交響曲第7番ホ長調
ウィリアム・スタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団
68/04
MCA Classics MCAD-9825A

 米MCA盤である。ジャケット他に "Double Decker" の文字が印刷されているが、"Double Decca" と少々紛らわしい。間違って買ってしまった人はいなかったのだろうか?(それが最初から狙いだったりして。)などといらんことを考えてしまった。もちろん私はそれほど愚かではない。
 ダブルとあるように2枚組で、DISC1のトラック1〜4までに当ページで採り上げるスタインバーグの7番、トラック5およびDISC2のトラック1〜3にクナッパーツブッシュ&ミュンヘン・フィルの8番(63年スタジオ録音)が収められている。ヤフーオークションで何度か見かけたものの、クナが被るので手を出す気にならなかった。ところが、今回はなぜかDISC1のみの出品、しかも「送料込み1000円ポッキリ(しかも即決)」だったのでさっさと落札した。(ポイントも利用したので結局800円台で入手できた。ちなみに「犬」通販で買い物すればすぐ溜まってくるGポイントであるが、今年(2006年)からYahoo!ポイントと等価交換できるようになったのは大変喜ばしい。従来はレート的に少々損(550G→500円相当)であってもアマゾンのギフト券に替えていた。ところが最近は「尼損」にて買いたいと思うようなCDがほとんど見当たらず、折角のギフト券も持て余し気味であった。他通販と比べると割高感がどうにも否めないためである(書籍は生協ショップから1割引で買えるから論外)。これが将来マーケットプレイスでも使えるようになれば価値も出てくるのだが・・・・)詳しい事情は知らないが、もちろんこの方が私にとってはありがたい。ついでながら、クナ8についても第1楽章を既所有のMillenium Classics(英MCA?)盤と比較してみたが、こちらの方がノイズ除去をやりすぎたのかパサついた音質だし、1分30秒過ぎで寸詰まりに聞こえる箇所があって幻滅した。元から前のめり気味だが、あそこまで不自然だと編集ミスなのは明らか。もう2度と聞かん。
 ここで肝心のスタ7(←強引すぎ)に戻ると、ネット評は一部を除いて上々だったし、昨年(2005年)12月にタワーレコードから「RCA PRECIOUS Selection 1000」(税込1050円)として発売されたボストン響との6番が(同時に買ったラインスドルフの4番にはガッカリだったが)そこそこ気に入っていたということもあって(上記ディスク評参照)、それなりに期待しつつ試聴に臨んだ。(ところで先に「一部」と書いたが、それはあるディスク評サイトを指している。作成者は廉価盤の蒐集および試聴に執念を燃やしていると思われるが、私とは好みが少なくとも120度は違っているような感じだ。ちなみに彼は2枚組を何と4USドル弱!で買ったらしい。)
 とにかく第1楽章冒頭のブルックナー開始の喧しさには驚いてしまった。ただし私はこういうのが嫌いではない。宇野功芳が褒めちぎっていたヴァントの4番BPO盤にも匹敵するだろう。1分18秒はさらにビックリ! 実は最初ヘッドフォンで聴いていたのだが、部屋の中に紛れ込んだキリギリスか何かの虫が鳴いているのかと勘違いしてしまった。決して冗談を言っているのではない。判ってみれば右チャンネルの低弦の刻みだったのだが、音を奏でているというよりは単にゴリゴリ擦っているような感じである。2分16秒からは対旋律を受け持っていたのでちゃんと楽器の音らしく聞こえたけれども、相当に強調されているという印象は変わらない。それは最後まで同じ。マイクをコントラバスのすぐ近くに立てていたのだろう。スピーカー(Companion3)で聴くとさほど気にはならないが、再生装置によっては耳障りと感じる人もいるだろう。
 68年演奏の割に音質はもう一つ。潤いに欠けるしヒスも耳に付く。演奏自体も速めのテンポを採り(トータル60分48秒)基本的にはかなりドライである。録音が相乗作用を及ぼしているといえる。ところが時に思い入れタップリという表情を見せる(聞かせる)。かといってブロック内(フレーズ途中)での尻軽加速ではないから許せてしまう。第1楽章コーダ17分22秒からのギアチェンジもこの程度ならOK。結果として18分ちょっとなのに結構な満腹感を味わうことができた。この高密度演奏はどことなくムラヴィンスキーと似ているように思ったが、あちらは21分以上かけていたからタイプが違う。そうなると近いのはロスバウトあたりか。
 第2楽章も省エネ演奏でお腹いっぱいにさせてくれる。名人芸である。特に印象に残ったのがピークを過ぎてから。17分59秒以降の何とも寂れた音色のワグナーチューバのソロがいい。葬送行進曲にはピッタリで、いつしかマーラーの5番第1楽章を聴いているような錯覚に襲われた。(そういえばネット上にも「マーラー的な演奏」というコメントがあった。)そこに18分45秒から合いの手を入れる金管群の音は非常に鋭く、このコントラストも面白かった。後半楽章でもテンションが下がらないのもロスバウトと似ている。(ただし、第34楽章の時間配分はかなり異なる。)スケルツォは最初からゴリゴリ攻撃を仕掛けてくる。他の楽器も負けてない。左チャンネルから流れてくる高音弦はかなりヒステリック。今更ながらUSAのオケが弾いているようにはとても思えない。このぶっきらぼうというか非情な感じはむしろ東欧の団体に近いのではないか。嵐のごとき凄まじい勢いで押し通した第3楽章に続くのは飄々としたフィナーレ。フルートソロが浮かび上がってくるのはムラヴィンやロジェヴェン風である。こうなると全く国籍不明だ。ひょっとすると当時のピッツバーグ響は共産主義国から逃げ出した団員が多くを占めていたのだろうか? またも余計なことを書いてしまったが、最後まで気合い十分の演奏に満足できたのは当然である。ただしオケは決して上手くないから完成度を求める人は避けた方が賢明だろう。

おまけ
 アダージョのクライマックス前にティンパニ乱打が聞こえたことから当盤は改訂版を一部採用していると思われる。ならばフライングホルンはどうだろうと思って改めて再生したところ、またもや驚かされた。0分58秒で前につんのめっている。というより、先述のクナ8と同じく編集作業の失敗であることは言を待たない。某国内レーベルのような杜撰な技術者がUSAにもいたとは。ガッカリだよ!

おまけ2
 スタインバーグは5〜7番以外の交響曲も録音しているようだが、入手が容易ではないこともあって特に固執はしていない。(売ってると思ったら息子ピンカスの方だった。)ただし、同じくピッツバーグ響と入れた4番だけは気になっている。というのも、レーヴェ改訂版としてはほとんど唯一のステレオ録音だからである。もっとも1997年発売のEMI盤(7243 5 66556 2 1)は既に製造中止だし、中古市場には法外としか言いようのない高価格で出品されているから気長に廉価再発を待つ。ところで、内藤彰という指揮者が東京ニューシティ管と「第3稿」を世界初演&初録音したというニュースを昨年「犬」通販で見た。実質的には改訂版と同じであるにもかかわらず敢えて「第3稿」としたのは、一般に使用されている2稿との連続性を強調することによって「弟子による改竄」というマイナスイメージを払拭するのが狙いだったのか? だとすれば姑息な感じがしないでもないが・・・・こちらも安けりゃ買ってやってもいい。

2007年8月追記
 上記4番が実際にはバイノーラルであると後に(ヤフオクでの落札後に)知った。

7番のページ   スタインバーグのページ