交響曲第8番ハ短調
ジョージ・セル指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
68/12/08
LIVING STAGE LS 1055

 このレーベルとしては珍しくステレオである。のみならず音質は非常によい。私がamazon.co.jpで見た時はたしか「1点在庫あり」だったのでカートに入れてしまった。(騙されたのかもしれないが、ネットオークションではそれなりの出品価格が付けられているので、入手困難なのだろうか? ちなみに2005年6月現在、「犬」と「塔」では扱っていないが、「尼損」では「通常3〜5週間以内に発送します」なので一応注文はできるようである。)
 当然ながらクリ−ヴランド管とのスタジオ録音ほど合奏の精度は高くないし、響きの美しくない箇所もチラホラ聴かれるけれども、ライヴゆえの生々しさや勢いがそれを補って余りある。また演奏自体もより流動性に富んでいると思った。第1楽章のテンポの変動幅はスタジオ盤より断然激しくなっているが、それに積極的に応えようとするVPOの姿勢には好感が持てる。私は本来こういうイケイケ演奏は嫌いなはずなのだが、いつの間にか気分が乗ってきてしまったのは、原則的に緻密流を貫くセルがあくまで節度を保った上で崩しを入れているからだと思う。スケルツォは69年盤も良い出来だったが、やはり積極性の感じられる当盤の方が印象は上である。
 問題はアダージョである。表記されているトラックタイムは26分53秒だが、トラック3冒頭には楽章間のインターバルが1分近く収録されているので、実際の演奏時間ではスタジオ盤よりも約3分短いのである。実際テンポが速いが、それだけではない。淡々としていたスタジオ盤よりも表現がはるかに濃い。アダージョだけにテンポがガラッと変わることはないが、微妙に加速してグイグイと前に進むようなところが何ヶ所か聴かれ、その一方で遅い部分は詠嘆の声を上げるかのようにネットリと演っている。クライマックスの燃焼度も圧倒的に当盤である。両盤の録音時期にはわずか10ヶ月の隔たりしかないが、この間にセルに演奏スタイルの変革を迫るような重大事があったという話は聞いていないので、やはり生演奏とスタジオ収録の違いを真っ先に考えるべきであろう。あるいはヨーロッパと新大陸のオケに対する親近感にも違いがあったのだろうか? もちろん推測の域を一歩も出ないが、クリーヴランド管とはあくまでビジネスと割り切っていたとか。(ナチスの迫害から逃れるために大西洋を渡ったワルターには、欧州への郷愁のため少なからぬ差があったようだが・・・・)何にせよ、69年盤ページに「突然変異」と書いたように当盤の演奏スタイルの方がセルらしいとはいえる。
 終楽章はインターバルと終演後の拍手を引けば演奏時間は21分を少し割る。69年盤以上の快速テンポであるが、全楽章(正味26分以下)はそれ以上に速くなっていたため差は5分以内に収まっている。5分45秒で走り出すなどテンポにメリハリを付けるのは69年盤同様であるが、6分17秒で間を置くといったライヴゆえのケレンも見せている。ということで、全ての楽章で「らしさ」を貫いている当盤の方が統一感では明らかに上回っているが、圧倒的完成度を誇るスタジオ盤との甲乙は付けがたい。

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