交響曲第7番ホ長調
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮NHK交響楽団
99/01/21
Altus ALT-030

 「朝比奈というのは本当に大した指揮者だったんだなあ!」

 NHK-BSが「クラシック・ロイヤルシート」枠を4週連続で使った特集「朝比奈隆の芸術」の3回目に放送されたシカゴ響とのブル5を聴き、私は改めてそう思った。この演奏を耳にしたのは2度目だが、ユルユルで中身スカスカという印象は前回(いつだったかな?)と寸分も違わなかったのである。(ちなみに指揮者紹介ページで触れた聴衆1名による「ダメだコリャ」のシーンの前で映像は切られていた。)海の向こうの、しかもUSAを代表する名門への客演時ですら自分の芸風を貫き通し、普段振っていた国内オケと同じ色に染め上げてしまうとはやはり只者ではない。とはいったものの、もしかしたらこれはCSO側の問題かもしれない。少し前に聴いた他指揮者による演奏(何だったかは忘れた)でも妙に音密度が小さく、虚仮威しみたいに響いていたから。そういえばハイティンクの7番新録音(2005年)でも精彩を欠いてたが、間もなく80歳を迎えようとする高齢指揮者に立て直すことができるのか、ちょっと心配である。
 それはさておき、番組の後半で流れたN響との8番の方がずっと充実していると私は聴いた。(あくまで相対的だが。時に粗さが耳に付き完成度イマイチと感じたのはフォンテックのCDを聴いた時と全く同じである。)翌週の4&9番でも響きの豊かさは確認できた。ということで、進境著しい同楽団による7番が聴きたくなったから当盤に手を出した、のでは断じてない。発売時にはオケ名を知った瞬間に興味を失ってしまったぐらいだし・・・・また既に本サイトでスクロヴァチェフスキによる他盤のレビューを読まれた方ならお判りのように、時に首を捻りたくなるほどの奇抜な解釈が災いし、この指揮者のブルックナーをさほど高く評価できなかったという事情もある。
 シューリヒトの8番VPOと同じく、やはり大幅値下げ(税込1050円)による値頃感が決定的だった。これならスカだったとしても腹を立てずに済む。また、ザールブリュッケン放送響との全集録音でも第1弾の7番は例外的に真っ向勝負を挑んでいたから、そこそこ期待してもいいだろうと考えていた。で、結果はその通り。
 7番に限らず効果狙いのギヤチェンジは採用しないMr.Sだが、ここではパートバランスが妙と感じさせるような箇所もなく、最後まで曲に浸り切れたのが大きい。特に聴き応えがあったのがアダージョ。冒頭の弦のうねりから完全に圧倒されてしまった。アンサンブルの精度の高さも忘れてはならない。統率力に優れた指揮者が振ればこの位の演奏はできるだけの腕を持ち合わせているということだ。出来映えはザール盤を断然上回る。ブラインド試聴で「ダメだ。これは日本のオーケストラだな。」とズバリ言い当てられるような評論家がいたら、ぼくはその人の顔が見たい(←もちろんパクリ)。客演指揮者によるN響のブルックナーといえばマタチッチの8番(特に84年盤)が何かと持てはやされるような感があるけれども、真に後世に伝える価値があるのはこっちの方だと言い切ってしまおう。

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