱いてしまいかねない。この曲で私が一番好きなのは中間部のコラール風の部分であるが、この演奏はそこが圧倒的に素晴らしいのだ。主題を吹く金管、それに対抗する低音弦楽器群、トレモロでサポートするヴァイオリンのバランスが絶妙で、どれもハッキリ聴き取れる。(それができないディスクは決して少なくない。)特にチェロは「ボヤボヤしてたら主役を奪っちまうぜ」と言わんばかりの積極性で、グイグイと全体を引っ張っているような感じである。さらに、トランペットの「ドードードシーラー」(←転調を繰り返すので合ってるのか自信がないが、以後「ソードードソードードソードード・・・・」と繰り返される)の「ラー」がトランペット1本で吹いているように聞こえる。その透明な音には痺れた。ここは大抵は最強奏される部分で、楽譜でもそのように指定されているらしい。つまりヴァントの処理は「反則」(←そう指摘している人もいる)なのだが、チェリビダッケのこの曲のエンディングと同じく「感動させたモン勝ち」「何でもアリ」ということかもしれない。この演奏を生で聴いたらしい人が「CDで聴くと単なるラッパのコラールだけど、実演ではオルガンのように聞こえた」という感想を書き込んでいた。それはそれで羨ましいが、このCDで聴ける「ラー」の透明感もまたかけがえのないものである。第1楽章コーダでテンポを少し落とすのが以前には聴かれなかった解釈である。90年盤録音後に「コーダと主部は別物なので違うテンポを設定しても構わない」と考えるようになったのであろう。これ以上落とすと楽章全体の統一感が損なわれるという寸前で留まっているのが流石である。(コーダの別テンポ設定は「ラスト・レコーディング」へと引き継がれる。あの演奏ではもはや限界を踏み越えてしまったように私には聞こえる。だが、踏み越えることによって初めて切り開かれた境地というのもあるのだ。)
 第2楽章の深い森の散策を思わせる重苦しい響きもベルリン・フィルならではである。思い切り重苦しくやるから最後のハ長調による「ドーソーファミーレ」による解決(このディスクでは13分55秒)が燦然と輝く。(ここに弟子達がシンバルを書き込まなかったのは不思議だ。)
 第4楽章の冒頭も素晴らしい。ブラスによるお馴染みのブルックナー・リズム(タンタン・タタタ)をヴァントは「タンタン・タタータ」のように後の三連符の2拍目を心持ち引っ張るように吹かせている。これによってカタストロフに向かってまっしぐらに突き進むような凄まじさが表現されている。パニック状態に陥ったネズミの大群が次々と海に飛び込む情景が目に浮かんだ。
 とりあえず強く印象に残った部分のみ挙げたが、全体を通してみても綻び一つない完璧な演奏だと思う。不平家にとって「完璧さ」にケチを付けるというのは常套手段であるが、この演奏にケチをつけるには相当な覚悟が要ると思う。「完璧」が目的なら、それゆえにスケールが小さくなるということもあるが、この演奏の「完璧」は結果なのだから。(←上手く言えてない。)

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