交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ゲオルク・ショルティ指揮シカゴ交響楽団
92/11/16〜17
LONDON 440 316-2

 79年の6番で始まったCSOとの全集録音は、その後5→4→9→7→8と進み、初期の交響曲が後に残された。この3番は90年にレニングラード(現ザンクト・ペテルブルク)でライヴ録音された8番の2年後の演奏である。当然(3番以前を基本的に買わない私にとっては)、私が所有している中では最も遅い時期の録音になる。とはいえ、第1弾の6番とは13年の開きはあっても演奏スタイルが大きく違うということはない。しばしば言われるように、この人は良くも悪くも「円熟」とは無縁の指揮者であった。知らずに聴かされたら80歳の指揮者による演奏とは思わないだろう。
 ディスクをトレイに入れたらトータルタイムが59分半だったので、「意外と遅いなあ、もしかしてショルティにも遂に老人性弛緩病の魔の手が?」と思った(やはり「円熟」の二文字は思い浮かばなかった)のだが、聴いてみたらノヴァーク版第2稿と判明した。だからテンポとしては特に遅いということはない。むしろ、ショルティが3稿と比べたらはるかに地味な2稿を使用したことの方が意外に思った。ここからはハイティンク盤の裏返しになる。つまり地味な曲を豪華絢爛に演奏してくれているので退屈しない。所々で(時に不可解な)ブラスが咆哮、ティンパニが炸裂し、ここでも「ショルティ節」全開だ。例えば第1楽章の1分少し前や1分30秒、2分30秒頃のメロディラインをうち消してしまうような鋭い音色の金管。この楽章のピーク(11分40秒)までの進め方も大変立派だ。インテンポで進めるのがまず良い。ピーク直前では対旋律の金管がよく聞こえるため混沌のように聞こえるのだが(ただし響きは全く混濁しない)、そのような状況からユニゾンに移るという対比が面白い。マタチッチとは全く違うやり方だが、フツーにやったら退屈でどうしようもない2稿のこの箇所に劇的な演出を施している。トカゲの尻尾みたいなスケルツォのコーダも阿鼻叫喚のような演奏なので退屈せず聴けてしまう。終楽章も最初から最後まで隙のない見事な演奏で、ラストのテンポを落としての着地も見事に決まっている。2稿のエンディングは3稿はもちろん、初稿よりも詰めが甘いと私は思っているのだが、それを感じさせないのは当盤だけである。(マタチッチはここは改変している。)ショルティのブルックナー中では6番の次に私の好きな演奏である。

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