交響曲第7番ホ長調
ゲオルク・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
65/10/27
LONDON POCL-9566

 目次ページの註に書いているように、2004年度の廃盤CD大ディスカウントフェアで購入した。既にCSO盤を所有していたが、いくら何でも税込459円では見逃す訳にもいくまい。
 既にベーム4番ページで触れたように、当盤もVPOによる変則的全集録音の一環である。(それにしても、指揮者を曲によって変えるというのはやはり中途半端という印象が拭えない。この企画はあまり成功したとはいえないようだが当然であろう。)冒頭のブルックナー開始から非常に美しい。CD検索サイトには「ショルティのブルックナー第1作で、少し前の録音だが、一連のブルックナーの中ではこれが一番美しい」というコメントが出ているが全く同感である。50年代後半からソフィエンザールで行われたDECCA(LONDON)のステレオ録音には、私がこれまで聴いた中では(もちろん音質面に限ってだが)ハズレはない。ホルンの音が前面に出てくるという当シリーズの特徴がここでも認められる他、木管のソロが妙に生々しく聞こえたり、ヴァイオリンがほとんど左チャンネルからだけ聞こえるといったように、左右やパートの分離があまりにも良すぎるのは不自然なのかもしれないが、作り物としては成功しているといえるだろう。(ただし、アダージョのクライマックスで2度ばかりリミッターがかかっている。そのために音場が激しく動き、ヘッドフォンで聴くと気分が悪くなるので要注意。)
 第1楽章の5分過ぎから尻軽になって興醒めだが、これはベーム盤(スタジオ、ライヴとも)でも聴かれたVPOの悪い癖である。その後の6分29秒ではベームのような大袈裟な金管の咆哮はしていない。逆に、これはCSOとの録音でも聞かれるショルティの特徴でもあるが、1分40秒過ぎから金管群を全開にしたり、同楽章の最後の最後でテンポを落としてティンパニの炸裂でビシッと締め括ったりするところなど、指揮者の個性もしっかりと発揮されている。1950年代の終わり(ショルティはまだ40代だった)に録音されたベートーヴェンでもそうだったが、指揮者とオーケストラがともに自己主張をしつつも、アンサンブルが乱れることもなく、なかなかに優れた演奏を繰り広げているという印象である。
 ところが、8番ページでも触れたように、晩年の指揮者によるVPO来日公演を聴いた許光俊には、「ショルティ流がうまくいっていない」と感じられた箇所もあったらしい。そうなると、CSOの常任を長年務める間に著しく変化したショルティのスタイルに戸惑ってしまったのか、単に腕が落ちてしまったのか、あるいはその両方が原因で、オーケストラが指揮者の解釈に付いていけなくなったということだろう。後者(ヘタになった)については賛否両論あるようだが、そして私はどちらかといえば「賛」だが、ここでは触れない。問題は前者、つまり指揮者の芸風の変化である。新旧両盤を聴き比べてみると、それを感じさせるところは少なくない。例えば、新盤では上で触れた第1楽章の加速を行っておらず、代わりにその少し前の部分でテンポを落としてネットリと演奏している。このような部分的強調は第2楽章ではさらに顕著で、トラックタイムの差が最も拡大している。また、これも他ページで述べたように、CSOとの演奏では主にティンパニや金管の強打・強のために妙な響きと感じられることも多々ある。(VPO盤の「妙」は録音あるいはマスタリングの魔術によるものだが、CSO盤は明らかに指揮者の意図に基づくものであり、両者を一緒くたにしてはいけない。)このように、テンポや音量にコントラストを付けることで、指揮者は何らかの意味を付与しようとしているのだと私は考える。つまり、許の「こんな名盤は、いらない!」での「ショルティは、音楽から、あらゆる意味を取り去ってしまいたかったのだ」という意見にハッキリと異を唱えたいということだ。ではその「意味」とは何か?
 実のところ私にもよく解っていないので説明は極めて困難である。以下は甚だ抽象的で、ほとんど「ごまかし」になるだろうが勘弁してもらいたい。とにかく、ショルティはこの新大陸のオケの常任指揮者に着任して間もなく、「欧州のオーケストラとは同じことをしていてはダメだ、別のところで特色を出さなければこのオケの存在意義はない」と悟ったのだと思う。トルシエやジーコが「ヨーロッパや南米の代表チームを指導するようなやり方では絶対に強くならない」と考えたのと同じく。それゆえ、ブルックナーに限らずショルティ&CSOのディスクでは、他に例のないユニークな響きが聴かれるのだと思う。あとは曲との相性、そして聴き手の好き嫌いの問題だと思う。
 ここはCSO盤のページではないのでこの位にするが、向こうには「ショルティのシカゴ時代のスタイルによるブルックナーは7番には合わない」というようなことを書いた。つまり、一般性(←曖昧でヤだな)で上回る当盤の圧勝である。廃盤フェアで完売してしまったので、今後再発されない限り中古しか出回らないであろうが、もし両盤を中古屋で見かけたならば、そして新盤の方がかなり安いということでもなければ、迷わずこのVPO旧盤を手に取られることをお勧めする。

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