交響曲第7番ホ長調
ゲオルク・ショルティ指揮シカゴ交響楽団
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LONDON POCL-5138

 「名演奏のクラシック」に収録されている宇野功芳と宇神幸男(作家)の対談で、後者はショルティについて「シカゴ交響楽団をピカピカに磨き上げ、しかも強大な音量を出す装置にしてしまった。」「ひびきはこけおどし、音楽は人工的です。」と評していた。この頃(本の発刊は90年4月)は「人工的」と言っておきさえすればとりあえず(否定的に)批評したことになっていたのである。思えば実にお気楽な時代であった。(今なら「なにゆえに『人工的」ではいけないのか」までちゃんと説明しなければ、ネット掲示板などでアホ扱いされるであろう。)また、浅岡弘和も自身のサイトにてショルティについては「筆者にはオケがブカブカドンドンよく鳴っているにすぎない。」などと書いているにすぎない。一方、許光俊は彼らよりもはるかに深く考えた上でショルティについて書いている。さすがである。
 彼もかつてはショルティを単なる笑いの対象としてしか見ていなかったり(「こんな名盤は、いらない」)、「こいつ、頭が空っぽのバカじゃないか」と思っていたり(「生きていくためのクラシック」)していたようだが、ウィーン・フィルとの来日公演を生で聴いて認識を改めたという。長年コンビを組んできたシカゴ響ではなく、独特の強い個性を持ったウィーン・フィルを自分の流儀に従わせようとしたために、指揮者の抱いている音楽のイメージがよく解ったというのだ。「こんな名盤は、いらない」では、「ショルティは、音楽から、あらゆる意味を取り去ってしまいたかったのだ」というショッキングなコメントをしている。その後も否定的なコメントのオンパレードである(「極度に外面的な、しかしその外面の見事さには甲を脱がねばならないような音楽」「彼らはただとにかく美しく歌い、立派な音を美しく響かせるだけ」等々)。だから、私は「本当にそうだろうか?」と疑問を感じるとともに嫌悪感も抱いた。けれども、「生きていくためのクラシック」ではさらにもう一歩踏み込んでおり、当然こちらのショルティ批の方が見事である。この本でも、「ショルティが一番気を遣っていたのは音楽が、さしずめ空気抵抗を減らすべくデザインされたスポーツカーのようにかっこよく流れることだった」とあり、本質的には「こんな名盤は、いらない!」に書いてあることと同じであるが、それがデッカの「複数のマイクで録った音を絶妙に混ぜ合わせて、どの楽器も鮮やかに聞こえるように調整する」という録音方式のためであると考察している。それゆえに、上の挙げた音楽の流れがCDからは今一つ聞き取れず、逆に細かな刺激(特定パートの音)が強調されてしまう。(ショルティ目次ページに書いた昼食時のエピソードは、まさに「末梢神経を刺激する部分が妙にクローズアップされることになった」結果である。)許は「それがショルティの演奏を、悪趣味に感じさせてしまっていたのだ。」と結論づけていたが、私は別ページにあるように彼の指揮姿を「悪趣味」と思ったことはあるものの、音楽についてはそう感じたことはない。今思い付いたまま書くと「流麗だけどちょっとヘン」ということになるだろうか?(私が「悪趣味」と感じるブルックナー演奏は、ヨッフムとかスクロヴァチェフスキのように加減速を多用する指揮者によるものである。脱線するが、私は「悪趣味」にもかなり免疫ができていると思う。特に顕著なのが食生活で、多国籍だか無国籍だか判らないような料理を作るだけでなく、人にも薦めて時に顰蹙を買っている。さすがに昆虫は食わないが、「現代農業」に食べられると書いてあった野草は実際に食べてみないと気が済まない。)
 さて、「流麗」という点ではカラヤンと共通するが、それよりも響きがちょっと軽く、部分部分で妙なアクセントを付けている。これがショルティのブルックナーで、私はそれが結構好きである。ただし、この7番はダメであった。他の曲では「暴走型」の演奏をしている指揮者でもなぜかこの曲だけは「自然体」に聞こえてしまうのであるが、ショルティの場合は逆に7番だけは不自然なのである。まったく不思議である。(ただし「悪趣味」ではない。テンポ設定は妥当だし、ティンパニや金管が無茶な鳴り方をしているということはない。ショルティにしてはおとなしい演奏である。)両端楽章の終わりではテンポを落としつつ最後の1音を長く引っ張るが、(地味な6番ではこれがはまっていても)思わず「やめてくれー」と言いたくなってしまう。(CDだろうが生だろうが「不自然」と感じると思う。)2楽章クライマックスで「ドレミー」を繰り返し吹くトランペットの明るい音色も(4番では気にならないのに)耳障りで仕方がない。結局、曲との相性が悪いとしかいいようがない。長々と書いてきた割にこんなありきたりの結末になってしまい、当方も甚だ不満なのであるが。

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