交響曲第8番ハ短調
ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団
69
SiRiO SO5501-1

 通販サイトの宣伝文には「音質は上質とはいえないまでも鑑賞に問題はない」とあるが、実際のところ音はかなり悪い。ヒスノイズが入っていることからもおそらくエアチェックと推察されるが、単に痩せているという以上に何だかアジマスの狂ったデッキで再生しているような妙チキリンな音である。あるいはHMV通販のmp3による試聴のような音でもいいが、とにかく歪みがしょっちゅう耳に付くのは本当に参った。セルのファンサイトに「音質はかなり硬めだが、十分楽しめるクオリティ」とあるが到底信じられない。さらに分離や拡がりにも乏しくモノラル同然である。(本当にそうかも?)当盤以前に発売されていたARTISTS盤(FED072)は同一演奏とされているが、ブルックナー総合サイトには「音はなかなか良く、ジャケットには『STEREO ADD』とある」と書かれていたから、それとは別音源使用かもしれない。ピッチもクリーヴランド管にしては高い感じである。(ブル8に限らずスタジオ録音と比べれば明らか。)
 さて、VPOライブと異なり当盤は楽章間インターバルはカットされているから、終演後拍手を含む終楽章を除いてトラックタイムが正味の演奏時間と考えても良い。おそらく同年に行われたスタジオ録音の少し前の演奏と考えられるが、両盤を比べてみると第1楽章は当盤14:28(当盤)と14:36、第2楽章は16:20と全く同じであり、さすがは精密機械にも喩えられるセル&クリーヴランド管と讃えることもできようか。セルのファンサイトで2箇所にて「ライヴとは思えないほど」「クリーヴランド管弦楽団の実力を知るには充分」などとして言及されていた完成度の高さも本当だし、さらに「鬼気迫る熱気」(通販)「Liveならではの感情移入」(ブル総合サイト)「圧倒的な音響伽藍」(セルファンサイト)などと評価したくなる気持ちも解る。しかしながら私は違った。先述した音質への不満だけが原因ではない。当盤は後半2楽章がスタジオ盤より速い。特にトラックタイム差は第3楽章で著しい。そして、その30分近いスタジオ盤のアダージョを私は「突然変異的」として高く評価していたのだ。それがない分だけ当盤は劣る。
 私がよく解らないのは先述したファンサイトでの68年VPO盤の評価が低いこと。私のルーズな耳のせいかもしれないが「オーケストラがヨタついていて、とても一流オーケストラの演奏とは思えない」「ウィーン・フィルと意思疎通が図れていないように思う」といったコメントには正直納得できなかった。あちらはロスタイムを引くと第1楽章約14分、第2楽章約15分で両者のバランスは良いし(当盤は第2楽章がノロノロに聞こえる)、それぞれ26分弱、21分弱(ともに当盤とほとんど同じ演奏時間)というやや速めのアダージョとフィナーレが続くことからも、スケルツォのテンポ設定は当盤の方が妥当だと思う。音質は圧倒的に当盤より優秀(分離は上々、ピッチも適正)だし、楽章間のザワザワ感も悪くない。暴れっぷりでは互角だから、ガリガリ音質の当盤の方が唯一壮絶さという点では上回っているかもしれない。その位しか評価できるところがない。
 ということで、完成度ならスタジオ盤、即興性や熱気ならVPO盤を聴けば良いということになり、わざわざ当盤を入手した意義は残念ながら見い出せなかった。終了日に逆転入札(開始価格1000円→1100円)までしたというのにこれでは悲しい。(結局は各種サイトのレビューに終始するだけのページになってしまった。)

8番のページ   セルのページ