交響曲第8番ハ短調
ゲオルク・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
66/11〜12
LONDON POCL-4577

 8番だけVPOとの旧盤を買ったが、特に意図してそうなったのではない。中古屋で800円で売られていたのを見つけたからである。CSOとの演奏は単品ではしばらく廃盤状態で後に輸入廉価盤が発売されたが、2種類目を買おうとは思わなかった。それで正解だった。そのEloquenceシリーズはCSOとありながら中身はVPOとの演奏で、ダブり買いになってしまうところだったからである。2003年にCSOとの真正演奏(ザンクト・ペテルブルクでのライヴ録音)が国内盤の「デッカ・ニュー・ベスト100」として発売されたようだが、今のところ購入するつもりはない(追記:2005年11月入手)。
 9番はまさに模範的という演奏を行ったショルティだが、この曲では第1楽章8分32秒〜と8分40秒〜の2度にわたって急加速を行うなど、かなり激しい演奏を繰り広げている。ただし、金管がかなり全面に出てくるものの、CSOとの3〜7番のように聞き慣れない響きに耳を疑うということはなかった。それはやはり保守的オーケストラゆえだと思う。よく考えてみると、ショルティはこの演奏よりもかなり前からVPOとの共演を行っている。ゆえに遠慮があったのかもしれない。(未だ聴いていないが、ベートーヴェンの359番はなかなかの名演らしい。)ショルティの47番ページには、「ショルティ流がうまくいかなかった箇所があったからこそ彼のやりたいことがわかった」というショルティ&VPOの来日公演を聴いた許光俊の印象を取り上げているが、それだけ長いつき合いがあって何度もコンビを組んだ間柄なのにうまくいかないということがありうるだろうか、とふと思った。あるいは、CSOとの常任を長く務めている間にショルティの芸風がガラッと変わってしまったので、VPOのメンバーが戸惑ってしまったということはあるかもしれない。何にせよ、録音しか知らない私にはオケの音色の違いしかわからない。ディスク評なのでそれで何ら悪いことはないのであるが。
 演奏に戻ると、前半2楽章の演奏時間からすれば後半2楽章は相当速いと言わざるを得ない。特に終楽章は猛烈に速い。(ケース裏のトラックタイムは誤りで、正しくは20分45秒である。「18分25秒」というのはどこから出てきたのか?)また、曲想の変わり目で大胆にテンポを変えている。(基本テンポが速いのに加えてこういうやり方も私の好みではないが、ブロック積み上げ型のブルックナーの演奏としては間違っていない。)コーダのラストスパートはやりすぎの感もある。ただし、あくまでオケの伝統を尊重したのか、この楽章の冒頭でティンパニ奏者に皮が張り裂けるような最強打(この箇所が「ティンパニ協奏曲」状態になっているディスクは少なくない)を要求したりはしていない。結局、特異な響きは当盤では聴かれない。おそらくCSOとの90年盤では、ライヴということもあってショルティ節満開になっているものと想像するが、当盤では「八分咲き」といったところである。それでも「芸術は爆発だ」型の演奏と言うに十分ふさわしいと思う。ところが、同タイプでしかも同じオケを振ったシューリヒト盤を褒め、当盤を貶すような評論家や愛好家が巷には少なくない。それが私には全く理解できないのだ。

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