交響曲第6番イ長調
ホルスト・シュタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
72/11/15
DECCA 476 2745

 (残された録音の数が少ない曲とはいいながらも)ブル6ディスク中では長いこと「定盤」の地位を保ち続けてきただけに速やかにコレクションに加えたいと思っていた。VPOの6番を聴いたことがなかったということもある。(ハイティンクは結局入れられなかったし、ベームやカラヤンも残さなかった。で、調べてみたらステレオ録音では他にムーティの海賊盤があるぐらいである。今後アーノンクールが採り上げる可能性は高いが・・・・これは迷うな。)ところが、廃盤のためあちこち探し求めたものの入手することができなかった。ようやくにして2005年に豪ELOQUENCEシリーズの廉価盤が発売、790円というお値打ち価格だったのでスダーン&メルボルン響の4番とともに入手した。(メータ&LAPOの4番は製造中止となったのか注文したが入荷しなかった。)ところが、これらのディスクにはおかしなところがある。
 私は今も基本的には「私の再生装置」ページの最新分に書いた装置を試聴に用いているが、2005年度からはパソコン(PowerMac G5、現在のOSは10.3.9)にディスクを読み込ませてからiTunesで聴くという方法も併用している。特定部分に素速くアクセスすることができるからである。ラジカセやプレーヤによる再生と比べ、異演奏の比較には圧倒的に便利だ。ところが、この豪ELOQUENCE盤はデスクトップにこそCDのアイコンが出てくるものの、どういう訳かiTunesのリストには上がってこない。「ひょっとしてCCCD(コピーコントロールコンパクトディスク)か? なら最初からそう書いておけ!」と憤ったが、OS 9.0.4を積んだ自宅のノートパソコンではちゃんと表示されるし普通に聴ける(ただしネットに繋がっていないのでディスク名やトラック名を取得することは不可能)から訳が解らない。試行錯誤の後、ディスク内の音声(AIFF)ファイルを開くことによって再生できることが判明した。(しかし、OS 9.2.2を積んだ別室のG4では「幽霊アイコン」ともいうべき容量ゼロのファイルしか表示されないため、それすらできない。)彼の国(豪州)ではフォーマットが少し違っているのだろうか?(実はここまでは予め書いておいたのだが、いざ上記の方法で試聴しようとしたところ、読み込まないどころか、しばらくするとディスクを勝手に吐き出してしまう。ところが、今日は別室G4のiTunesには普通に表示されるのだから全く以て理解不可能である。結局そちらで読み込んでからファイルをMOにコピーし、自室のG5に移した。あーめんどくさー!)
 試聴開始直後の弦の「チャッチャチャチャチャ」がスタスタテンポだったので、これは「つまらない曲のつまらない演奏」の典型ではないかと危惧したのだが、主題の裏を吹くホルン(0分51秒〜)が大音量だったので驚喜した。これはスクロヴァチェフスキ盤に匹敵する。とはいえ、ホルンは全曲を通して喧しかったから要は「録音の魔術」(DECCAによる全集録音の特徴)そのものに過ぎない(ベーム4番ページ追記参照)。つまりミスターSお得意の聴き手を驚かせるための「ワザトラ攻撃」とは似て非なるものであるから苛つかずに済んだ。1分37秒からガラッとテンポを変え、1分52秒でさらに逸脱する。以後もテンポいじりの繰り返しである。また4分31秒以降の盛り上げ方などは「くどい」と感じてしまった(他にも遅い部分では同様の「こねくり回し」が聞かれた)けれども、(他の曲なら御法度だが)退屈しがちなこの曲だから許そう。何だかんだ言っても密度(完成度とは別種)の高い音楽に仕上がっているのは確かだ。アンサンブルが精密という印象は全く受けないけれども、そのお陰か決してこぢんまりしてしまわないのもありがたい。ただし第2楽章は、もうちょっと落ち着いた音で鳴っていて欲しいという恨みが残った。弦の絡みが大変美しいものであっただけに。後半楽章は十分盛り上げてくれたので大満足である。

おまけ
 「クラシックB級グルメ読本」の序にて、許光俊は「まじめにやっているけれど、インスピレーションのない凡庸な音楽」の典型としてシュタインのワーグナーを挙げている。「退屈きわまりないベートーヴェン全集を作るサヴァリッシュとは違い、バカではないからCDを作らない」などと一応褒められてはいたが。ところが「クラシックCD名盤バトル」になると、生で聴いたクライバー&VPOの「リンツ」交響曲を回想して「どういうわけか、クライバーやホルスト・シュタインが指揮するとウィーン・フィルはことさら古い時代のような響きがして、ワルターが指揮したときもこうだったのだろうかと思わせた」と書いている。これも添え物ながらシュタインを褒めているのだろうか? それはともかく、当盤は先述のように出しゃばりホルンのせいで「古い時代のような響き」は残念ながら実感できなかった。ふと思ったが、ここにシカゴ響の騒音ティンパニが加わったらある意味最強だっただろう。真っ当な6番を期待する人には間違いなく最凶だろうが。

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