交響曲第5番変ロ長調
ウィリアム・スタインバーグ指揮バイエルン放送交響楽団
78/01/12
Lucky Ball LB-0014

 yahoo! オークションから入手。「スタインバーグ版を使ったブルックナーの交響曲第5番」と紹介されていたので、ついつい手を出してしまった(出品価格900 円のまま終了)。指揮者編曲による5番ということでは、何といってもロジェストヴェンスキーの84年ライヴ盤(REVELATION)が思い出される。終楽章コーダでの安物トランペットによる「パッパカパッパ」の連呼、さらにエンディングの「チャンチャカチャンチャカ・・・・・」という阿波踊り級の狂騒が再生終了後もしばらく耳から離れないほどの強烈演奏だった。なので当盤も期待して聴いた。
 約67分というトータルタイムからも予想されるように、両端楽章(ともに18分48秒)はシャルク改訂版を下敷きにしている。それは第1楽章冒頭のファンファーレ(2分05秒〜)や第1主題提示(3分14秒〜)におけるティンパニの鳴り方からも明らかだ。しかしながらクナやボトスタイン盤とは少なからぬ違いがあった。結論から言えば、スタインバーグの裁量(見識)によって改竄の採用は抑えられ、その分だけグロテスクさが軽減されている。例えば第1楽章の7分ちょうど、クナ盤では派手なドンチャン騒ぎになる部分もフツーに流している。両端楽章コーダにしてもティンパニ付加こそ耳に付くものの別働隊のブラスは雇っていないようだ。この点は評価の分かれるところで、おそらく刺激を求める聴き手には中途半端な印象を与えかねないだろう。現に私がそうだった。(ただし第3楽章ラストでの「ピロピロピロ・・・・」のように木管が妙なところで鳴ったりせず、居心地の悪さを感じずに済んだのはありがたい。)
 むしろ当盤では他に驚かされたところがあった。何といっても終楽章13分43秒のカットである。シャルク版ではその少し前(ティンパニの壮絶な連打の後、クナのスタジオ盤では12分50秒)からバッサリ切られているが、これなら「どうせ面倒臭くなって飛ばしたんだろう」と納得できなくもない。ところが当盤はジグザグ式に音が少しずつ高くなって「さあここからもっと盛り上がるぞ」という所でいきなり「やーめた」だから階段の昇りで空足を踏んでしまったような感じだ。(下手をすれば足を挫きかねない。)クレンペラーの8番NPO盤終楽章に匹敵する四次元殺法(ワープ)とも称せられようか。また大胆なギアチェンジにも仰天させられた。第1楽章冒頭は実に堂々とした歩み。楽章の基本テンポも遅めである。ところが10分14秒から突如加速してスタスタテンポ、そして10分47秒に急ブレーキ。まるでチェリビダッケとレーグナーが交替で登場するようなものである。終楽章の5分47秒を挟んでの攻防(?)も凄まじかった。こうなると、やはり「怪演」に含めるべきであろう。
 驚くべきは録音年月日。何とスタインバーグ(1899年8月1日生 ─ 1978年5月16日没)が78歳の時、しかも世を去る約4ヶ月前なのだ。にわかには信じられない。生涯を通じて剛球一直線(それも150km/h超)を貫いた指揮者がショルティの前にもいたとは知らなかった。
 ところで第2楽章はカット無し、ラストも「ソードーレミーソード」と原典版スタイルで締め括っている。第3楽章もスケルツォ主部終わりのティンパニ連打が少し違うようだが、他は逸脱していないようである。(J.F.Berky氏が当盤をノヴァーク版に分類したのも多分そのためだろう。)そして、私にとってはこれら中間楽章の方が出来が良いと聞こえた。これだけのハイテンションを最晩年まで保っていられたのであれば、どうせなら全曲を原典版で演って欲しかったというのが偽らざる気持ちである。
 最後に音質について。相当な風呂場録音のため大聖堂(教会)でのライヴ録音かと思ったほどである。が、ヘッドフォンで聴いてみたらテープの転写と判明。少しぐらいなら(カラヤン80年版同様に)残響の代わりを務めることができるだろうが・・・・かなり遅れて被さってくるのに閉口させられた。エアチェック後はほとんど再生されていなかったのだろうか? ヒスノイズも結構耳に付くし、左右の分離ももう一つ良くない。

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