交響曲第5番変ロ長調
オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン
90/01/08〜13
Deutsche Schallplatten TKCC-15013

 東独御三家ことケーゲル、スウィトナー、レーグナーによる5番がいずれも70分そこそこの快速演奏というのは興味深い。もっともスウィトナーはオーストリア生まれだが。(マズアも入れたら「四天王」だが、彼の5番はどうだろうか?)その中でも、当スウィトナー盤は最も異色の演奏だと思う。
 私はモーツァルトの交響曲第25&29&31番は友人から借りたレヴァイン&VPO盤(のコピーテープ)に慣れ親しんでいた。後に同じ曲目のディスクを購入を検討していた時には既にレヴァイン盤は廃盤で、代わってベーム&BPO盤にした。(他にはホグウッド盤もあったが、当時は古楽器演奏を嫌っていた。)「ちょっと遅いかな」という印象を持ちつつ聴いていたのだが、立派な演奏で決して悪くなかった。ところが最後のトラック11(「パリ交響曲」の終楽章)が始まったところで一瞬何が起こったのか判らないほど大仰天した。レヴァイン盤とは全く別の音楽が聞こえてきたからである。最近「ベルリン・フィル物語」という本を読み、ようやく謎が解けた。ベームが使っていたのは旧全集の楽譜で、その箇所では新全集の2倍遅いテンポが指定されていたのである。(そのことを書いていた人も私と同様に驚いたようであるが、ベーム盤に慣れた人が始めてレヴァイン盤を聴いたら、もっとビックリするかもしれない。)そういえば、ベートーヴェンの速度指定にも問題が多いらしく、1分当たりの拍数が四分音符なのか八分音符なのかハッキリしないケースもあるようだ。それでテンポが倍違ってしまう。また、指定通りだと「速すぎて絶対に弾けない」か「のろすぎて間延びしてしまう」のいずれかになってしまう場合には、やむなく指揮者が両者の中間的な「常識的テンポ」を採用することもあるという例も、かなり前に「題名のない音楽会」(黛時代)で観た。これに対して、あくまで指定されたテンポは正しいと見なし、(常軌を逸した)ノロノロテンポで録音してしまったコブラという指揮者もいるらしい。実は当盤の第2楽章にも驚かされたということが述べたかっただけである。(それにしては随分長い「中置き(?)」だな。)
 耳慣れた音楽とは全く別物に聞こえたので、慌ててトラック冒頭に戻して聴き直した。そうすると、テンポが異様に速いということは判ったが、それでもやっぱりヘンだ。ピチカートをバックにオーボエが主題を吹くのはまあ良いが、0分53秒から弦が弾くところがグチャグチャに聞こえる。全く合っていない。休止後の第2主題(1分27秒〜)からはまともになるので、なぜあんな風にしたのか謎だが、「ちょっと合ってないけど、ま、いいか」とそのまま進めてしまったかのようである。そういえば、8番の解説書にて、宇野功芳は「気持ちの燃え方に極端なムラがある」とこの指揮者を評していたが、あるいはこの部分も、やる気の出なかった時の一例なのかもしれない。いったんは持ち直すけれども、相変わらずスタスタテンポのままで、8分20秒過ぎの木管の掛け合いはここでもテキトーにやってるかのようである。(その後すぐ立て直すが。)ここでも「大味で煮え切らない演奏」という宇野の言葉を思い出した。他の楽章はいつもの「策を弄さずに名演にしてしまう」スウィトナーであり、明るい音色による軽量級ブル5としてはトップクラスの名演になっているだけに誠に惜しい。ブルックナーの他の曲では遅い楽章でも見事な演奏を聴かせていた彼ゆえ、特に苦手とした訳でもあるまいが、どうしてこんなケッタイな(そもそもアダージョに聞こえない)演奏になってしまったのだろう?

2006年12月6日追記
 昨日捜し物をしていた時に訳あって当ページを閲覧しようとしたところ、「ページが見つかりません」との表示。私は基本的にフォルダ単位でアップロードを行っているから、特定ファイルのみ上げ忘れるという可能性は極めて小さいはずだが、それでも決してあり得ないことはない。しかしながら、それは悲劇の序章に過ぎなかった。
 ならばとハードディスクに保存してあったはずのWordファイルを開こうとしたのだが、スウィトナーのフォルダの中には肝心の5番評ページがない! これには愕然とした。今年7月末の模様替えの際にブルックナー関係のファイルを大移動させたけれども、同様にフォルダ単位で行ったはず(←「はず」ばっかしやな)であり、ここでもファイルの単独行動を許した覚えは全くない。要はうっかりミスでゴミ箱に捨ててしまうといった事態は想像すらできないということである。これは何ともいえず気持ちが悪い。とはいえ、このまま現実に目を背けている訳にもいくまい。早急に復旧しなくては! 少し前に「自転車琵琶湖一周」ページを上書きしてしまった時と同じく、検索サイトのキャッシュファイルを利用すれば何とかなるかもしれないと気を取り直した。
 ヤフーはダメだったがグーグルでは見つかった。これで一安心とばかりキャッシュページへのリンクを踏む。ところがところが、今度は「該当するページが見つかりませんでした」と出た。まさに茫然自失である。執筆してから既に2年近くが経過しようとしている。このところ記憶力の減退が著しい私にとって糸を手繰って復元するなど夢のまた夢。検索結果として本文が3行だけ表示されるものの焼け石に水だ。「もはや永遠に失われてしまったのか!」と天を仰いだ。(ちなみにgooやinfoseekもgoogleと同じサーチエンジンだから結果は同じである。)
 が、そこで諦めない(往生際が悪い)のが私の性分である。違うキーワードを入れると表示内容もそれに応じて少しずつ変化することに気が付いたのだ。それを何度か繰り返す内に(なぜキャッシュページ全体を表示できないかは不明ながら)どうやら全文が保存されているのは確かなようだと思い当たった。ならば、それをほじくり出せば良い。つまり異なる語句による検索(サイトはwww.ses.usp.ac.jpに固定)を幾度となく試み、その都度出てきた文字列を矛盾のない文章に組み立てようとしたのである。とはいえ、期待通りの結果がそうそう出てきてくれるはずはなく、次の文に進む目途が全く立たないということも一度や二度ではなかった。書いたことをスッカリ忘れてしまっており、何を手がかりにすれば良いかが思い浮かばなかったためである。こうなると「解体新書」の翻訳やバラバラになった恐竜化石の復元、あるいは制限酵素で切ったDNA断片からの塩基配列の決定と同じく(←「一緒にするな!」と怒られてしまいそうだが)気の遠くなるような作業にならざるを得ない。トライアルは何十回、いや100回以上にも及んだだろうか?
 そうして出来上がったのが上の本文である。あるいは一部が失われてしまっているかもしれないが、どうか勘弁していただきたい。ベストは尽くしたという自負はある。とにかく今回のトラブルには心底から懲りたので今後はMOでもバックアップを取ることにした。(なお数日後にはググっても検索結果に表示されなくなっていた。ホンマ危なかったぁ! ギリギリの所でファイル消滅を知ることができたのは何かの虫が騒いだからだろうか?)

5番のページ   スウィトナーのページ