交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ジョージ・セル指揮シュターツカペレ・ドレスデン
65/08/02
Andante AN 2180

 鈴木淳史が「クラシックCD名盤バトル」のブル3の項にて、(ドホナーニ盤を酷評しておきながら推薦盤に挙げるという卑劣な手口の後に、)当盤について最後にチョロッとだけ「鋭角的な気迫とオーケストラの表情の豊かさに圧倒される」とコメントしていた。よって、ちっとは気になっていたのであるが、ある日 amazon.co.jpで試聴(←「現在お取り扱いできません」ながら可能)してビックリ。第1楽章冒頭の推進力がまるで違う。(嫌いな評論家だがやはり侮れない。)それで欲しくなったのだが、廃盤のため中古を狙っていた。そんなある日、ANDANTEレーベルからベートーヴェンの「皇帝」「運命」などと組み合わせた2枚組が出るというので予約注文して入手した。
 このレーベルにはカラヤンの9番78年盤ページで散々ケチを付けたが、あるクラシック総合サイトによれば業績不振によりNAIVE(仏)の傘下に入ったのだという。高価(4枚組で約9000円)なだけでなく愛好家への裏切り行為(バッタもん販売)までしていたのだから、そうなったのも当然である。しかしながら、2枚組3190円というのは従来よりはマシかもしれないが輸入盤の相場から見ればまだ高い。もしセルによる併録曲(ベト4曲)の演奏を未聴でなかったら買わなかったところだ。(さらに難癖を付けると、三つ折りの変則型紙ケースからはDISC1を取り出すのが面倒だし、ブックレットは切れ込みに差し込んだだけなので脱落しやすいのも困る。)
 さて、そのベートーヴェンだが本当に素晴らしかった。特に「運命」は速いけれどもスケール感は抜群で、終楽章の数ヶ所で聞かれる猛烈な畳み掛けには心底圧倒された。「エグモント」序曲も張り詰めた雰囲気に思わず寒気を覚えてしまった。私はこれらの曲についてはケーゲルの日本ライヴを総合的に1位としているが、演奏だけならこのセルの方が上である。つまり、モノラル録音というカテゴリならダントツである。この演奏はもの凄く激しいが粗いところはほとんどない。というより、要所要所の締めに寸分の狂いもないことが尋常でない迫力の原因となっているのだ。これを聴いたら「不揃いなアインザッツ(あるいはアンサンブル)が却って得も知れぬ魅力を生んでいるところが彼の偉大さなのである」といったフルトヴェングラーへの讃辞がいかにデタラメかが判る。当盤のような優れたモノラルライヴが今後発掘されればされるほどフルトヴェングラーの地位は相対化していくだろう。
 そういう名演を聴いた後だけにブルックナーへの期待も当然ながら高まったわけだが、果たしてそれは裏切られなかった。第1楽章序奏の猪突猛進はまるで蒸気機関車が押し寄せてくるようで、どかないと轢き殺すぞと言わんばかりの迫力に恐怖感を覚えてしまう。スタジオ盤と聴き比べてみたが、半年しか隔たっていないこともあってか極端に解釈を変えているようなところは確認できなかった。当盤も所々でテンポいじりが聴かれ、どちらかといえば私の嫌う神経質な演奏なのであるが、メリハリの付け方ははるかに大胆になっている。また、例によってヴァイオリンの刻みが執拗なのだが、音が遠い感じでステレオ録音ほどは耳に触らない。(CBS盤が裸電球なら当盤は間接照明ということになろうか?)それらのお陰でオケを締め付けただけの窮屈演奏とは感じられないのが勝因ということかもしれない。要はこの曲にある程度のスケール感を求めたい私にとっては非常に好ましいのだ。第1楽章中間部や両端楽章コーダなど盛り上がり部分の巨大さは当盤の圧勝である。さらにスケルツォを聴き比べてみると、デッドな当盤の方が断然引き締まった感じであり、スタジオ盤は生ぬるく聞こえてしまう。SKDのケバケバしい音色もモノラルだとうまい具合に切迫感へと転じているようだ。不思議ではあるが録音が劣ることがプラスに作用するというケースは確かにある。「運命」同様この曲もモノラル部門では(クナの数種を差し置いて)最上位にランクさせることにした。

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