交響曲第8番ハ短調
ゲオルク・ショルティ指揮シカゴ交響楽団
90/11
DECCA UCCD-5011
ショルティ指揮による7番の新旧両盤の比較ではVPOとの旧盤に軍配を上げた。CSO盤の解釈には「ケレン」を感じてしまい、曲想とはミスマッチであると思ったからである。これに対し、8番なら多少の乱暴狼藉ならどうってことはないため評価が逆になることもあり得る。某掲示板のブル8スレでの評判も(派手な金管に対する評価がハッキリ分かれていたようだが)決して悪くなかった。また、「ディスク1枚に収まっているものとしては、この盤が最高、最強である」(「犬」ユーザーレビュー)、「一枚のディスクに収まっているものの中では最高の演奏」(「尼損」カスタマーレビュー)という(同じ人による)コメントも気になっていた。そこで後者サイトのマーケットプレイスで安く売られていた新品をゲットした。
聴き比べたところ、上記の予想通り当盤の方が印象は断然上であった。トータルタイム、トラックタイムが若干短いこともあって、ライヴゆえの勢いを感じるものの、解釈自体に大きな違いは認められないから要はオケの実力差が全てである。(同じ日に聴き比べたセルの3番2種の印象が主に録音の違いによって大きく異なっていたのとは対照的である。)例えば終楽章冒頭を比較すれば明らかであるが、VPO盤は何やらモタモタした感じだし響きが全然美しくない。ティンパニの「ダダンダダンダダン」が浮いているのを聞いていると、彼だけが一生懸命で他がチンタラ演奏している様子が目に浮かんで苦笑してしまった。一方、当盤は精度も迫力も全く申し分ない。再現部(12分20秒以降)の金管合奏の輝かしさはバーンスタインが振った「レニングラード」の終曲を思い起こさせる。さすがは最強(最凶?)のシカゴ響ブラスセクションである。(他曲でも聞かれたが、音をかなり引っ張るのでどうしても耳に付く。私は必ずしも嫌いではないけれども、後述するようにティンパニの重石がないために金管の独壇場と化したスケルツォはいくら何でもやり過ぎの感があり、思わず「喧しいわい!」と叫びたくなってしまった。)
ただし問題点もある。まず第1楽章1分30秒でアレッと思ったのだが、リズムがやや前のめりになっている。楽章終盤のカタストロフでハッキリしたが、どうもティンパニがフライング気味のようである。それが他の楽章でも繰り返されるためどうしても気になってしまう。ライヴゆえ聴衆までの距離の違いを考慮した(それをマイクが時間差として拾ってしまった)ということでもなさそうだ。基本的にはアンサンブルがピッタリ合っているから。(それゆえ帯の「ライヴとは思えないほどの完成度」には概ね同意する。)これでは推進力こそ強調されるかもしれないが、私にしてみれば「ショルティらしくない」ため興味半減である。
また、「ポンポン」という軽快な音色で弾力性が感じられるティンパニがこの曲に限っては不似合と感じられたのも惜しい。必要なところでは「ドロドロ」と響いてくれないことには重量感が不足してしまうのだ。スヴェトラーノフなどの馬力型演奏に馴染んでいたザンクト・ペテルブルクの聴衆は物足りなさを覚えたかもしれないと思ってしまったほどだ。ブル8用の楽器を現地で調達できなかったのだろうか?(とはいえ、トータル74分台の演奏としてはテンポと響きのバランスが取れているのかもしれない。)
よって先に引いたレビューほどの評価はできない。「1枚に収まっているものとしてはまずまずの出来」としておこう。
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